「いやー、税務調査が入っちゃってさぁ、参ったよ」
仕事柄、多くの経営者にお会いするが、こんな話をよく耳にする。
中小企業にとって「税務調査」、通称「税調(ゼイチョウ)」というのは何とも億劫なものだ。
あくまで任意の調査とは言え、原則的に断ることは出来ないし、特にやましいことがあるわけでもないはずなのだが、そもそも税務には白黒つかない「グレーゾーン」が多く、自分たちの解釈が「正解」なのかどうは税務調査を受けるまで分からない。
また、そのような純粋な「税務」の話とは別に、
何となく腹が立つ
というのが多くの「社長さん」たちの心情でもある。
そもそも調査に応じる手間が膨大な上、普段税務をお願いしている税理士先生に別途「立会料」も支払わないといけない。
税務署から「疑われ」、我が身を守るために時間もコストもかかる。
「うちなんかに来ないで、もっと儲かっている他所へ行ってくれよ」
というのが本音だろう。
こんな時、海千山千の経営者たちは、その憂さを晴らすために様々なテクニックを弄する。
一言で言えば「嫌がらせ」とでも言おうか。
ある社長さんは税務調査には「大幅に遅れる」と豪語していた。
税務調査官が会社に着く。
会議室に通し、5分、10分、15分、20分経過し、調査官がイライラし始めた頃、
「ではやりますか」
と登場する。
相手を怒らせて主導権を握る「宮本武蔵流」とおっしゃっていたが、毎回、頭に来た調査官にこっぴどくやられるらしい。
ちなみにこの会社は通常、4,5年おきであるはずの税務調査が「ほぼ毎年来る」そうなので、きっと何か問題があるのだろうが、社長の態度もその一因かもしれない。
調査の時に「ものすごく硬いイス」を用意する。
という話も良く聞く。
調査官が来たら少々傾いたような固い木の椅子を与え、
「ケツから攻める」
ということらしいが、少しでも不快な思いをさせて、なるべく早く帰って貰おうという魂胆。
しかし、調査官の方もなかなか上手で、「痔がひどいので」と、マイ座布団を持ってくる人もいるそうだ。
そして、私が聞いて思わず笑ってしまったのは、
「序盤戦ジャブ1000発作戦」
だ。
税務調査は通常2日に分けて行われる。
初日の午前中には「概況調査」と言って、その会社についてのヒアリングがされ、どのようなビジネスか?取引先は?お金の流れは?社長の経歴は?及び創業の経緯など、経営者本人に聞き取るわけで、税務調査の第一歩となる。
ある社長は、まずここで
「無茶苦茶長い話をする」

特に創業の経緯や、自分の経歴などの「どうでも良いこと」に20分、30分と話を続け、時には目に涙を浮かべ昔の苦労を語る。
そして肝心のお金の流れなどは「あれ?どうだったかな?〇〇くーん!!あのさー」などと言って会議室を出て行ってしまう。戻るのは10分後。
そして、
「よく分からないので調べておきます。」
まさにタヌキである。
調査官が「もう良いです。。。。」と言うまで、これを繰り返し、相手の体力と思考能力を奪うとのこと。まさにジャブ1000発で戦意を削ぐ作戦と言える。
まあ、この手の小細工がどれほど効果があるのか分からない。
むしろちゃんと対応している会社の方が、すんなり調査が終了している気もするが・・・
そう言えば、既に亡くなった私の父も会社を経営していたが、税務調査が来る度に
「俺は子供の頃、東京大空襲で焼き出され、国に苦労させられた。だから陛下から生涯免税の勅旨を頂いている。」
そう嘯いていた。もちろんそんな事実はない。
更には、ポカンとする調査官を前に、
「お前には苦労をかけたな。朕のはからいで税を免除してやろう。」
と畏れ多くも昭和天皇の口ぶりを真似て演技をする。
時代が時代なら不敬罪で逮捕されてしまうような話だが、当人も鬼籍に入っているので、何卒ご容赦頂きたい。
ちなみにその真似が意外と似ていて、まるでそこに陛下がいるように後光が差し、恐縮した税務署はすごすごと退散していく。
と、なるはずもなく、調査官からは
「それは凄いですねー、こちらで宮内庁に確認しときますわ」
とサラッと流され、結果、色々と指摘され、結構な金額のお金を持っていかれていた。

父は一人つぶやく、
陛下から免税と言われているのに、こんなに払ってしまった・・・
こりゃ、勲章くれるかな!!
何ともおめでたい。THE・中小企業のオヤジ。という感じだ。
もちろん勲章に関しては生涯お声がかかることはなく、「無冠」のまま世を去ったことは言うまでもない。
むしろ勲章を頂けるのはあちらの方、つまり税務署の人たち。
大規模税務署の署長くらいまでに出世すれば、70歳過ぎに「瑞宝小綬章」という勲章を頂戴出来るのである。
払う方ではなく、取る方に勲章を与える。
国がいかに国民から税を取ることを重視しているかよく分かる。
「徴税」という国の根幹を担う税務署と、日本の産業を支える中小企業。
その戦いは続いていくのである。
本日のコラムでした。
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