「逃げる技術」向いていない仕事からは逃げるべきか?




先日、知人からの紹介で某保険会社の営業マンに会った。

1年前にこの世界に飛び込んで来たが、売れずに苦しんでいるとのことで、一応はうちの会社への転職の可能性も含めて、今後の人生相談という感じの面談。

ただ、少々面食らったのは、冒頭、こちらから名刺を出すと「名刺を忘れた」と言う。

また、会う前に宿題として課しておいたドキュメント作成(文章力を見たくて)も、ほんの数行しか書いてこず、しかもプリントアウトもしていない。

ノート型パソコンを起動してその画面をこちらに見せる。

一応はこちらも時間を取っているのだから、自分が出来る準備くらいはしっかりやってくれば良いものを。

この時点で「まあ売れないだろうね」とは思った。

ところが、話をすると非常に素直な好青年ではある。

だが残念ながら「良い人」というだけでやっていけるほど甘い世界ではない。

色々と話を聞いたが、小一時間ほどの面談の最後、

足を洗うべき

とアドバイスした。

普通の会社にお勤めの方にはピンと来ないだろうが、完全歩合制というのは本当に厳しい。

会社から支給されるのはパソコンとパンフレットと書類だけ。

交際費、交通費、携帯代はもちろんクリアファイルすら自費。

それらの活動費はバカにならない。

しかも売れなければ、給料はみるみる減る。

日々、お金は出ていくのに、入ってこないので、仕方なく貯金を切り崩すしかない。

事実、目の前の彼も転職時にあった貯金を1年弱で使い果たし、これからは借金をしないと仕事が続けられないところまで追い詰められていた。



本人の「この世界で絶対に成功するんだ!!」という思いは分かるが、そもそも営業マンとしての資質も欠けているし、この世界で資質以上に大事な「努力する才能(執着心のようなもの)」も感じられない。

足元の軍資金が底をついているのに、これ以上の勝負は傷口を広げるだけだろう。

同じような人を何人も見てきて、中には個人的に活動費を用立てしたこともあったが(もちろんそのお金は戻ってきていない)、今の彼の状況から復活出来る可能性は1%以下。

99%は「借金だけ背負って」この世界から去ることになる。

しかし、何とも厄介なのは、それでも成功する人間が1%はいるということ。

組織はそのような「奇跡のサクセスストーリー」を持ち上げて、お前だって諦めなければ!!と発破をかける。

ゼロではない

ということが、そのような人たちの心の拠り所になってしまっているのである。

とは言っても、成功した1%も、後から聞けば非凡な努力がある。

お金がなくて電車にも乗れないので自転車で営業、1日20kmは走っていた。とか、電話が苦手なので1日100件、お客様へのショートメールを自分に課した、などなど「非凡なエピソード」が盛り沢山。

こんな執着心があっての奇跡であり、決して運で選ばれた1%ではない。

もう潮時じゃない?

そう告げると、本人も薄々は分かっていたらしく「そうですよね。。。」とうなだれていた。

そして1週間後。

彼から電話が入り、こう言う。

「折角のお話でしたが、あと3ヵ月だけ頑張ってみます。」

折角のお話って何だ?ニュアンスではうちへの転職を断るような口ぶりだったが、そもそも誘っていないし、むしろ「この業界から去って平穏に暮らせ」と伝えたつもりだったのだが・・・

このあたりの「勘違い力」も売れない理由かもしれない。

好意もなく、告白もしていない女性から「やっぱり無理です」と断られたような気分だったが、まあ、それは良い。

電話では引き続き彼が熱く語っている。

「今、逃げたらこれから一生逃げ続けの人生になってしまいますから!!」



多分、上司にそう言われ、素直だからすぐに感化されたのだろう。

しかし、これで身内からの借金決定、そして契約欲しさに営業も粗くなる。

寿命を数ヶ月伸ばすために、ツメの甘い契約が積み上がる。

君の「逃げない」で周りは大迷惑だよ。

そう言おうとしたがやめた。

「自分で決めたことだから頑張ってね。」

表面的に優しい言葉をかけて電話を切る。

さっさと逃げれば良いものを・・・虚しくスマホに語りかけるしかない。

この国の教育では子供のころから「逃げるな!!」と言われ、

逃げる=悪

という概念が定着してしまっているが「逃げ」は「撤退、回避」という立派な戦術でもある。

この仕事を通じて成功者と言われる人に多くお会いしてきたが、どの方も「ダメだ」と思った時の決断は早いし、勝てない勝負は避ける。

そしてそれが成功の近道になっている気もする。

仕事も同じで「向いてない」と思ったら他の道を行った方が良い。

その競技に適正がなかっただけで、人間として何かに負けたわけでもないのだから。

ゴムボート片手に津波に突っ込んでいく若者。

今回も止めることが出来なかったし、いままでだって止められたことはない。

若い人に叶わない夢を見せ、死体の山を築く。

この業界はいつまでこんなことを続けるのだろうか・・・・

本日のコラムでした。



 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします


6月 20th, 2020 by