千葉県、ゴルフ練習場の鉄塔被害でわかる「保険の本質」


千葉県 市原市のゴルフ練習場で発生した鉄柱とネットの倒壊事故。

近隣の民家、車に大きな被害を与え、一名の重傷者も出してしまった。

加害者側の女性経営者は、当初補償に応じると回答していたものの、その後、態度を変え、弁護士を通じて、

「天災被害のため賠償責任はない」

と主張している。

被害に会われた方々にとってはとんでもない災難で、同情を禁じえないが、法律論の観点からすると、残念ながら加害者側の主張が通る公算が大きい。

天災に限らず、地震、火事などは誰が加害者になって、誰が被害者になるか紙一重。

また、狭い土地に多くの人が暮らす日本の住環境では、ひとたびそのような事態になった時、どのような被害が出るか予測できず、個人や法人が責任を負えるものではない。

そのため、

「わざとでないなら、天災、地震、火災の被害には賠償責任がない」

ということになっている。

要は「お互い様」という考え方なのだ。

なお、この「わざと」のことを、法律用語では「瑕疵(かし)」と言う。

今回のケースで言えば、鉄塔の管理、メンテナンスに落ち度があったか?という点が争点になるが、正直なところ、被害者側が瑕疵を証明するのは難しいのではないだろうか?・・・

ネットを下すべきだった、基礎工事が浅い、等々、指摘されているが、ネットも何もない電気会社の鉄塔(恐らく最高レベルの建築技術)が倒壊しているのである。

「未曽有の強風だった」

と主張されれば、やはり瑕疵とまでは言い切れないのではないかと思う。

もちろん「そもそも建築基準法に違反していた。」などの事実があれば別だが、一般的にあのような建物は役所の審査もうるさいので、その可能性も低いだろう。

 

損害保険の観点で見ると、今回、以下のような契約があることが想定される。

加害者側(ゴルフ練習場) 施設賠償責任保険、火災保険(事業用)

被害者側 火災保険(個人)

この中で両者を救える保険が、施設賠償責任保険。

施設が原因の事故で賠償責任が発生した時に、その賠償金を保険会社が肩代わりしてくれる。

一見、今回の事故で大活躍しそうな保険だが、実は違う。

この保険が活きるのは、あくまで「賠償責任が発生したら」の話。

今の時点では何とも言えない。

心情としては、裁判で被害者側の主張が通り「賠償責任がある」となって、是非、この保険から支払ってあげて欲しい。

そうなれば、多くの被害者が救われるし、実は加害者も救われる。

賠償金を支払うのは保険会社であって、加害者の負担はないのだから。

だったら、加害者側がすすんで自らの瑕疵を立証すれば話は早いのだが、今の強硬な態度だとそれも難しいだろう。

少しでも頭が回れば「なるべく保険が使えるように」と話を進めるのだが、「私のせいじゃない!!」と保身に走ってしまったということ。

賠償責任保険がダメとなると、お互いの火災保険の出番。

しかし、ここで問題になるのが、「時価」、「新価」問題である。

実は火災保険には2種類ある。

事故の被害を「時価」で評定するものと、「新価」で評定するもの。

例えば、新築時3,000万円の家が築後10年目に今回の事故にあったとする。

時価の場合、「今の価値」を算定するので、経年劣化なども考え、1,500~2,000万円程度と目減りする。

一方、新価の場合「同じ物を今作ったらいくらか?」という算定なので、10年前より資材や人件費が上がって「今なら3,500万円かかる」となれば、その金額が支払われる。

つまり、時価では、同じ建物を建てるために「差額」が発生するが、新価であれば持ち出しなしに、ほぼ同じ建物が建てられることになる。

時価か新価かは保険会社や、加入時期によっても異なるが、10年以上前の火災保険は時価であることが多い。

逆に最近はほとんど新価となっている。

被害の写真を見ると、築10年~20年くらいの家が多い印象で、新築時に加入した昔の火災保険に加入していたとするなら、おそらく時価なのではないかと思う。

対して、加害者側は法人。

法人の場合、数年おきに火災保険を更新するので、ここ数年以内に更新していれば、新価である可能性が高い。

そうなると、双方が自らの火災保険を使って家や施設を直した場合、被害者側には差額が発生するが、加害者側は何の持ち出しもなく、ゴルフ練習場を再建できる。

もちろん、同じ場所で営業など出来ないだろうが、資金上は「再建」可能なのである。

更に裁判に勝てば賠償責任なし、負けても賠償保険で賄えるのだから、一見、追い込まれているように見えて、傷口が浅いのは加害者側。

何とも理不尽な話だ。

しかし、今回の件には保険の本質が如実に表れている。

それは、

保険は自分を守るためのもの

だと言うこと。他人の保険が自分に何かしてくれるわけではない。

くだんの女性経営者。いまだに鉄柱の除去作業にも手をつけていないことを見れば、無責任で、処理能力も低いことは明白。

しかし、施設賠償と火災保険で、その生活と財産は守られる。

良くも悪くも、これこそが保険だと言うことだろう。

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします


9月 27th, 2019 by