数年前、
「LGBTマーケットには保険のニーズがあるのでは?」
という視点から、その可能性を探ったことがある。
実際にLGBTの方々や、二丁目のゲイバーのママに相談に乗ってもらい、それらの縁からゲイの方向けのweb媒体で記事を執筆させて貰ったりもした。(以下の記事、リンクはコチラ)
しかし、なかなか結果が出ず、企画そのものが立ち消えとなってしまったのだが、その過程でLGBTの「人生観」、「老後と死」、「お金事情」などを伺えたことは大変貴重な経験となった。
とは言っても、何か特殊なことがあるわけでもなく、基本的には「老後が心配」、「病気になったらどうしよう」など、皆が思う悩みと変わらない。
但し、
「子供が出来ない」
という点に触れる方は多く、それがより一層老後への心配に繋がっているようだった。
まさに今回、ある国会議員が言った、
「生産性(あえてこの稿ではそう言う)」
についてだが、それは独身者や、お子さんのいないご夫婦でも同じ話で、更に言えば、子供がいたからと言って老後が安心なわけでもなく、むしろその子供の出来や素行が悪ければ年老いてからも迷惑をかけられる。
仕事上、そんな事例を多く見ている私からすれば、
「子供がいてもいなくても結局最後は一人ですよ。」
などと、坊さんのようなことを言うしかない。
これらのリサーチで、ある方から聞いたお話が非常に印象的だった。
ゲイである彼は自身を「蟻」に例えて、
「私たちは、2:6:2の『2』だから」
と言う。
「働き蟻の法則」
蟻のコロニー(巣)では、2割の蟻がよく働き、6割が普通、残り2割の働きが悪い。
その分類の中で、自分たちは「働きの悪い2割」だと言うのだ。
私たちは子供も作れないから世の中的には「下の2」だよね。
親にも申し訳ないし・・・
わざわざお偉い先生に指摘されるまでもなく、「生産性」については重々理解している。
税金も社会保険料も支払っているので、何一つ非難される筋合いはないものの、子をなさないことへの多少の後ろめたさを持つ。社会に対して、何より親に対して。
未婚女性の「産まない」感情と同じような印象だった。
働き蟻の法則と性的マイノリティーの問題を一緒くたに論じることは出来ないし、私はその専門家でもないので、ここでは取り上げない。
しかし、「蟻の法則」だけに絞って言えば「働かない2割」が意外と重要であることを彼に告げた。
経営者はやたらとこの法則の話が好きで、聞く機会が多いので良く知っている。
主題からは少々逸れるが、この手の問題とは切り離せない「多様性」を述べるためにここで触れておきたい。
なお、多様性の例として取り上げるのであって、LBGTが本当の意味での「働かない2割」だと思っているわけではなく、その点はご理解頂きたい。
話を続ける。
実は全てが「よく働く蟻」だと、そのコロニーは滅びてしまう。
よく働く蟻は目の前の仕事に即座に取り組む。そして長時間働くが、どこかで疲れのピークが来る。
全員が「よく働く蟻」だと、短期的には作業効率が上がるものの、同時期に「疲れ」が来てしまい、そこで効率が一気に落ちてコロニーは危機に瀕する。
すぐ動き、よく働く一軍
やや遅れて動き出し、そこそこの二軍
なかなか動かない上に、働きも悪い三軍
「働き方」の違うこの3つのグループが重なり合うことでコロニーの活動が継続される。
一軍だけだとコロニーが全滅してしまうことはコンピューターシミュレーションでも明確になっており、一見不効率に見える「働かない2割」が実は大事な役割を担っているのである。
また、この「2割」だけを集めてコロニーを作ると、再び2:6:2に分かれることは有名な話。
要はその構成がコロニー存続、更に言えば遺伝子を繋いでいくという「目的」に最適化された状態なのだろう。
「多様性」の一例と言える。
彼にそんな話をすると、目を潤ませながら、
「加藤さんって優しいね」
と、少々おかしな雰囲気になったので、急いでその場を後にした・・・
仕事柄色々な企業にお邪魔するが、この「2:6:2の法則」は多くの組織に共通し、働きが悪い「2」は、時に経営者にとっては悩みの種にもなるが、かと言って、これらをリストラする人はあまりいない。
それどころかそんな社員に優しい社長が多い。
今から20年近く前の話になるが、私が新卒で入ったIT企業の社長は、一代で会社を一部上場にまで成長させた人物で、ある時この「2:6:2」について、
「下の2割に目くじらを立てる組織は脆い」
と言っていた。
当時若かった私は「そんな奴らクビにして、その分給料上げてくれよ・・・」などと思っていたが、今はその発言の深さが分かる。
優秀な経営者であればあるほど、
「組織には色々な人材が必要」
と考え、大きな度量で多種多様な社員を引き受ける。
直感的に多様性のメリットを理解しているのだろう。
さて、例の先生。
国会議員である以上はこの国の経営陣の1人ということになるが、どうやら過去の成功に捉われるタイプのようだ。
この国の輝かしい過去。
高度成長期からバブルまでを牽引したのは、
「結婚、出産、育児(専業主婦)、勤労、納税」
がセットになった模範的な国民で、現在ではそれらは貴重な「よく働く2割」になってしまった。
それをもっと増やして「過去の栄光よ再び!!」
そんな幻想を夢見る人たちの本音を、あのオバサンが代弁しただけなのかもしれない。
そして、その観点からすればLGBTは、いや、広義では結婚しない人も、子供を作らない夫婦も
「働きの悪い2割」
となる。
しかし「働く2割」だけではコロニーは滅ぶ。
それは蟻たちが教えてくれている。
本日のコラムでした。
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