30年来の香川ウォッチャーが語る酒乱学


本日のコラム。

読み方によっては非常に差別的になってしまうので、そこのところを注意して書き進めていきたい。

また、これから述べることに該当する方には、誠に申し訳ないし、そして決してアナタのことを言っているわけではないということを重ねて強調させて頂きたい。

さて、香川照之さんのことである。

個人的に大好きな俳優さんで、香川さんが20代のころVシネマで「静かなるドン」に出演していたころからのファンだ。(未成年はアダルトビデオが借りられなかったので、Vシネマのチョイエロに興奮していた。)

40代で市川中車として歌舞伎に挑戦してからの舞台も数年おきに3度ほど拝見している。

いきなり余談になるが、正直、初めて見た舞台はなかなか下手だった。

なお、「下手だった」と偉そうに言ってはいるが、私自身、歌舞伎には何の造詣もない。

ただ、母が歌舞伎狂であり、そのお供で若い頃から回数だけは見ているので、下手か上手いかくらいは分かるつもりでいる。

なお、自称歌舞伎通の母は、初めて見た市川中車に対し、

「何だか映画に出てくる『歌舞伎役者の役』を俳優が演じてるみたいね」

となかなか辛辣なことを言っていて、ただ妙に納得してしまった記憶がある。

しかし、2回、3回と重ねるにつれ、どんどん良くなっていく。

特に3回目、現代女形最高峰と評される坂東玉三郎さんと共演した舞台。

そこにいた中車はもう完全に歌舞伎役者であり、何十年もやってきたような風格すら漂っていた。

辛口の母ですら「悪くない(どこから目線だが分からないが)」と言っていたので、まあ、そういうことなのだろう。

余談が長くなるが「型」というのは、不思議なもので子供の頃からやっているのと、成長してから始めるのでは身の着きかたが違う。

私自身、小学校2年生から剣道をやっていて、高校まで続けたが、あれもある種の型であり、中学、高校あたりから始めた人は、どんな運動神経が良くても、子供の頃からやっている人に何故か勝てない。

素振り一つでも、何かが違うのである。

そのことを身をもって知っていたので、香川さんの才能、そして努力に驚愕し、本当にすごい人だと思った。

ただ、酒乱だった・・・

クラブのママの髪をワシ掴みにしている写真を見たが、あれはなかなかだ。

ママ、それも銀座のママともなれば、それは夜の世界の権威職であり、その髪は権威の象徴。

いわば神主の烏帽子や、力士の大銀杏と同じようなもので、それを「ワシ掴み」にするとは、とんでもなく不敬である。

しかし、香川さんの酒乱は有名な話らしく、随分前に芸能関係のお客様からそのことを耳にしたこともあったが、ここまで大っぴらになるとは。。。

これも時代なのだろう。

さて、酒乱。

こちらは歌舞伎以上に一家言ある。

既に鬼籍に入っている私の父が超ド級の酒乱だったからだ。

酔った父が帰ってきて、母と激しく喧嘩。

当然、手も出るし、殴られてシクシク泣くような母でもないので、父に抵抗して刃物を振り回すこともあり、なかなかデンジャラスな場面だった。

ある時などは、暴れる父から母と子供2人で箱根の旅館に逃避したこともあり、そんなこんなで酒乱との付き合いは長い。

また、営業という仕事柄、色々な方と酒席を共にすることも多いので、軽重さまざまな「酒乱」を見てきた。

ここで、やや結論じみたことを言うと、父親との関係と酒乱の間には多少の関連性があるかもしれない。ということ。

まず、私の父には父(祖父)がいなかった。

父は昭和5年生まれ。父の母(祖母)は当時としては珍しいシングルマザーで、つまり父は父を知らずに育った。

この点、幼少の頃に両親が離婚している香川さんも同じ。

なお、私が社会人になってから接してきた「酒乱な方々」も、よくよく話を聞くと、両親が離婚していたり、そうでなくてもお父さんがほとんど家にいなかったりするような方が多かった。

ここで話を冒頭に戻したい。

これをもって「お父さんがいない人は酒乱になりやすい」と言いたいわけではないということ。

お父様がいなくても、ほとんどの人は綺麗に酒を嗜むし、もしくは若い頃多少素行が悪くても、諸先輩や友人などから窘められて、年齢の経過と共に普通になっていくものだ。

また、立派なご両親のもとで育った酒乱もいるので、そこに明確な因果関係などない。

だが、一つだけ思うのは、酔った父親の姿を見ていない、というのは「酒の教育」という面では多少マイナスかもしれない、ということ。

子供は「酔った大人」を見て、酒を飲む前から酒を学んでいる。

その身近な例が父親だろう。

普段はいつも険しい顔をしているのに、酒を飲むと上機嫌になる。

普段は優しいのに、酒を飲むと豹変する。

これらの「父の背」をサンプルケースとして、子供なりに酒の効用を学習しているのではないか?

ちなみに、うちの父は「普段から無法者なのに、酒を飲むとより一層大暴れする」というもので、厄介以外の何者でもなかったが、父親も知らず、戦後間もない頃の荒れた時代に成人し、学もなく、人脈もないところから自分で事業を興して小金を持ってしまったので、酒の飲み方について誰も教えてくれなかったのだろう。

そう思えば多少の憐れみを感じなくもない。

なお、私の場合、若い頃は多少酒グセが悪かったが(父の血筋かもしれない)、幼少の頃に見た父親の姿を「反面教師」として、自分を戒め今に至る。ここ10年は大人しいものだ。

 

そして、30年来の香川ウォッチャーとしては、香川さんにもうちの父と似たものを感じる。

父親は幼少の頃に離婚した市川猿之助(三代目)さん。

東大を出て、役者の道へ。初めから今ほど売れていたわけではないが、それでも明確なスランプもなく、順調にキャリアアップ。

 

反面、心に抱える、父、歌舞伎への憧憬。

周囲からすれば「知らんがな」という話だが、色々なプレッシャーもあって、酒を口にすると不安に飲み込まれてしまう。

要は気が小さいのだろう。(酒乱の人はだいたいそう。それが証拠に、いくら酔っても本当に強い人には喧嘩は売らない)

こんな時、酔った父親の記憶があれば、それをモデルケースとして自分を修正することが出来るのかもしれないが、その点、私の父も香川さんも「モデルケースなき不幸」と言えるかもしれない。

しかし、立場を変えれば私自身も二人の子供の4つの目に酒に酔った痴態を見られているということになる。

立派な酒飲みとはいかなるものか?

それを背中で教えねば。そう思いながら、日々酒と向き合っている。

本日のコラムでした。

 

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9月 4th, 2022 by