保険屋の反対処理はイヤイヤ期に通用するのか?


拒否反応の強い生命保険という商品のセールスでは、

「反対処理」

というプロセスがある。

「お客様のNO」

をいかに上手くさばき、契約というゴールに辿り着くか?ということで、それが保険屋の腕の見せ所でもある。

そのテクニックとして有名なのは、相手の言うことを「確かにそうですね。」と一度は受け止めて、「しかしながら・・・」と続ける「YES BUT法」や、相手の言う反対の理由を、そのまま説得の材料として使う「ブーメラン法」などがある。

「お金がないので保険料が払えない。」

と言われれば、

「そういう方にこそ保険が必要なのです。」

と返すやり方で、どちらもその名くらいは聞いたことがあるだろう。



他にも反証法、応酬話法など色々あるが、正直なところこれらは自分の意見をはっきり言う欧米で開発されたものであり、

「嫌と言うのも嫌」

というメンタリティーの日本人には合っていないという意見も多い。

薄っすらと「嫌なんです」という態度をとり、それを「察する」

それが日本の文化なので、そんなモアモアとした湯煙のようなものに強い反論をしたところで、「暖簾に腕押し」であまり意味がないどころか、悪感情にしかならない。

そのため私が見た優秀な営業マンの多くは、このような「基本手法」をマスターしてはいるものの、それらはあまり使わず、かわりにある方法を用いる。

それは、

流す

前述のようなうっすらとした「NOの空気」を感じても、「そうですねぇ」、「確かに」などと、反論も同調もせずに、いつの間にか話題を変えてはメリットのみを強調する。

欧米なら議論を戦わせて相手を説得できるのかもしれないが、日本人相手に「説得」は無意味。

明確に反対しない代わりに、がっつりと説得されることもない。

そして「何となく」合意に至るのが日本流で、政治や企業などでしばしばその弊害が指摘されるが、最小単位の家庭がそうなのだから、その集合体の大組織がそうなるのも必然と言える。

もちろん良し悪しの問題ではなく国民性だ。



が、最近、私の周りに欧米人なみに自分の意見を言う奴がいる。

来月2歳になる息子である。

巷ではイヤイヤ期と言うらしい。

数年前に経験した上の娘の時よりだいぶ凄い。

「男の子のイヤイヤ期は女の子の2,3倍キツイぞ!!」

お客様や友人からそう聞いていたが、まさしくその通りで、一切言うことを聞かないどころか、外で地団駄を踏んで泣き喚きながら床に突っ伏す。

仕方がないので抱っこして落ち着かせようとしても、その抱っこすら嫌がり、マグロのようにピチピチと跳ねたかと思えば、ウナギのようにヌルヌルとして体をくねらせる。

思わず頭からか落としそうになり、誠に危ない。

日々、このマグロウナギが全身全霊で

「NOーーーー!!!」

を主張してくるのだが、10数年間、様々な形態の「反対」と闘ってきた父としてはこれはこれで、腕が鳴る相手とも言える。



保険屋の反対処理はイヤイヤ期に通じるか?

そんな大テーマを掲げ、まずは定番のYES BUT法を試してみた。

朝、登園前。着替えを嫌がり奇声を発しながら裸で走り回る場面。

「確かに着替えは面倒だね。でもね、もし着替えなければオムツ一丁で保育園に行くことになるが、それでも良いのかい?」

ヤッ!!(「嫌」のこと)

いい感じだ。

「だったら着替えられるね?」

ヤッ!!

あえなく撃沈。イヤイヤ期にYES BUT法は通用しない。フムフム。

そして翌日。全く同じ場面。

「あれ?この風景、昨日も見たぞ・・・」

デジャブ感に襲われ、思わず日付を確認したがしっかりと日は進んでいた。

今度はブーメラン法。

「着替えたくない。そう思うあたなにこそ着替えが必要なのです!!」

我ながら何を言っているのか分からず、当然、

ヤッ!!

と返ってきただけだった・・・

その後も反証法、応酬話法、全て失敗に終わり、父が学んできた反対処理はことごとく跳ね返される。

ふと見ると、妻が、

「そうかそうか、嫌だよね。じゃあ着替えたらアンパンマン観ようね。」

そう言って、スルスルと作業をすすめる。

2歳児の発する全方向的な拒否反応を全て受け流し、「着替え」という合意を得ているではないか。

まさに日本式の反対処理。

「あのさ、子供のNOに母親がしっかりと対応しないから、日本人は大人になっても議論が・・・」

負けた腹いせの小言も、妻から「かもねー」と流される始末。

7月下旬。朝から30度を超え、外ではうるさいくらいに蝉が鳴いている。

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どうせなら蝉も黙らせてくれない?得意の反対処理で」

勝ち誇った妻の横顔はそう言っているようだった。

保険は売れても、蝉はもちろん子供すら黙らせることは出来ない。

自身の無力を感じ、静かに家を出る父であった・・・

本日のコラムでした。


 

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7月 31st, 2018 by