大塚家具 親父に頭を下げる久美子社長の凄味・・・


約1年前。

懇意にしている経営者と新宿の大塚家具を訪れたことがある。

その方は「大塚久美子ファン」を自称しており、経営方針に賛同しているのか、ビジュアルが好きなのか、おそらくは後者のようだったが、

「久美子ちゃんを応援したい。大塚家具の株を買おうかな?」

と言う。

冷静に「やめておいた方が良い」と忠告したが、イマイチ納得していないので、

「応援したいのであれば、株など買わず、家具を買ってあげれば良いのでは?大塚『家具』なのだから。それに会社が倒産したら株は紙屑だが、家具は残る。」

と提案した。



それもそうだ。と店舗に行ったのだが、ご存知の通り目ん玉が飛び出るくらい高い。

仰々しく、

80%OFF!!

と言われても、そもそも300万円もするソファーが60万円になっているだけで、物を見る目のない庶民には

「安いのかもしれないが高い」

としか感じない。

「『株』より『家具』の方が高いじゃないか・・・久美子ちゃん、塩対応だわぁ~」

と、良く分からないことを言っていたが、そんなことより、店舗で最も驚いたことは、

全く人がいない

こと。

タイミング的なものもあるのだろうが、我々二人以外に客はおらず、店員の方が多い。

平日の夕方とは言え、新宿店のあの立地(元百貨店一棟まるごと)を考えれば異常である。

その方も経営者。

「ここ、家賃いくらだ?こりゃ、やればやるほど赤字だな・・・」

とつぶやき、結局、家具も株も、その購入を踏みとどまった。

実際のところ、大塚家具ではここ数年、赤字が続いている。

しかもそれは投資の失敗などの「一時的」なものではなく、単純にキャッシュフローによるもの。固定費すら稼げていない。

つまり「やればやるほど赤字」ということになる。



それから一年。

事の発端となった親子喧嘩が解決したと言う。

大塚久美子氏が、父の大塚勝久氏に和解を申し入れ、勝久氏もそれを好意的に受け入れているとのこと。

相続、事業承継絡みで、泥沼の親子関係、兄弟関係を見ることもあっても、それが修復されたところを見たことがない。

大塚家具も同じ経緯を辿るものと思っていたのだが、一転して「仲直り」ということになった。

その演出をしたのは、昨年末に大塚家具の支援企業となったハイラインズの陳海波社長。

日本の上場企業一族の親子喧嘩。それを中国人経営者が仲裁する。

何ともグローバルな人情噺。

陳さん・・・まるで寅さんのような奴じゃないか・・・

そう感動して色々調べてみたが、やはりそこは凄腕の投資家。

今回の出資を

「中国進出を目的とした支援」

と、柔らかく表現しているものの、中身はそんな生易しい話ではなかった。

以下は大塚家具のプレスリリース資料からの抜粋だが、2018年12月末時点での株主構成は以下のようになっていた。

株主1位の「ききょう企画」というのは、大塚一族の資産管理会社で、大塚久美子氏とほぼイコールと言える。

それが、今回の増資でこうなる。

1位と2位はいわゆるファンドで、1位がアメリカ系、2位は陳氏が組成したもの。

更に今回、将来の新株予約権も発行しており、それを「行使すれば」将来は以下のように。

陳氏個人で新株予約権を引き受けているので、権利行使後は「個人」で5.88%の大株主になる。更に2位、7位のファンド、3位の陳氏が経営するハイラインズ、これらも陳氏の影響下にあるため、これを合計すると32.88%の圧倒的な株主。

実質的なオーナーと言って良い。



少々冷たい言い方だが、現在の大塚久美子氏の立ち位置は「雇われ社長」であり、今後、結果が出なければクビになることはほぼ間違いない。

首の皮一枚

という表現がぴったりで「中国進出」を成功させ、業績を回復させなければ終わりだろう。人情もへったくれもない。

また儒教の価値観が強い中国では「親を大事にしない」ということは相当なマイナスとなる。

「父親追放」のイメージが中国マーケティングに及ぼす影響は無視できない。

その点からも和解は必須だし、更に陳さんという「新しい親」から言われれば従わざるを得ないのだろう。

「社長を続けるために、親父に頭下げるのか・・・」

本心からの和解と信じたい反面、今まで数々の「泥沼」を見てきた経験から、本当かよ?とも思ってしまう・・・・そんな自分がつくづく嫌になる。

数年前。

創業者である父親の経営方針を理路整然と批判するクールビューティーな姿が印象的だったが、あれだけ揉めた父親に笑顔で花束を渡す今の姿の方が、腹の中で何を考えているのか分からない凄味がある。

今後も目が離せない。

いつの間にか私もすっかり「久美子ファン」なのである。

平成最後のコラムがこんな内容で良いのか?と思いつつも、平成最後のコラムでした。



 

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4月 29th, 2019 by