ある朝、妻から
「子供の薬、薬局でジェネリックを勧められるんだけど、本当に飲ませても大丈夫なのかな?」
と聞かれました。
そして、
「会社のブログ。いつも下らない話ばかりなんだから、たまには真面目に調べなさいよ。不安に思ってるお母さん多いはずだから」
とキツイ一言。
実際、周りに聞いてみても、
ジェネリック=コピー品、B級品
というイメージがあるのか
「だったら正規品の方が安心」
と思うお母さんが多いようです。
また、子供の医療費は無料なので「タダなら正規品の方が」という心理もあるのでしょう。
とは言え、国や自治体の財政を考えれば、効果が同じなら「安い薬」の方が良いはず。
無料とは言え結局のところは社会保険料から支払われているわけですから、巡りめぐって負担しているのは自分です。
正規品とジェネリック、一体どちらが正解なのでしょうか?
本日は知ってそうで知らないジェネリック薬品について、大学で化学を専攻し、将来は研究者を夢見たのに、何故か保険の営業マンになってしまった私が分かりやすく解説致します。
さて、まずジェネリックの定義です。
これは皆さんご存知の通り、特許が切れた薬を他のメーカーが作ったものです。
薬は開発するのに何百億という投資が必要なため、新薬には
「原則20年間(再申請で最長25年まで)」
の特許が認められ、その間は1社しか供給できません。
メーカーはその20年間で開発費用を回収するわけです。
この記事の中では「本家」とでも言っておきましょう。
しかし、この20年間が過ぎると「特許が切れる」ため、他のメーカーが同じ成分で薬を作ることが出来るようになります。
当然開発コストがない後発メーカーは同じ薬を安く作れます。
実際の価格を見ると、おおよそ3割から5割程度は安くなるようです。
これがジェネリック医薬品です。
医療費が増大している日本にとって、薬の値段が安くなることは良いこと。
そのため政府も使用を推進していますが、現在のジェネリック代替率は55%程度。アメリカ 91.9%、ドイツ84.8%に比べ大幅に低いレベルです。
政府はこれを「2020年までに80%にする」という目標を立てています。
ちなみに55%が80%になった場合、年間の削減額は2000億と見積もられていて、つまりジェネリック代替率が1%上がるだけで約80億円の社会保障費が抑えられることになります。
しかし、ジェネリック薬品にも弱点があります。
それは
「成分が同じと言っているが、完全に同じではない」
ということです。
ご存知ない方が多いですが、薬には3つの特許があります。
物質特許(薬の主成分)
薬剤特許(添加物の成分)
製法特許(作り方。薬のコーティングなど)
先に「20年」とご説明したのは、物質特許のことです。
薬の効果である「物質特許」はコピーできても、薬剤特許や製法特許を完全に真似ることは出来ません。
そのため「成分が同じ」と言っていても、添加物の成分は各メーカーによって異なります。
例えば胃薬でご説明すると、添加物がどのような成分かによって胃の中での「溶け具合」が変わります。
つまりは薬の効き方も変わってくるので、本家とジェネリックは
「全く同じ」
ではないということです。
もちろん厚生労働省から、薬の効果が
「本家の80~125%の範囲に収まるように」
という基準が設けられていますが、裏を返せばその程度の誤差は容認されているということです。
しかし、逆にジェネリック薬品の方が優れている場合もあります。
本家は20年前の技術で作ったものですから、昔は水で飲まないといけないものだったが、今の技術で水なしでも口の中で溶けるようになっていたり、添加物についてもより安全なものが使われている場合もあります。
つまりは本家もジェネリックも一長一短があり甲乙つけがたい。
ほとんど一緒と言って差し障りがないということです。
なお、この記事を書くにあたり、薬剤師や薬局経営者など数人に話を聞きましたが、ジェネリックを使用したことによる事故は「一度も聞いたことがない」という回答でした。
従いまして、化学専攻の私の結論としては
「子供にジェネリックを飲ませても問題ない。日本の財政を考え、すすんでジェネリックを選びましょう。」
というもの。(あくまでも我が家の話です。)
しかし、日本では以下のような理由でジェネリックが浸透していません。
・「コピー品、B級品」というイメージ
・薬自体は安くなるが、個人は3割しか負担しないため「割安感が薄れる」
・「なんとなく不安だから正規品を」という感情
・医師が「成分が多少でも違う」ことを考慮し、ジェネリックを処方しない
#それと「医師が薬の営業と仲が良いからそれを処方する。」という裏事情もありますが、その闇は深すぎるのでここでは追求しません。
なお、ジェネリックの話題になると
「医療費無料の生活保護受給者がジェネリックを拒否している」
というネガティブな話になりがちですが、これは誤解です。
ここでは本筋と関係ないので詳細には触れませんが、生活保護受給者のジェネリック代替率と社会保険加入者のそれとでは、実際生活保護受給者の方が低いのですが、その差はほんの数パーセント。
ジェネリックが存在しない難病で苦しんでいる方も多いので、生活保護受給者のジェネリック代替率が低いのは仕方がないとも言えます。
また、今はジェネリックを拒否するとケースワーカーから指導されるため、多くの受給者はすすんでジェネリックを受け取っています。
「タダだから高い方を」という人がいることを否定はしませんが、ごくごく一部。
現在の「生活保護はジェネリックを使え!!」という風潮はただの弱い者イジメでしかありません。
話を戻します。
しかし、ここに来てジェネリックを後押しする動きが出てきています。
それがAG(オーソライズドジェネリック)です。
これはジェネリックメーカーが本家メーカーに特許料を支払い、
「全く同じ成分(添加物も同じ)」
の薬を製造するライセンスを与えるもので、ジェネリックメーカーからすれば、
「完全に同じ。しかも安い」
と主張できます。
本家からしても、ジェネリックに市場を奪われよりは、特許料が手に入るため双方にメリットがあります。
このAGの破壊力は凄まじく、昨年キョーリン製薬が販売したモンテルカスト(喘息薬であるシングレア・キプレスのジェネリック)というAGはわずか4ヶ月で53億円を売上げて、医薬業界の方々の度肝を抜きました。
成分が全く同じAGは医師も安心して処方することが出来る上、前述のようなお母さんの心配も解決することが出来ます。
また本家とジェネリックの中間商品としてAGが認知されれば「コピー品、B級品」というネガティブなイメージも払拭されるかもしれません。
本日はジェネリックをめぐる最近の動向についてレポート致しました。
ちなみに、このことを妻に報告したら
「ねっ?勉強になったでしょ?」
だ、そうです。。。。
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