パワハラ、セクハラ 間違いだらけの「社長の大岡裁き」


パワハラやセクハラなどの賠償保険を扱っている関係で、その関連のトラブルについて耳にすることが多い。

これらの問題が発覚すると、責任者が事態の収拾を図るのだが、中小企業においては、その責任者が「社長」になってしまうことが多い。

しかし、ここに大きな落とし穴がある。

本日はそんな話。

まずは、問題解決の流れを4つのプロセスに分けて追ってみたい。

1 事実認定 一体何が起こったのか?

2 それに対する双方の言い分

3 本件に関する具体的な処置(和解、処分、賠償など)

4 今後どうするか?

これはあくまで私の感想だが、1と2に関してはセットとして、しっかりやらないといけないのだが、正直なところあまり意味はないように感じる。

と言うのも、双方の見解があまりに違い過ぎるのと、更には自分の立場を守るために関係者が嘘をつくので、事実の認定すら難しい場合が多い。

嘘をつくのは強い方だけでなく、弱い方もそうで、また本人も感情的になって嘘か本当か分からなくなってしまっていることも多い。

最近では音声や動画などの「証拠」が出てくることもあるが、それすら恣意的に編集されていることもあるので、鵜呑みにするのは危険で、結局のところは周りの複数の証言から

「何となくこんな感じのことがおこったのだろう」

とおぼろげな姿を追うしかない。

そして、それを元に3の具体的な処置となる。

問題が起こっている以上、加害者側つまり「強い方に厳しく」処置をするのが今風で、懲戒解雇、訓戒、減給、降格などとなる。

今回の件に「ケリをつける」ということ。




なお、この3も大事と言えば大事だが、実のところ大した話ではない。

と言うのも、そこまで厳しい処置は出来ないからである。

あまりやりすぎると、今度は加害者側から会社が訴えられる可能性もあり、新たな火種を抱えることになる。自分がパワハラしてたくせに

「事実と違うことで会社から不当な処分を受けた」

と訴えるような輩もいて、何とも厄介な問題を含んでいるのである。

実際、色々なニュースで会社や役所、警察などの不祥事を見ても、「減給3ヵ月」など、「えっ?そんなもんで済むの?」と思うことが多いだろう。これも、前述の理由による。

そのため、被害者側が留飲を下げるような「厳罰」は、現実的には下しにくいのである。

こんな裏事情もあるので、被害者側のほとんどは「処罰が軽い」と感じ、そこに納得感はない。

現実は半沢直樹のようにはいかないということだ。



だからこそ、このような問題の本丸は4の「今後どうする?」というところに尽きる。

関係者たちを今後どのように処遇し、どうフォローしていくか?

結局のところ「過去」にこだわるより、「未来」をどう描いていくかが重要で、言い方は悪いがそれがコース料理の「メイン」。その手前までは前菜に過ぎない。

被害者側も加害者側も、

「で、どうなるの?これからの私は?」

ということがスッキリしないと納得せず、「理解したふり、処罰したふり」の前菜だけでは誰も満足しないのである。

そのようなお話をすると、社長さんたちから

「じゃあ、どうすれば良いのか?」

そう聞かれるが、まず大前提として両者を引き離すことが重要。

出来れば物理的に「会わない」ようにしてあげることが最善で、配置転換で双方に再スタートの機会を与える。

ただ、中小企業においては「勤務先が本社一つだけ」などの理由でそれすら難しい場合があるが、それでも極力接触しない(物理的、業務フロー的に)ように配慮してあげることが重要。

また、「どちらかに会社を去ってもらう」というのも一つの選択肢となる。

「ドラマ的」には加害者側が退職するのが正しいのだが、現実としては被害者側が退職することの方が多い。

もちろん賠償金代わりの退職金上乗せなどをした上でのことだが、それで納得するなら、それも一つの手だと思う。

なお、何故か加害者側の方はやたらと会社にしがみつく場合が多い。



そもそもパワハラなんてやっているくらいの人だから、看板や肩書がなければ何も出来ない気の小さい人なのだろうが、いざ自分の不祥事が明るみに出ると、急に小さくなり「何とか残して下さい」と懇願するらしい。

また、残酷な話だが、加害者と被害者。会社にとっては加害者の方が「有益な人材」であることも多く、それも加害者側が残る一つの理由だろう。

この一連のプロセスは「警察(捜査)」、「検察」、「弁護人」、「裁判官」を兼ねるようなもので、まるで江戸時代の大岡越前。

責任者には同じ能力が求められるのだが、はっきり言ってこれが出来る人はほとんどいない。

大企業であれは専門部署があるかもしれないが、中小企業ではこのような部署があることはまずない。決定的に人材が不足している。

そして、関係者がすったもんだやった挙句「社長に一任」となるケースがある。

が、はっきり言ってこれが一番最悪。

何故なら「社長の大岡裁き」は多くの場合、良い結果を生まないからである。

その理由は2つ。

まず社長は圧倒的な権力者である。

つまり「強い立場」の人間なので、根本的に「弱い立場」を理解していない。だから心の根底に「そんなことでゴチャゴチャ言うなよ・・・」という気持ちがある。

どちらかと言えば「パワハラ側」を庇ってしまうこともあるくらいで、これが曖昧な事実認定と処置を招きやすい。

そして、2つ目に経営者の慢心がある。

加害者側には「俺が怒ればビビるだろう」、被害者側には「俺が慰めれば気が済むだろう」と思い、事態の収拾を図る。

「まあまあ、仲良くやっていこうぜ。雨降って地固まるだな」

的なオチで、社長の前では一応両者が和解した印象だが、残念ながら雨は一向に止んでいない。

結局、その後、被害者側が会社を辞め、加害者側と会社を訴えたり、逆に周りの眼を気にし過ぎた加害者がうつ病になったりする。

同じ辞めるにもしても、しっかりと話を聞いて、納得した上で退職金を上乗せでもすれば揉めなかったものを、大岡裁きが原因で本当の訴訟にまで発展してしまうのである。



現在の労働訴訟は圧倒的に会社が不利なのでまず勝てないのだが、賠償金額が決まれば我々の出番(賠償保険に入っていれば)と言うことになる。

その時に「どういう経緯でこうなったのですか?」と話を聞くと、前述のような「マズさ」がボロボロと出てくるのである。

子供の喧嘩ならいざ知らず、大人同士のいざこざは「謝って済む」話ではない。

中小企業においても、このような問題が発生した時は弁護士などの専門家を入れて、その決断に従った方が良いのだが。。。。

社長は将軍。

事件は弁護士や社内のハラスメント委員会などに一任し、口を出さない方が良い。自分自身が大岡越前になった気でいると、大抵痛い目を見るのである。

本日のコラムでした。



 

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2月 19th, 2019 by