出来るビジネスマンはやっている「グッドルーザー」の勧め


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深夜1時、六本木。

会員制のゴルフバー。

知り合いの某企業のお偉いさんA氏とほろ酔いの中での真剣勝負。

ゴルフの腕前はその方が100だとすると、私は60くらい。

つまり、A氏の方が断然上手い。

その実力の通り、圧倒的な差をつけられ最終ホールを迎えようとしていた。

「Aさん、ここで終わりではつまらない。最終ホール、この子との『食事権』を賭けませんか?」

この子とは横にいるキャディーのこと。

このような高級ゴルフバーでは、シミレーションなのにキャディーが付いて、クラブの受け渡しやコンピューターの設定をしてくれる。

だいたいが若くて綺麗な子で、この時も「28歳の元グラビアアイドル」が付いていた。

そのグラドルとの食事をする権利を最後の1ホール限定で「賭けよう」との私の申し出に、A氏は「面白い」と即答した。

その子も「良いですね!!」と同意する。

この店に良く顔を出すA氏に気を使ったリップサービスだろうが、おじさん二人の勝負に協力することで盛り上げに一役買ってくれたのだ。

もちろん実際に行くかどうかは別問題。



そしてそれまで絶不調だった私のドライバーが急に冴える。

セカンド(第二打)もバカ当たりし、グリーンにオン。しかもピンまであと2メーター。

対して、妙なプレッシャーがかかったA氏はドライバーを大きく曲げ、セカンドでようやくグリーンの「かなり手前」まで運び、そこで第三打をむかえていた。

ゴルフを知らない方にはピンと来ないと思うが、この状況は圧倒的に私が有利で、はっきり言って十中八九勝負はついている。

「生きるか死ぬかの世界で生きてきた私とAさんではプレッシャーへの耐性が違いますねぇ~」

そんな私の安い挑発に、苦虫を噛み潰したような顔をしてクラブを構えるA氏。

「うるさい。黙ってろ」

そう言って放ったショットはそのままカップに吸い込まれていった。

チップイン

グリーンの外から直接カップに入るショットのことで、なかなかお目にかかれないし、たとえシミレーションだとしても、これだけ距離が残っている中でのそれは奇跡に近い。

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「ウォー!!!」

雄たけびを上げるA氏。

横ではグラドルが「凄い!!」を連発している。

結局3打、「バーディー」でフィニッシュ。

対して、私は2メーターのパターを外し4打として負けた。

「グッドルーザーだな。加藤君」

勝ち誇った顔でそう言われた。

良き敗者

グッドルーザーを直訳すればそうなる。

ギリギリまで競って勝負をドラマチックに演出し、最後に潔く負ける。

名勝負には必要不可欠のわき役だ。



ここで話は変わるが、最近、立て続けに自分より年下の営業マンから

「〇〇さんとの距離が縮まらない」

という趣旨の相談を受けた。

〇〇は上司だったり、顧客だったり、つまりは彼らにとって重要なキーマン。

要は「お偉いさん」ということになるが、いわく、「一切逆らわずに言われたことは全てやっている」、「愛想を振りまいて褒めまくっている」らしいのだが、それでもダメだと言う。

私の持論というか、実際には前職の外資系生保の先輩たちからの受け売りだが、実力者、権力者には2つのタイプがいる。

イエスマン好きと、グッドルーザー好き。

愛想良く、一切逆らわず、イエスしか言わない。そういう人が好きなタイプと、自分の意見をはっきり言うが、最終的には「折れる」人が好きなタイプ。

俯瞰すればどちらもイエスマンなのだが、多少歯向かってくるのがグッドルーザーの特徴である。

コシのない博多うどんと、コシの強い讃岐うどんと言えば分かりやすいか。

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このあたりは「お偉いさん」の心理を紐解けばわかる。

会社や社会で地位が高くなるとそもそもがイエスマンが寄ってきやすい。

「凄いですね。」、「流石ですね。」、「尊敬します。」

そんな言葉は素直に嬉しいが、あまりに続くと「本当かよ?」と思えてくるし、飽きてもくる。

また、歯ごたえのないイエスマンばかりに囲まれていると、ふと「皆、本当のことを言ってるのか?」と不安にもなる。

そこでグッドルーザーが光る。

「おっ、こいつ俺に向かってくるのか、面白い」

と思わせて、そこそこ張り合っては潔く負ける。

「偉い」ということは、その世界で実績を積んできて、並み居るライバルを駆逐してその地位についたということ。だからこそ基本的に勝負好きで「勝つ」ということに快感を覚える人が多い。

かと言って自分の地位を脅かすほどの「真剣勝負」をしたいわけではないので、ガチで強い奴が好きなわけではない。

ほどほどが良いのである。



若い奴の鼻っ柱を折ってやることで満足を覚え、勝つことで自分の実力を再認識する。

その「プロセス」を提供するのがグッドルーザーの任務なのだ。

だが、負ける方も意外と難しい。

引き際を間違えたりすると、ただの「可愛くない奴」になってしまい、あまりに早いと「何だか良く分からない」ということになりかねない。

相手が怒るか、怒らないかギリギリ。

噛み砕いて飲み込めるギリギリが良い。

そして間違っても「勝っては」いけない。

たまにやり過ぎて相手をこてんぱにしてしまうバッドウィナーがいるが、組織においてはただのヒールとなって埋没していく。

「だから、変に気ばっかり使わないで、たまには自分の意見をはっきり言ってみれば?偉い人は意外と喜ぶよ。もちろん最後は折れることを前提で」

そんな話を若い営業マンにしたところ「恐くて出来ない」と口を揃えていたが、彼らの〇〇さん達の話を聞くに、どうやら単純なイエスマンが好きなわけでもなく、少々生意気な奴を好む印象であった。

とは言え、グッドルーザーには多少のリスクもある。

強要するわけにもいかないので、

「まあ、試しにやってごらんよ」

そう言って別れた。

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話は冒頭に戻る。

勝負に勝ったA氏は上機嫌で、場所をバーに変えてグッドルーザーの解説が続いていた。

「俺も若い頃はゴルフで随分とグッドルーザーを演じた。最後に調子を崩すふりをして相手に華を持たす。嘘臭くないようにこれをするのがなかなか難しい。」

A君は若いから、メンタルが弱いな。

相手からそう言われ「まだまだ修行が足りません」と返す。

得意満面な顔をしてもらえば、距離はグッと縮まるらしい。

とんだ猿芝居だが、この方もそうして今の地位を築いたわけだし、「偉い」と言われる人にはどこか同じようなところがある。

そんなA氏からかけられた「グッドルーザーだな」という言葉は最高の誉め言葉なのだろう。

が、A氏は勘違いしている。

私は負ける気などさらさらなかった。

何故なら、そのグラドルが無茶苦茶可愛かったからだ!!

勝負にかこつけて「食事権」の話を持ち出し、あわよくば本当に行きたかった。

パターを外したのも、プレッシャーに負けて力が入ってしまっただけで、わざとでもなんでもない。

しかし、そんな本気度も良い調味料になる。

挑戦者が真剣であればあるほど、打ち負かした時の快感は大きいのだから。

そう思えば我ながら最高のグッドルーザーであるとしか言いようがない。

本日のコラムでした。


 

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9月 21st, 2018 by