今日の話。特にオチはない。
ただこのコロナ禍で苦境にあえぐホステスさん達を想い、昔話をしたいだけだ。
私の家はやたらと水商売に縁がある。
母方の祖母というのは、それはそれは凄い名家だったそうで、祖母の母、つまりひいおばあちゃんは若い頃「宮中見習い」として皇居で花嫁修業をしていたようなお家柄。
そんなわけで、祖母も20歳そこそこの時、当時「入谷御殿(日比谷線入谷駅周辺)」と言われていたくらい大きいお屋敷を持つ家に嫁いだ。
お相手はパラシュートの素材となる特殊な布を作る会社を経営している一族の御曹司で、とにかく穏やかな人だったそうだ。私の祖父にあたる。
家にはお手伝いさんが10人くらいいて、祖母が伯母(母の姉)を産んだ時には、ほとんど自分で赤子の面倒を見なかったというのだから、相当な資産家なのだろう。
が、終戦。
会社はあえなく倒産。
同じ軍需産業に属する企業でも、すぐさま用途を切り替えて新商品を開発したり、アメリカに擦り寄ったりして生き残った会社も多いのだが、お坊ちゃまだった祖父にはその力量がなかった。
良い時は良いが、逆風には弱い。
まるでどこかの国の総理のようだが、祖父もそんな感じて、倒産を機に豹変。
働かないわ、女房に手は上げるわのダメ人間になってしまったそうだ。
結局、離婚したが、既に祖母の実家も没落していて、娘二人(私の母とその姉)を抱え、戦後の焼け野原に放り出される。
祖母も女学校を出ていたので当時としては「学があるほう」だったのだが、そんなものが金になるはずもなく、結局、女手一つで一家を養うには夜の街で働くしかない。
浅草に小さいスナックを構え、亡くなるまでの30数年その店を守った。
で、母。
この母も父と結婚し、決して積極的な理由ではないものの水商売の世界へ。
父が所有していた不動産の店子である「傾いた店」の再建を請われたのだ。
ちなみに当時住んでいた足立区の家の1階にこの店があった。
一応は「クラブ」とは言っているが、実際にはスナックとキャバクラを「ごった煮」したような店。それでも地域では高級店で通っていたようだ。
ちなみに「足立区で水商売」なんて、マッドマックスの世界で食料品店をやっているようなものだから、トラブルなんて日常茶飯事。
夜中に警察が来て、そのサイレンで起きてしまう。
まだ小さかった私が恐る恐るベランダから下の店を覗くと、タコ入道のような大男が警官2,3人に羽交い締めにされ、大声をあげる。
そんなことも何度かあった。
それでも常時、ホステスさんを7,8人は雇っていたので、店の規模としてはそれなりに大きかったのだろう。
つまり、私のババ(祖母)は周辺から「ママ」と呼ばれ、私のママも同じく「ママ」と呼ばれる。周囲にはママだらけという特異な環境で育った。
小学生の時、朝起きる。
リビングにはタバコの煙と酒の臭い。
それを嗅ぐと、ああ、またか。と思う。
夜中の2時、3時に営業を終了した後、店の女の子たちが
「ママ、ちょっと相談があるの・・・」
となって、我が家のリビングで飲みながら愚痴を言い、母はそれを聞く。
経営者の大事な仕事でもある。
とはいえ、その内容は、客を取った、取られた、あの子が気に入らないなどの下らない話ばかりで、しかも女の子たちは感極まって泣きながら話す。
「夜の蝶」たちのファンデーションは剥がれ、マスカラは流れ、口紅は広がり、その見た目は、
ほぼジョーカー
そんなわけで、子供ながら水商売の裏側を見ていたわけだが、まあ、はっきり言って頭の悪い子が多い。そりゃそうだろう。
単純に見た目が綺麗で、それだけで金を稼ごうという安易な発想なのだから。
割の良いバイトくらいの感覚で入ってくる子も多く、その後、ズブズブの水商売の沼にハマる子もいれば、店に来ている金持ちと結婚してはすぐに離婚する子など。
中には下らない男に引っかかって痴情のもつれで殺されてしまった方もいた。(母の店を辞めてから相当経ってからだが)
しかし、いつの時代も「やむにやまれぬ」という理由で水商売の世界に飛び込んでくる方がいる。
祖母と同じようなシングルマザーだ
やはり、周囲とは覚悟も根性も違う。
そのため、母もそういう事情がある人はわりと積極的に採用していたようだったが、理由はそれだけでなく、苦労した自分の母の背中を見ていたからかもしれない。
ちなみに、子供の頃から多くの「おネエさん」と接してきたので、私はキャバクラやクラブに行っても、応対してくれる女性が「ただの小遣い稼ぎ」か「子供を守るために働いているのか」何となく分かる。
まず腰の高さが違う。前者は軽く高い。後者は剣の達人のように低く重い。
「お隣、失礼しまーす。」
と来た時、低いところから音もなくツツッーと入ってくるイメージだ。
きっと子供の相手をしているので中腰が得意なのだろう。
それを見て、こう聞く。
「あれ?お子さんいます?」
と。
だいたい90%以上の確率で、
「何で分かるの?」
となるが、こちらもプロだ。
ちなみにシングルマザーは六本木にはあまりいないが、銀座や新宿には結構多く、新宿は気楽に白状するが、銀座はしぶとい。
まあ、どうでも良い話だが・・・
そんな水商売に未曽有の逆風が吹いている。
多くのクラスターの発生源となったことから、長期間の営業自粛が続き、そしてたとえ再開しても客足が戻るまでには時間がかかるだろう。
そして、潔癖好きの世の中は水商売にとかく厳しい。
ホステスへの補償なんてとんでもない!!
他の仕事に就いて、汗水たらして働け!!
などという批判を聞いていると、何もそんな目くじら立てなくても・・・とは思ってしまう。
言うほど楽な仕事でもないし、皆、日々将来に不安を持って頑張っているという点では他の仕事と変わらない。
そして、スキルも資格もない「訳アリ女」の受け皿でもあるのだから。
まあ、冒頭でも書いた通り、別に何が言いたいわけでもないし、何の結論もない。
ただ一言
頑張れ!!
そんなエールを現代のジョーカー達に捧げる。ただそれだけだ。
本日のコラムでした。
この記事が気に入ったら
いいね!しよう
最新情報をお届けします