経営者は新しいビジネスの話が好きだ。
世の中にはこんなニーズがある。こんな問題がある。
それを解決するビジネスがあれば絶対うまく行く。
ある種の社会問題をテーマにした大喜利のようなものだが、こんな会話の中から斬新な事業が立ち上がることもあるのだから面白い。
この流れの中で、先日、ある社長と
小さい子供を抱えるママたちを救うビジネス
というテーマで盛り上がった。
本日はそんなお話。
「可愛いけど、大変・・・」
小さなお子さんを持つ母親の本音だろう。
特に子供が2人、3人となると、時間的、物理的な限界を超える場面もあり、時には精神が追い込まれる。
そんな時、父親が出来ることは何か?
妻を一人にしてあげる
それが一番の孝行だ。
丸一日とまでは言わなくても、5,6時間子供を連れて外出する。
その間、お母さんは家の雑事を済まし、ホッと一息つける。
空いた時間で映画や本を楽しんでも良いし、ゆっくり昼寝をしても良い。
この「自由な時間」こそが最大の贅沢と言える。
しかし、世のお父さんはそのあたりの機微を理解しないので、
「たまには子供を実家に預けて、夫婦2人で美味しいものでも食べにいこうか?」
などと、的外れな提案をしてしまう。
「あんたと食事して、楽しいわけないでしょ・・・」
正直にそう言うわけにもいかず妻の方も「まあ、そうねぇ」などと生返事を返す。
そんな気のない態度に、
「何だよ。折角、ねぎらってやろうと思ったのにさ。チェッ!!」
などと、夫が上から目線&拗ねた態度でも取った日には、
「私は子供達のお世話で精一杯です!!ああ、神様、この風貌だけおっさんな『長男』をどこかに連れ去って下さい・・・」
心の中でそう祈られるのが関の山である。
このような鬱憤がいつしか憎しみに変わり、熟年離婚に繋がるというのが私の唱える学説。
妻が望んでいるのは、食事でも、プレゼントでもなく「自由な時間」
こんな簡単なことも分からないのだから、男、汝は愚かである。
とは言っても父親単独で子供を連れて外出するのは、実際のところ大変。
子供1人ならまだしも、2人なら修行、3人ともなれば苦行。ミッションインポッシブルである。
そもそも平日忙しく、ほとんど子供との接点がないお父さんなどは、
「子供を連れて家を出たは良いが、何をすれば良いか分からない。」
という「はぐれパパ」が多いそうだ。
ある社長とそんな話をしていたところ、
だったら、そんなパパを集めてイベントを開催すれば良いのでは?
という新ビジネスが閃めく。
学生時代、ディスコを貸し切ったイベサー(イベントサークル)に所属していた根っからパリピ社長ならではの発想だ。
子供が喜びそうな会場を貸し切り、ベビーシッター数人を用意する。
お父さんは「子供を連れてくるだけ」で良い。
あとは、イベント主催側で子供が喜びそうな企画を行い、面倒はシッターがみる。
中には率先して他の子供と遊んでくれるお父さんもいるだろう。
そして子供が遊ぶのもを眺めつつ、父親同士で交流してもらう。
子供たちも満足。お父さんも楽。そしてお母さんも大喜び。
何と素晴らしいアイディアだ!!
やっぱり子育て関連のビジネスは世界を救うよねぇ~
などとおっさん二人が盛り上がっていると、応接セットの斜め前に座っている社長の奥様が白々しい顔でこちらを見ている。
そして唐突にこう問う。
「それ、いくらとるの?そのイベント」
社長が答える。
「そうだな。会場のレンタル代、シッター代、そこに利益を乗せると1万くらい?いや、1.5万でもいけるかなぁ。ゴルフだってそれくらいするんだからなぁ~」
横で、ウンウンと頷く職業的イエスマンの私。
「バカじゃない?そんなものに1万も払うなら『私が面倒見るから私にちょうだい!!』それがお母さんの本音よ。」
一瞬で勝負が決した・・・
こういう時、保険屋は冷たい。
確かに!!要は『子供の面倒を見る』というのは1万円以上の価値がある。
そういうことでげすね?
一瞬で社長から奥様に鞍替え。
おまけに「げすね?語尾」まで反射的に使ってしまった。
太鼓持ち業界で江戸時代から続く伝統語尾だ。
「お、お前・・・さっきまで・・・」
あまりの変わり身の早さに、社長の目には驚愕の色が浮かんでいたが仕方ない。営業マンは強い者の味方なのだから。
「あのさー、母親は自由な時間も欲しいけど、それをお金で買いたいわけじゃないの。分かる?だいたいそんな怪しいイベントに来るシッターなんて信用出来るの?あんたは何を努力したの?」
女性特有の「?責め」だ。これは鞭責め、ろうそく責めよりきつい。
そして、「世のお父さん」の話のはずが、いつの間にか「あんた」に代わってしまっている。
「そうですよ。。社長。お母さんと同じ労力、同じ愛情で子供に接して面倒を見るから『代わる』ことになるんです。お金じゃないないんですよ。。。」
これに乗り遅れたらヤバい。駆け足で「奥様特急」に飛び乗る。
「お、お前、汚すぎるだろ!!」
そんな目で社長が私を見るが、こちらとしては死んだ魚の目で返すかしかない。
奥様からは「そう、加藤さん良く分かってる」とお褒めの言葉を頂戴した。
特急の指定席に座れて一安心だ。
引き続き奥様から社長への詰問が続き(最後は関係のない無駄遣いの話)、社長がボソボソと言い返すものの最終的には
そんなビジネス、上手くいくはずがない!!
楽しようとせず、お父さん達はちゃんと子供の面倒を見なさい!!以上
と断罪された。横には腕を組み「うんうん」と頷く私。
こうして「お母さんを救うビジネス」は日の目を見る前に死んだのである・・・
本日のコラムでした。
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