若い人には「思春期」があるが、おじさんには「思秋期」がある。
それが最近の持論だ。
遥か遠く昔のことだが、私にも「思春期」があった。
「春を思う時期」と書いて思春期。
中学3年から高校あたり。人生の春を迎える「ちょっと前」という感じか。
大手を振って、酒、タバコをやれる大学生(正確には20歳からだが)から、自分で金を稼ぎ始めて「一段上の遊び」を覚える20代中盤あたりまでを「春」とするならば、それに思いを巡らせる時期。

それが思春期であり、大人と子供の境界線で、ワクワク感と不安が合い混じったような不安定な期間。
自意識だけが高く、何とも扱いずらく、周囲の大人を困らせる。
そこから弾けるような春を迎え、さらには20代後半から40歳くらいまで、仕事を覚え、ノーリーズンで自分に自信がある時期が「夏」というところか。
そして秋である。
しかし、秋はいきなりは来ない。
温かくなる一方の春夏にはさほどの境界線はないが、温度差の激しい夏と秋には、一定の準備期間が必要なのだ。
それが「思秋期」
これから枯れていく、そんな「自分の秋」に思いを巡らせる時期だ。
中年の危機、ミドルエイジクライシス、そんな言い方もあるらしいが、「思秋期」の方がしっくりくる。
昔は浴びるほど飲めた酒も飲めなくなり、あんなに好きだった脂コッテリの特上ロースも1,2切れで「もういいや」と箸を置く。
体力は落ち、目はかすみ、睡眠は浅く。
そして、今の流行りの音楽の良さが分からなくなって、最近の若い子の顔が全員同じに見える。
私ごとだが、つい最近まで、歌手のあいみょんさんと、女優の小松菜奈さんを「同じ人」だと思っていた。
「歌も歌えて女優も出来て、器用な子だなぁ」
そう思っていたが、ある時、妻から「えっ?別人だよ・・・」と告げられ、驚愕した。
2人とも「いつも眠そうな顔した子」という認識で覚えていたのだが、確かによく見ればまったく違う。
全くもって思秋期は恐ろしい。

そして、「気難しい」という点においても、思春期と思秋期は似ている。
子供だと思っていた自分の身体や精神が大人に近づく思春期と、若いと思っていた自分の身体や精神に老いを実感する思秋期。
それが上りであれ、下りであれ、大きなカーブにさしかかれば人はよろめく。
些細なことで「俺を誰だと思ってるんだ!!」と激高。
しかし、「とくに誰でもない」という点では思春期の頃と変わっておらず、人生における意味のない自意識過剰は、謎の2度目のピークを迎える。
しかも、2度目の方が弁が立つぶん厄介である。
人によっては金と小さな権力を持っていることもあり、そんなもん振り回された日には、ほぼ「通り魔」。周囲からしたら迷惑以外の何者でもない。
だからこそ、思秋期のおじさんには要注意。
否定はもちろん、衰えをおちょくるようなことも厳禁。
思春期の子供に何を言っても無駄なのと一緒で、良かれと思って言ったことですら、恨みを買うだけだ。
思えば、私も若い頃から不用意な一言で数々の「先輩」をキレさせてきたが、その先輩たちは当時40代だった方が多かったような気がする。
思秋期ど真ん中世代に、春夏を謳歌している生意気な私が軽口を叩く。
そりゃ大惨事になるだろう。
今ならその気持ちが分かる。
そんな思秋期おじさんには、
「マジっすか?凄いっすね。流石っすね。」
このM・S・Sで返しておくことをお勧めする。

思春期同士であれば、お互いパワーが有り余っているので、本気でぶつかり合っても、次の日にはケロッとしているが、思秋期同士がぶつかりあえば「一生の絶縁」ともなりかねない。
そのため、私自身、最近では、同年代の友人やちょっと先輩、ちょっと後輩の「思秋期世代」にはすごく気を使っていて、内心思っていることの2割も伝えていない。
そういう意味では、思春期より面倒である。
では、この思秋期はいつ終わるのか?
少年、少女の思春期がだいたい初体験や進学などで終えるように、思秋期にも「きっかけ」がある。
それは病気だ。
大きな病気を経験する。
もしくは何かしらの「深刻」な体調不良により、何か(酒や趣味など)を断つ。
そのようなことで、「ああ、俺はもう若くないんだ」と諦め、本格的な秋へ移行。
そして思秋期も終焉を迎える。
そんなことが多いように感じる。
私の知り合いでも、思秋期爆走中だったところに、生死を彷徨うような病気をした方がいたが、一気に思秋期を終え、マロングラッセ風味の素敵なオジサマになられた。
近くに寄るとまるで栗のような芳香な匂いが漂い、それが香水なのか加齢臭の進化系なのかは分からないが、ふと気づくと匂いにつられたリスが肩に乗っている。
近くの小動物すら寄せ集めてしまう包容力である。
どうか長い目で見守ってあげて欲しい。
思秋期というトンネルを抜け、おじさんがオジサマになるのを。
それまでは優しく接してあげて欲しい。
もちろん私を含めて。
本日のコラムでした。
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