ZOZOの前澤社長が心臓病を患う3歳の上原旺典君の支援を呼びかけ、結果、手術に必要な3億5,000万円が集まったそうです。
このような「〇〇ちゃんを救う会」という活動を私が知ったのは、前職の外資系生保に入社した20代後半。
全国に3,000人以上の営業マンを抱え、それら全員が色々なご家庭とお付き合いしているものですから、難病に苦しむ子供の募金活動は必ず誰かしらの耳に入ります。
そして、そのことを知った社員が全社に募金を呼びかけるのです。
横のネットワークで各支社に「募金箱」が作られ、ミーティングでマネージャーが主旨を説明。
仕事柄、病気で苦しんでいる人ばかりを見ているので、誰もが他人事とは思えず、売れている先輩が募金箱に万札をポンポンと入れ、それを呼び水にお金がない人も1,000円、500円と自分が出来る範囲で援助する。
外資系生保の営業マンなんて、私も含めてがさつ & 強引な人ばかりですが、根は人情家で気持ちの良い男たちなのです。
だいたい年に1件くらいこのような話があったのですが、心臓病のお子さんが多かったように思います。
しかし、当時の目標額はせいぜい5,000万円から8,000万円程度。
それが今では3億円、4億円になっています。
本日は移植に関する3つの事実のお話です。
① イスタンブール宣言
「高騰」のターニングポイント。
2008年のイスタンブール宣言。
イスタンブールで開催された国際移植学会で採択されたもので、その内容は安易な移植ツーリズムを禁止し、原則「移植は自国内で完結するべき」というもの。
この結果、ヨーロッパでは他国からの移植患者の受け入れを停止し(以前はドイツの受け入れが多かった)、現在では「アメリカだけ」が海外患者を受け入れています。
なお、これを受けて日本でも2009年に15歳以下の臓器提供を認める改正法が成立(2010年より施行)したものの、臓器提供の認知度が低いため、国内での子供の移植手術は海外に比べ極端に少ないのが現状です。
選択肢が「アメリカ一択」になったので、費用が高くなった。これが高騰の原因の一つです。
そしてもう一つの理由が「5%ルール」です。
② 5%ルール
唯一海外からの患者を受け入れているアメリカですが、自国にも多くの患者が「移植の順番待ち」をしているため、それを差し置いて他の国の患者ばかりを治療するわけにはいきません。
そこで「5%ルール」というものが導入されました。
これは「前年に行った移植数の5%」は、海外の患者に割り当ててもOKというもの。
この「5%枠」に日本を始めとする全世界の患者が殺到しています。
言い方は悪いですが、この枠をめぐり「競り」のような状態になっており、そのため3億円とか4億円とかいう破格の「デポジット(前払い金)」を要求される事態に。
限られた枠なので「出来るだけ病院に『貢献』してくれる方に」ということなのでしょう。
アメリカの価値観からすると、ある意味では公平なのです。
③ 高額な治療費は「割り込み料」なのか?
なお、このような高額な移植費用の話になると「日本人が『割り込み』で移植を受けるための賄賂だ」という批判がありますが、これは何とも難しい問題です。
興味があったので、色々調べてみたのですが「そうでもあり」、「そうでもない」という曖昧な結論になりました。
アメリカでは年間2,000件以上の心臓移植手術が行われています。
その「5%」が海外枠なので、おおよそ100件程度。
つまり、
アメリカ人 1,900件
外国人(日本人など) 100件
という内訳です。
まず、前述の通り、この5%の「移植枠」を取り合っていることは事実です。
その点では国が裕福で、寄付も集まりやすい日本人は絶対的に有利と言えます。
残念ながらどこかの国の「〇〇ちゃん」が、その競争に負けて手術を受けられないということはおこりえます。
一方、アメリカ人に対して「割り込んでいる」のか?と言うと、これはそうでもなさそうです。
「海外枠」の100件は高額な治療費を負担し、わざわざ海外からやってくるわけですから、相当に緊急度が高い(補助人工心臓装着:ステータス1相当)ことが推測できます。
対して、アメリカ国内の1,900件には緊急度が低い患者も含まれ、全体の4割程度がステータス1以下とのこと。
なお、移植を行うまでの待機期間は、日米で以下のようになっています。
日本 1,174日(約3年)
アメリカ 56日(約2ヵ月)
日本で心臓移植を受けようと思えば3年間という絶望的に長い期間を待たないといけませんが、アメリカでは2ヵ月程度で移植が受けられていることになります。
また「平均で56日」なのですから、緊急度の高い患者さんはもっと短い期間で移植を受けていることが推測され、5%ルールの患者がこれらの方々より「優先されている」とは考えにくいのではないでしょうか。(緊急度が低い患者さんに割り込んでいる面はありますが)
寄付をすることでその子を救うことになるが、別の子の「枠」を奪うことにもなる。
全員を救うことは出来ない。だったら少しでも「縁」のある子を助けよう。
どちらも正解で、何とも難しい問題です。
あるドクターは「自分には選択は出来ない。だから、寄付はしない。」とはっきりおっしゃっておられました。
職業的な使命感もあるのでしょうが、私自身はそこまで確固たるものがあるわけでもなく、前職の頃も、これらの問題を認識しつつも、何となく寄付していました。
根本的な要因は日本国内でのドナー提供の意識改革が遅れていることで、病気や事故で亡くなってしまったお子さんの臓器を提供する仕組みがもっと広まれば、わざわざアメリカまで移植を受けにいかなくても済むのです。
しかし、これもまた、自問自答してしまいます。
仮に我が子が不慮の事故で脳死になった時に、心臓、肝臓、腎臓、角膜。それらを他人に提供できるか?ちなみに私は自分自身はドナー提供登録をしていて、使えるなら何でも使ってくれ。というスタンスです。
でも自分の子供だったら?
正直、決断出来ないと思います。
私からしてこうなのですから、ドナー提供が進まないのはある意味では国民性に由来しているのではないでしょうか。
対して、アメリカでは何故これほどドナーが多いのか?
それに関して、4つ目の「事実」を。
アメリカの子供の心臓のドナーが多いのには理由があります。
まずベースとして、移植への理解があるため、親が移植を承認する可能性が高いこと。
そしてもう一つは先進国の中で子供の死亡率が極めて高いことです。(先進国トップ)
その主な原因は貧困と銃犯罪。
実際、ドナーとなった子供たちの死亡原因では、1位が交通事故、2位が虐待死となっています。
子供の虐待死が多いアメリカでは、その被害にあって亡くなった子供の臓器は、親の承認がなくても原則的に移植を待つ患者に提供される仕組みが整っており、(州ごとの判断基準がある)結果、年間100件以上の「虐待死」の子供の臓器(心臓以外も含む)が提供されているのです。
どこに生まれるか?どんな親を持つか?
この時点で、命の選択がされているのかもしれません。
本日のコラムでした。
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