火災保険金70億円でも再建出来ず。首里城と姫路城をわけたもの


「えっ?大同じゃなかったの?」

先日、ある保険関係者から、首里城の火災保険70億円を受けていた保険会社の名を耳打ちされ、思わずそう言ってしまった。

大同火災

全国的には全く無名だが、沖縄県那覇市に本社を置く損害保険会社で、現地では絶大なシェアを握っている。なお、大同生命とは何の関係もない。

昔は日本各地にあった「地場の損保」だが、規模の経済の前に統廃合され、ほとんどはその名を残していない。

その点、大同火災は稀有な存在で、「うちなんちゅ好き」の県民性に支えられているのだろう。

沖縄の魂 首里城

当然ながら、地元の大同が保険を受けていると思っていたのだが、実際には大手4社の一角であるX社だったそうだ(名前は伏せる)

いくら地元で強いとは言え、大同火災の資本金は10億円。

保険金70億円の保険は受けきれなかったのかもしれない。



最強「大同」の前に、ほとんど沖縄マーケットを開拓できていなかった大手損保各社だが、この規模の保険になると強い。

年間保険料2,940万円、保険金額70億円

という大型契約をかっさらって行った。

なお、このX社の事前査定では、

首里城の価値は100億円
(ここまでなら保険を受けられる上限)

と算定されていたのだが、実際の契約は70億円で締結されている。

ちなみに、この100億円の根拠は、

「今、同じものを再建するとしたらいくら必要か(建物価値)?」

ということを保険会社が計算したものなのだが、実際の再建コストは150~200億円とされているので、結果的には保険会社の査定が「大きく甘かった」ということになる。

とは言え、このような文化財の価値算定は難しい。

例えば、京都などの神社仏閣も火災保険には入ってはいるが、

・今では手に入らない材料をどう評価するべきか?

・仮に立て直す場合、再建作業が出来る人が全国に2,3人しかいない。
 しかも全員70歳オーバー

などなど、金じゃ解決しないことばかりで、結局は「エイヤ」で保険金額をはじくしかないそうだ。

きっと首里城もそんな感じでキリの良い100億円となったのだろう。



しかし、それでも保険会社は100億円まで受けると言っているのに、何故に70億円までしか入っていなかったのか?

一部では「保険料をケチって70億円までしか入っていなかった」などとも報道されているが、多分違う。

あくまで私の推測だが、1992年当初の建築費が73億円だったことから、スタート時から

「火災保険金は70億円」

で契約されており、同条件での更新がされていただけではないか?

前例主義の役所ではこういうことが多い。

今となっては100億円かけておけば、と関係者も悔やんでいるだろうが後の祭りだ。

また、年間保険料がここまで高額だと、恐らく毎年入札が開催され、保険会社各社が熾烈な競争をしていたと思われる。

ある年はA社、翌年はB社が、そして今年はX社だった。

この火災はX社にとっては大きな痛手。

ただでさえ、今年は災害が多く、損保各社で支払いが劇的に増加した一年だったところに

「+70億円」

は決算にも響くレベルだろう。

そして、今年契約を逃したA社、B社の担当者は

「うちでなくて良かった・・・」

と胸をなでおろす。

火災が起こったのだから保険金を支払うのは当然なのだが、支払う側ではこんな悲喜こもごもがある。



しかしながら、今回の火災。

再建費用に遠く及ばない100億円の評価しか出せなかった保険会社も、70億円までしか契約していなかった沖縄県もお粗末としか言いようがない。

結局のところ本当に燃えてしまうとは誰も思っていなかったのだろう・・・

これに対し、火災に対して全く違うアプローチをしている「城」がある。

言わずと知れた国宝「姫路城」

その姫路城は火災保険に加入していない

その理由は、

「燃えてしまえば終わり。再建したとしても、もはやそれは姫路城ではない。」

ということ。

「絶対に燃やさない」

そのために、スプリンクラーや火災報知器の整備に予算をあて、有事のための訓練を怠らないそうだ。

火災なんて起こらないと高をくくり、更には保険の補償内容も見直さなかった首里城と、火災が起こることを前提として準備に余念がない姫路城。

この2つの対比を見るに、今回の首里城の火災は人災の側面が強いと言わざるを得ない。

まさに人は城、人は石垣ということだろう。

本日のコラムでした。



 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします


12月 12th, 2019 by