初めにはっきり言っておくが、本日のコラム
何の情報もない
ただただ、自分が思ったことを人に言いたいがために書いている。
先日、子供のお稽古事を待つ間、喫茶店で一息ついていると、横の席にいかにも保険屋という男性が座ってきた。
この業界に16年いるので、何となく匂いで分かる。
恐らくA社、雰囲気からして入社して1,2年。
そう見た。
そして彼は席につくなり、バックから自社商品のパンフレットを取り出す。
そのパンフレットには私の読みとは全く違うB社のロゴ。
16年の経験もあてにならない。
数分後、本日の商談相手と思われるお客様が来る。
20代後半の女性。
今から隣で商談が始まる。
自分が保険の仕事をやっていても、人の商談を聞くことはほとんどない。
この時点で、私の好奇心はマックスまで高まり、手ではスマホをいじっているものの、耳はダンボになっていた。
彼女は男性の正面に座ると、
「お久しぶり」
と一言。
しかしその声には何やらトゲがある・・・
「ご、ごめんね。忙しいところ」
彼も「トゲ」を感じたのか、腰が引けている。
この二人、どういう関係だ?
普通のお客様なら、こんなに感じ悪くはないだろう。
しかし、その謎はあっさり解けた。
「しかし、よく連絡してこれたね?あんな別れ方して、ハッ」
元カノだ
しかも、その原因は男性の浮気なのか、それとも浮気なのか、はたまた浮気なのか、明確なことは分からないが、二人の別れ方は酷かったらしい。
この一戦絶対に見逃せない。
そう思い、耳の収音スイッチは最大に。
「本当にあの時は申し訳なかった。」
まあ、そうだろう、そうだろう。
全面的に非を認め、完全謝罪をしないと保険の話どころではない。
「自分でも最低なことをしたなって。ずっと謝りたくて、今回、それもあって連絡した。」
おっ、上手いじゃないか。君。
思わず合いの手を入れたくなる気持ちをグッと抑える。
そんな殊勝な彼の態度に、女性も軟化。
「まあ、いいけど・・・もう何年も前だから。で、何?私、保険なんて入らないよ」
「そうだよね。でも、電話でも話したんだけど、保険じゃないんだよ。」
「だって、〇〇君(元カレ)、保険会社に転職したんでしょ?」
「そう。でも今の時代、保険会社って言っても、扱っているものは保険だけじゃないんだよね」
話を遮るようで申し訳ない。
保険会社一つ言い当てることも出来ない無為な16年の経験だが、これだけは断言する。
保険会社が扱っているのは保険だけだ
話を続けよう。
「お金を預けて、プロが運用する資産運用系の商品で、気軽にプライベートファンドが作れるんだよ」
「ふーん、そんなのもあるんだ」
「でも保険会社がやっていることだから、ほぼ元本保証だし」
資産運用「系」
系ってなんだ?
「気軽」にプライベートファンド・・・
「ほぼ」元本保証・・・
コンプライアンスにひっかかりまくるような話法にはかなり戸惑ったが、この業界に入ってきたばかりの若者が知識不足ながら一生懸命に説明しているのだ。
ここは温かい目で見守ろう。
ちなみに彼が売り込もうとしている商品は、
「一時払い変額」
というもので、銀行の窓口などでさかんに売られている商品。
もちろん保険だ。
一時金として1,000万円なり、500万円なりを預けて、いくつか用意されている「投資先(ファンド)」を自分で選ぶ。
運用成績は自己責任で、元本保証など「ほぼ」どころか、どこにもない。
「額」が「変わる」から変額なのだ。
そして、B社の変額商品に使われているファンドは、
「株価が良い時に波に乗れないのに、悪い時にはきっちり下げる」
と評され、同種の商品の中では「中の下」という感じ。
その後も彼の必死の説明が続く。
「このファンドは海外の株とかに投資をするやつで」
「これはREITって言って、不動産とかに投資をするやつ」
いちいち「とか」を付けるな!!素人じゃあるまいし!!
私が指導教官ならそう言ってぶん殴っているところだが、目の前の彼女は一応、フムフムと聞いている。
話の流れから推定するに、彼女の家は資産家で、彼女自身も小さいころからの贈与により、結構な金額の貯金を保有しているらしい。
良く見れば、時計もバックも良いものをもっているので、きっと良家のお嬢様なのだろう。
そのあたりの事情は「元カレ」だけに熟知しており、
「おじいちゃんから貰ったって言ってた貯金あったでしょ?あれなんか銀行入れておいても仕方ないから、こういうのに」
みたいな話をする。
ああ、そういうことか。
それ目当てで元カノに連絡したわけか・・・
ろくな商品説明も出来ないのに、そんなところだけは目鼻が効く男なのだろう。
更に驚くべきことは、こんな拙いトークにも関わらず、元カノはまんざらではない様子。
「確かに銀行入れておいても無駄だからね。〇〇君(元カレ)も頑張ってるみたいだから、1,000万円くらいならやっても良いかも。ちょっとパパに聞いてみる。」
マジで?と思ったのもつかの間。元カレがこう言う。
「助かる!!実は今、会社のナンバーワンを狙って、少しでも数字を積み上げたいんだよ」
「えっ?今の会社入って1年くらいでしょ?それでナンバーワンなの?」
「まあ、ラッキーなだけだよ。皆が助けてくれたから。でも折角のチャンスなので、トップを取りたいなと思って、恥を忍んで君に連絡したんだよ。」
「そうなんだ。。。やっぱり〇〇君、凄いね。」
おいおいおい。いい加減にしろよ。お前
変額の説明も出来ない奴がトップなんて取れるわけねーだろ!!
行く先がなくて、連絡しただけだよ!!
お嬢ちゃんも目を覚ませ!!
コイツは保険業界にたくさんいる「自称トップ君」だよ!!
しかし、そんな私の心の声は届かない。
そして1時間。
娘のお迎えの時間となり、後ろ髪を引かれる思いで、私は席を立った。
横を見ると、元カレと元カノは
「何ならもう一回付き合っちゃうんじゃないか?」
というノリで、
あの時、あそこへ行ったよね
あのこと、覚えてる?
などと昔話を続けている。
浮気して別れた(多分)にも関わらず、いけしゃあしゃあと資産家の元カノに連絡し、コンプラ違反のトークで煙に巻く。
それでも元カノは彼を許して大金を預けようとし、挙句の果てには「自称トップ」に惚れ直す始末。
しかし、その理由ははっきりしている。
それは、彼が・・・
ムチャクチャイケメンだからだ!!
ちょっと暴飲暴食し過ぎた竹内涼真。
そんな感じの見た目で、男の私の目からみても良い男だった。
結局見た目か・・・
こんな商談もあるんだな・・・
別の意味で凄いものを見てしまった私は、腹の底に妙な敗北感を抱え、娘と家路についたのであった。
本日のコラムでした。
この記事が気に入ったら
いいね!しよう
最新情報をお届けします