給与所得控除の減額 中間層、悲しき羊たち・・・


会社員の方と話をしていると、皆さん、口を揃えてこう言う。

税金が高すぎる

と。

実際には税金だけでなく、社会保険料も含めた「お国から徴収されるもの全体」を指しており、つまりは、毎月給与明細を受け取った時に体感する「額面と手取りの差」に対する不満なのだろう。

このような時、私はこう返す。

税金、いくら払ってるんですか?

しかし、これにちゃんと答えられる人はほとんどいない。

だいたいが

「いや、具体的には分からないけど、何かいっぱい取られてるよ」

1,2,3、いっぱい

まるでアマゾンの奥地に住む少数民族のように、話は急に曖昧になる。

不満は感じているのに、その正体を知ろうとしない。

そもそもが税金と社会保険料の区別すらついていない人も多く、率直に言って、何も知らないなら、黙って払うしかないだろう。

無知な人が搾取されるのは、何も今に始まったことではない。

流石にここまでダイレクトには言わないものの、婉曲的に「多少は勉強した方が良いのでは?」と水を向けると、こちらもほとんどの場合で、

仕組みが複雑すぎる

そんな反応が返ってくる。

そう。その通り。

税や社会保険の仕組みは複雑。

はっきり言って「わざと」やっているのだ。

国は正体を知られないように、わざと分かりにくくしてあなたを煙に巻いている。

そして、この令和2年。

また大きな「煙」が張られた。




給与所得控除の減額

平成25年以降、3年ぶり4度目。

まるで強豪校の甲子園出場のようなハイペース。

実質的な増税である。

給与所得控除って何?というような人は、まずはこちら(給与所得控除とは?)をご覧頂きたいが、要は会社員にとっての必要経費のこと。

これが減額されれば、その分、税金の対象となる「所得」が増えるので、税金も増える。

例えば1,000万円の収入を得る会社員は、それだけ稼ぐために色々な必要経費を使っている。

会社に着ていくためのスーツや靴、鞄、これらも「経費」と言えるし、また、それぞれの仕事での専門知識を得るための情報収集、本を読んだ新聞を読んだり、これらの費用も同様。

もちろん個人差はある。

Aさんは、色々とお金がかかるのに、Bさんは会社が全てを用意してくれているので、ほとんどお金がかからない。

そんなこともあるだろう。

しかし、個々の事情をいちいち聞いていられないので、それらの経費についてはエイヤ!!で決めてしまっているのが給与所得控除である。

以下がその表。

例えば、今までのルール(左側)で言えば、年収900万円の人は、660~1,000万円の枠になるため

「収入金額×10%+120万円」

が給与所得控除、つまり経費となる。

900万円×10%+120万円 = 210万円

900万円の収入を得るための「経費」として210万円を認めますよ。ということ。

そして、年収1,000万円以上になると、一律220万円となってしまう。

だが、これは給与所得控除の性格を考えればおかしな話で、収入が増えれば増えるほど、本来なら経費は増えるはずだ。

町工場の経費と、トヨタのそれが違うのと一緒。

しかし、そうはなっていない。

国の意図を読み解けば

「年収1,000万円以上は金持ち。220万円までしか認めない。ゴチャゴチャ言うな。以上!!」

ということだろう。

そして、このルールが令和2年から変わる。

それが図の右側。

今までは1,000万円以上が一律220万円だったが、今回から850万円以上が一律195万円となった。

簡単に言えば、

・850万円以上は「お金持ち認定」

・一律の上限が、220万円→195万円に減額

ということ。




経費が減れば、その分、税金の対象が増えるので、実質的には増税となる。

年収900万円の方で、年間1.7万円程度、年収1,000万円の方で、年間5万円程度の負担増となる見込み。

ちなみにこの改正(改悪)、先に述べた通り、2015年、2016年、2017年、2020年と頻繁に行われており、その都度、条件が厳しくなっている。

でも不思議と誰も怒らない。

マスコミでも大して取り上げられない。

この国の中間層。

国からすれば、困ったら毛皮か乳がとれる羊くらいにしか思っていないのではないだろうか?

なお、上の図。

勘の良い人なら気付くかもしれないが、850万円以下の層でも、給与所得控除が10万円づつ減っているのがお分かりだろうか?

162.5万円以下で、従来は65万円だったのが、55万円になっているし、他の層でも10万円ずつ減っている。

なんだ、全員、増税されるんじゃん!!

そう思うかもしれないが、違う。

これは「基礎控除」の金額が38万円から48万円に増額したことに関する「調整」である。

要は基礎控除で増えた分(+10万円)を、給与所得控除で減らしている(-10万円)だけで、総額は変わらない。

また、今回の変更では、この基礎控除も「年収2,500万円以上」は適用外となっている。

従来の基礎控除が「誰でも受けられる『基礎』の控除」だったのに、高年収者は、もうそれすらなくなってしまうのある。

今のところ

2,400万円以下     48万円
2,400~2,450万円  32万円
2,450~2,500万円  16万円
2,500万円以上    なし

と細かく刻んでいるが、普通に考えて、年収2,401万円、2,451万円、年収2,501万円に「階段」を付ける意味が分からない。




今までのやり方を見ると、この階段を数年かけて下げていき、最終的には

1,000万円以下     48万円
1,000~1,100万円  32万円
1,100~1,200万円  16万円
1,200万円以上    なし

みたいな感じにする戦略なのだろう。

給与所得控除の目くらましに基礎控除を使い、基礎控除の「適用外」という大胆なことまでシレっとやっている。

話についてこれず、チンプンカンプンな人も多いだろう。

そう、何故なら

わざとやっている

からだ。

この国の中間層はもっと怒った方が良い。

本日のコラムでした。

 

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11月 2nd, 2020 by