ドン・ファン遺産は誰のもの?


ドン・ファンの原典である戯曲「セビーリャの色事師と石の招客」

作中、ドン・ファンは、女性の家に恋人を装って侵入したり、娘を助けようとした父親(フェルナンド)を惨殺したり。色男というより「凶悪犯罪者」である。

そして、最後は自分が殺したフェルナンドの墓の前で、その亡霊によって、地獄の炎で焼かれ絶命する。

紀州のドン・ファンこと野崎幸助氏も若い頃はコンドームの行商でご主人不在の家で、奥さん相手に「実演」

それで販売実績を増やしたそうで、このあたり本家と同じ匂いがしなくもない。

しかし、その最後は、地獄の炎ではなく、覚醒剤による毒殺だった・・・



3年もの月日が流れ、元妻が逮捕されたが、仕事柄どうしても「相続」に注目してしまう。

本件がどのような結末を迎えるのか興味津々と言ったところだ。

まずは、事実関係を整理する。

遺産は13億5,000万円。

野崎氏には子がいないので、この場合、妻3/4、兄弟姉妹1/4で分けることになる。

ざっくり計算すると、妻が10億円(3/4)、他兄弟が3.5億円(1/4)

野崎氏には4人の兄弟がいるので、一人あたり8,500万円(1/16)の遺産を受け取れるのだが、今回は以下の2つのファクターが絡み合い、複雑な状況になっている。

1 和歌山県 田辺市に遺産を全額寄付する旨の遺言書の存在

2 妻が殺害した「可能性」

1については、公正証書でない遺言書が存在する(多分、自筆証書)

そして、この遺言書を巡り、2020年の5月に兄弟達が遺言書の無効請求を提訴している。

自筆証書の場合、「全てを自筆で書く」、「署名、捺印、日付」など、細かいルールが決まっており、それらが満たされていないと「無効」とされることもある。

「提訴をした」ということはご兄弟としても勝算があってのことだろうから、何かしらの不備があったのかもしれない。

かと言って、不備=即無効というわけでもなく、このあたりは難しい。

2については、仮に妻が野崎氏を殺害(すなわち有罪)していたとしたら、相続人の資格を喪失する。

相続人の資格を失えば、1の遺言書の件がどうであっても、何も得るものはない。

しかし、無罪となり相続人の立場が保たれれば、遺言書が無効の場合、冒頭の通り3/4(10億円)の財産を得るし、仮に遺言書が有効であっても、遺留分が発生し、3/4の半分、つまり3/8の遺産を受け取る権利がある。

13億5,000万円の3/8は約5億円。

どちらに転んでも大きな資産である。

注:なお、兄弟には遺留分は認められていないので、遺言書が有効だった場合、兄弟たちは何も手にすることが出来ない。

話を整理すると、今回の場合、遺言書の無効請求と殺人事件、この2つの裁判の結果によって、以下の4つの結末が考えられる。

1 遺言書 無効 / 妻 無罪 

→ 妻10億円(3/4) 兄弟それぞれ8500万円(1/16)

2 遺言書 無効 / 妻 有罪(殺人)

→ 妻 0 兄弟それぞれ3.4億円(1/4)

3 遺言書 有効 / 妻 無罪

→ 田辺市 8.5億円(5/8) 妻 5億円(3/8)/ 兄弟 0(遺留分なし)

4 遺言書 有効 / 妻 有罪(殺人)

→ 田辺市 13.5億円 妻 0 / 兄弟 0(遺留分なし)

妻が有罪か無罪か、それは分からないが、日本の有罪率が97~98%前後(裁判員制度により、従来の有罪率99.9%よりは低下した)で推移していることを考えれば、2か4になる可能性も97~98%ということ。

そうなれば、遺言書の正当性を争う「兄弟 vs 田辺市」の戦いとなる。

田辺市側も、すでに弁護士委託費用などで1億1,700万円の予算を計上しており、戦う気は満々。

それもそのはず、田辺市は「THE・疲弊自治体」という状況で、以下の財政状況を見ても、456億円の予算に対して、自主財源は145億円しかない。

13.5億円は自主財源の9.3%にあたる。

「喉から手がでるほど欲しい」というのが本音で、そのため13.5億円をゲットするために1億円超の予算を組んでいるのである。

今後、無効、有効を巡って、激しいデッドヒートが繰り広げられるものと思われるが、あくまで今の報道だけを見ていると「田辺市有利かな?」という気もする。

遺言書の無効請求の判例を見ると、

・偽造ではないか?

・明確な意思表示だったのか?(認知症などの状況ではないか?)

などが争点となることが多いが、この手の話には大抵「その遺言書によって得をする人」がいる。

例えば、「長男に全てを譲る」など、特定の人物にだけ偏った内容の場合、周囲の親族が偽造を疑うのだが、今回の場合、利を得るのは、田辺市であり、まさか田辺市が偽造をするはずもないだろう。そのためほぼ本人が書いたと思って良い。

また、野崎氏は生前、テレビなどでも矍鑠とした姿を披露しており、少なくとも認知症などの症状は見られない。

仮に自筆証書のフォーマットに多少の齟齬があったとしても、大枠としては故人の意思を尊重する判決が出るのではないだろうか?

そうなると、田辺市が全額を得る可能性が高い。

いずれにせよ、相続問題に、無効請求と、殺人事件という2つの裁判が絡み、その両方の結論が出ないことには決着しないので、相当な時間がかかるだろう。

しかし、紀州のドン・ファン。

若い頃からお金の力で多くの女性と関係し、原作とオチは違えど、最後は「何者」かに毒殺される。

豪快でもあり、どこか物悲しくある人生。

同じ男としては、ある意味、憧れなくもない。

本日のコラムでした。



 

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5月 2nd, 2021 by