ここ2ヶ月ほど、保険業界はこの話題で持ちきりだった。
「名義変更プランの税制改正」
名義変更プランとは、法人でかけている貯蓄性保険を経営者個人が「格安」で買い取り、その後、返戻金が増えたタイミングで解約するというもので、
法人 → 個人
へ資産を移転させる効果がある保険。
商品としては10年以上前から存在している。
更には個人が所得を得た際に、一時所得という有利な税制を使えるということもあり
・税負担を抑えつつ
・会社のお金を社長個人に移すことが出来る
ということで、中小企業の経営者などには結構人気があった。
「法人から経営者個人へお金を移す」ためには、役員報酬か、もしくは退職金しかない。
しかし、役員報酬は高額になればなるほど、「半分税金」という状態になるので、「資産を移転させる」という観点から見れば年収3,000万円を超えたあたりから、効率が悪くなってしまう。
それに比べて名義変更プランは税負担が少ないため、経営者からすれば「お得」とうつるのだろう。
なお、役員報酬が1500万円程度であれば、名義変更プランより通常の役員報酬の方が良い。(個人側の税負担がそこまで高額ではないため)
つまり、お金持ち向けの節税商品ということになり、ある種のアンフェア感があることは否めないが、とは言え、企業の経営などリスクばかり。
いざという時は、法人、個人関係なく資産を吐き出さないといけないのだから「貯められる時に貯めておく」ということは責められることでもない。
しかし、この名義変更プラン。
国税は面白くない。取れる税金が少なくなるからだ。
そのため、過去何度も「そろそろ税制改正されるのでは?」と囁かれていたが、それがいよいよ今年の3月に動き始めた。
このような改正の際、まずは国税側から
「こう変えたい」
という叩き台案が出る。
次に、民間から意見を募る「パブリックコメント(通称:パブコメ)」を経て、それらを加味し、正式に「通達」という形で決まる。
3月時点での「叩き台」は極めてシンプルで、前述の「格安で買い取る」ということが出来なくなる、というもの。(名義変更時は「資産計上額での評価」となる=買い取り価格が高くなる)
それにより名義変更プランの魅力はなくなるのだが、ここまでは業界内の誰もが「想定内」
しかし、皆が度肝を抜かれたのは「2019年7月8日以降の契約に適用」という一文だった。
つまり、2019年7月以降に名義変更プランに入った契約者については、新ルールが適用されるということで、これを「過去に遡及する」と言う。言ってみれば後だしジャンケンだ。
通常の改正では
「今までは良いけど、これからはダメよ」
というのが慣例で、過去、保険の税制において過去に遡及した例はない。
だが、今回は2019年7月8日以降の契約を新ルールの対象にすると言う。
当然、パブコメ期間には、かなりの「反対」の意見が集まったそうだが、その結論が先日(6/25)出た。
結果は・・・
「2019年7月8日以降の契約が対象」
結局、「過去に遡及する」ということで、民間の意見は完全に無視された格好だ。
今までの「暗黙のルール」を破ったことになる。
それだけ国税が名義変更プランを問題視していた、とも捉えられるが、内情はちょっと違うようにも感じる。
はっきり言えば、保険会社へのマウンティング。
2019年7月8日は、法人保険の税制が大きくかわり、節税商品と言われるものに大きく網がかかった日。
業界では「法人保険が死んだ日」などと言う人もいるが、それ以降も名義変更プランだけはしぶとく販売されており、いわば「最後の生き残り」とも言える。
今回の改正は、その残党狩りのようなもので、
あれだけ言ったのにまだやってんのかよ!!だったら遡及だ!!
という国税のメンツ重視の、やや感情的、もっと言えばヒステリーのような気がする。
そもそも、何故、2019年7月8日時点で禁止しないのか?
今頃「やっぱダメ」と言うのはあまりに横暴。
名義変更プランを提供する一部の外資系生保への懲罰的処置という噂もあるが、どんな保険商品も金融庁の審査を通過して販売されており、もちろん不正なものではない。
最近、このような
金融庁OK、国税NG
というような話が多過ぎて、保険会社としてもどちらのご機嫌を取れば良いのか困っているというのが本音らしい。
国税庁は財務省管轄、金融庁は内閣府管轄だが、両者とも旧大蔵省であり、もともとは兄弟。
例えるな本家(財務省)の長男(国税庁)と、他家(内閣府)に養子に出された次男(金融庁)のような関係。
しかし、同じ源流を持つが故の近親憎悪なのか知らないが
「弟(金融庁)が何言ったか知らねーけど、俺(国税庁)は許さないぜ!!」
という構図が続いている。
要は「保険業界はどちらの言うことを聞くんだよ?」という兄弟間の争いのようなもので、甚だ迷惑な話だ。
本来であれば、このような兄弟喧嘩の仲裁をするのが政治家の役目のはずだが、それが機能しないことはコロナで実証済み。
結局、最後に泣くのはいつも「庶民」ということだ。
名義変更プランに入っている人は庶民ではないかもしれないけど・・・
本日のコラムでした。
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