あなたの実家は大丈夫?複数火災保険契約の罠・・・


先日、ある知人から相談を持ち掛けられた。

「うちの実家、火災保険に3つ入ってるんだけど・・・」

当初は彼の言っている意味が分からず、とりあえず証券を見せてくれ、と返したところ、本当に3通の保険証券が出てきた。

日付を見ると、全て有効なもので、3つとも機能している。

「これ・・意味ないよ」

そう告げると、友人はこう言った。

「でも、実際に火災になれば役に立つんでしょ?」

多少過剰な保険でも、事故が起これば有効。

そう思いがちだが、火災保険(損害保険)に関してはそうではない。

この点、同じ保険でも生保と損保で異なる。

例えば生保の場合、

A生命 死亡保険金 1,000万円
B生命 死亡保険金 2,000万円
C生命 死亡保険金 3,000万円

と3つの生命保険に加入していれば、亡くなった場合、この全て、合計6,000万円が受け取れる。

しかし、損保は違う。

A損保 火災時の補償金 1,000万円
B損保 火災時の補償金 2,000万円
C損保 火災時の補償金 3,000万円

このような3つの火災保険に入っていたとしても、この全てを受け取ること出来ない。

例えば家が火災で焼失し、その被害が2,400万円だったとしよう。

A損保は自社が受けている補償の上限ギリギリの1,000万円を支払う。

B損保は既にA損保が1,000万円を支払っているので、実被害2,400万円から1,000万円を除いた1,400万円(2,400-1,000)を支払う。

1,400万円は、自社で引き受けている2,000万円以内なので問題なく支払われるだろう。



では、C損保はどうか?

結論から言えば、一切支払いには応じない。

既に「損害が補填」されているからである。

つまりはC損保に支払ってきた保険料には何の意味もない。ということになる。

逆にA損保、B損保に請求せずに、初めからC損保に請求すれば、2,400万円満額を支払うが、今度はA,Bが支払わない。

「実際の損害額」

までしか補填されないのである。

なお、裏側では損害保険会社間で負担する保険金の「按分」をする。

今回、3つの保険を合計すると、補償金額の合計は6,000万円。

つまり、

A損保 全体の1/6の補償を引き受けている(1,000万円/6,000万円)
B損保 全体の1/3の補償を引き受けている(2,000万円/6,000万円)
C損保 全体の1/2の補償を引き受けている(3,000万円/6,000万円)

ということになる。

被害額は2,400万円。

前述の割合に応じて、

A損保 400万円(1/6)
B損保 800万円(1/3)
C損保 1,200万円(1/2)

となる。

仮にC損保が一時的に2,400万円を契約者に支払ったとしても、裏側ではA損保、B損保から、それぞれ上記のお金を貰う仕組みになっている。

損害保険の場合、1,000万円、2,000万円、3,000万円という補償額はあくまで「上限」でしかないないのである。

では、6,000万円の被害が出たらどうか?

これは3社で合計して満額を支払うことになるのだが、実際にはそんなことはまずない。

火災保険に加入する時には、

「その物件の価値はいくらか?」

という査定がある。

そもそも必要以上に大きな金額の保険には入れない仕組みになっている。

そのため「提示された上限一杯の金額まで」加入するのが普通で、その金額を下げることはあまりない。

先の例で言えば、恐らく一番最初に入ったのはC損保の3,000万円だろう。

新築時に

「この物件には3,000万円の価値があります」

という判断で、C損保が火災保険を販売しているので、それが火災で燃えてしまっても、それ以上(3,000万円以上)の価値だと判断することは難しい。

つまり、その後、追加されたA、B損保の補償は「ただ過剰なだけ」ということになる。

1社だけの場合、決まった上限までしか入れないのに、複数社になると「過剰補償」も可能になる。

保険会社としては平時では保険料を徴収出来て、事故の時には支払い金額が少なくて済むので、非常にメリットがあるが、反面、契約者にはデメリットしかない。



では、何故こんなことは発生するのか?

それは損害保険会社が加入時に何のチェックもしていないから

本来であれば「他に契約がないか?」、「過剰ではないか?」という点を保険会社が「入口(加入時)」で調べ、必要以上の保険は販売しないように規制するべきだろう。

対して、実際に保険金を支払う「出口」では他社の加入状況をしっかり調べ、負担を按分する。

入口は甘いのに、出口は厳しい。

これでは契約者の理解は得らず、業界の悪習と言わざるを得ない。

「火災保険の複数契約」

意味がない、と分かっていて契約させるのはほぼ詐欺行為だが、冒頭のように「火災保険3件」というような例もあるし、地方に行くと、民間の損保と地域の共済で、同じような火災保険に入っているようなことも散見される。

そのほとんどがお年寄りで、良く分からず、言われるがままに契約しているのだろう。

皆さんの「ご実家」もそうなっていないか。

今度、帰省した時にでも調べてみてはいかがだろうか?

本日のコラムでした。



 

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11月 11th, 2019 by