ここがヘンだよ!!大学無償化


今年の4月から大学無償化(短大、高専、専門も含む)が始まる。

親の所得に関係なく、子供に均等な教育機会を与える

という主旨自体は評価する声が多いものの、FPの観点からすると問題点が多いように感じる。

その話をする前に、まずは制度の仕組みだが、この大学無償化には2つの柱がある。

 

純粋に授業料と入学金を補助する減免制度と、生活費を補助する奨学金制度(返済不要)

なお、受取れる金額は以下の通り。

例えば、私立大学に自宅外(下宿)から通う場合、

入学金    26万円
毎年の授業料 70万円/年
生活費の補助 約91万円/年

が支給され、4年間の合計は670万円にものぼる。

相当手厚い補助だが、これらの給付金は誰でも受け取れるわけではなく、かなり厳しい所得制限がある。



下記は文部科学省が公表している「給付と年収の目安」の関係。

先の表の金額が「全額」支給されるのは第一区分だけで、この第一区分に関しては、

住民税非課税世帯

であることが要件。

住民税非課税世帯とは、

・生活保護世帯

・給与から各控除を行った後の金額が126万円以下(ひとり親、子2人の場合)

など。上記の表のとおり、年収で言えば200万~270万円くらい。月の収入は20数万円という感じだろう。

そして、住民税非課税世帯ではないものの世帯年収が低い場合、その所得に応じて第二区分と第三区分に分類され、それぞれ満額の2/3と1/3が支給される。

先の例(私立大学 下宿)の場合、それぞれの給付は以下のようになる。

・第二区分 2/3

 入学金    17万円
 毎年の授業料 47万円/年
 生活費の補助 約60万円/年

 4年合計 445万円

・第三区分 1/3

 入学金    9万円
 毎年の授業料 24万円/年
 生活費の補助 約30万円/年

 4年合計 225万円

以上が制度のあらましだが、私が思う問題点は2つ。



1 世帯年収の「下げ」圧力になる

この制度、給付金額と所得制限の「階段」が急過ぎる。

第一区分から第三区分までしかなく、1/3ずつ下がるので、各区分間での差が激しい。

例えば世帯年収 330万円(夫280万円、妻50万円)の場合、第三区分に分類されるが、第二区分(総給付445万円)と第三区分(総給付225万円)では総支給額が220万円、年平均で55万円も違う。

そうなると、妻のパートを停止したり、自分の残業を減らしたりして、第二区分を目指すバイアスが働き、

働かない方が得

という状況を作ってしまう。と言うか、私だったらそうする。

低所得世帯を支援するはずの制度が、余計に「低所得」を加速することになりかねない。

また、世帯年収400万円台への配慮が乏しい。

下記は日本の世帯年収の分布を表すデータだが、中間値は400~420万円とされる。


つまり世帯年収400万円台は「日本の中間層」なのだが、この層への手当てが一切ない。

FPとして色々な方のお話を聞くが、300万円台も400万円台も、大抵の場合、どちらも家計は厳しく、そこまでの差はない。

400万円台の世帯からすれば、数十万円の年収の違いで数百万円の給付を逃すことになり、

ズルイ、損した

という感想を持つだろう。

本来であれば、3段階でドカンドカンと減っていくのではなく、もっと給付の階段の傾斜を緩やかにして(例えば10段階くらい)、住民税非課税世帯から世帯年収500万円くらいまでをカバーするべきだと思う。



2 「隠れ」資産家にも給付される

本制度、「年収」によって給付金額が決まるが、世の中には凄い資産を持っているのに、「年収は低い」という人が少なからず存在する。

地主さんなどは、保有不動産を資産管理会社名義にして、個人としての収入はごくごくわずかにしているようなケースがある。

もしくは、会社経営者であれば、子供が大学に通う4年間だけ「わざと」役員報酬を下げ、低所得を装うことも出来る。

また別のケースで、資産家の「出戻り娘」ということも想定できる。

親が資産家、娘が離婚して子供を連れて帰ってきて、生活費は親からのお小遣い。

こんな場合も見た目の世帯年収は低い。

このような隠れ資産家への受給を防ぐために、本制度では世帯資産が、

ふたり親で2,000万円以上

ひとり親で1,250万円以上

の場合は対象外とされている。(不動産は含まない)

しかし、これ。

おそらく実効性がない

国税庁が本気でやれば個人の資産状況を把握することは可能だが、それだってそれなりに手間がかかる。

しかも本制度の所轄官庁は文部科学省。

毎年、数万人の申請をどうチェックするのか?

親のマイナンバーカード番号の報告が義務付けられてはいるものの、未だにほとんどの銀行口座、特に古い口座になればなるほどマイナンバー情報との連携がされていない現状で、公正な審査が出来るとは思えない。

生活保護の不正受給同様、近いうちに社会問題化するのではないか?



 

以上2点。

制度の趣旨には全面的に賛成するものの「偏りがひどい、仕組みが粗い」という感じ。

なお、識者やマスコミが批判する別の問題もある。

それが、

成績チェックが「ほぼ」ない

ということ。

本制度には所得制限の他に2年目以降の学力基準も設けられている。

基本的には「上位50%」に入っていないと給付が継続されないのだが、50~75%に関しては、単位を「標準以上」に取得していれば、学修計画書、要は「反省文」を提出することで給付が続く。

問題視されているのは下位25%で、この場合、まず「警告」され、翌年以降に改善しない場合、打ち切りとなるのだが、ここにも例外規定がある。

警告を連続で受けた場合であっても、

斟酌すべきやむを得ない事情がある場合

は給付の継続が検討される。とされているのである。

具体例に関してはまだ提示されていないものの、実態としては「かなり不真面目」でない限りは、給付の打ち切りはせず、それが

「学習意欲のない学生を支援する必要があるか?甘やかし過ぎ!!」

と批判されているのである。

中にはかなり辛辣な記事もあった。

奨学金、給付金は税金。

だからこそ、そう言いたくなる気持ちは分かるのだが、個人的にはこの指摘には違和感を覚える。

私自身、親のスネをかじって、三流大学を下位25%どころか、下位5%くらいの成績で「ギリギリ」卒業。

それでも、一応は「大卒」という資格を得たため、大手企業で社会人生活をスタートすることが出来た。

親の年収が低い、国からの補助、だったら学業を頑張れ!!

という「あるべき論」は分かるが、普通の家の子は成績が悪くても親が学費を支払わないことはなく、特に苦労をせずに「大卒」という資格を得る。

だったら、国が親代わりになる本制度でも「甘やかす」くらいで普通の家と同じ環境ということになり、給付の打ち切りについては多少曖昧なくらいでも良いのでは?とも思う。

 

いずれにせよ、開始から数年はかなりの混乱や問題の発生が予想されるが、どんどんブラッシュアップされて、この制度が真に志を持つ若者の助け舟となれば良いと思う。

本日のコラムでした。



 

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1月 22nd, 2020 by