オリンピックの金メダルの中身は「銀」である。
知っている人は知っていたかもしれないが、実は私自身、わりとつい最近まで「純金」だと思っていた。
遠因は既に亡くなった父。
私が中学生の頃、ソウルオリンピック(1988年)を見ていた時に、何かの競技でアフリカ選手が金メダルを取ったのだか、たまたま横にいた父が
「こいつ、この金メダルで家10軒くらい立つんじゃねーか?」
と言う。
「えっ、これって本物の金なの?」
そう聞くと、
「当たり前だろ!!オリンピックだぞ?オリンピックの金メダルは全部本物の金だ!!だから見てみろ、銀メダルの選手はうなだれてるだろ?銀なんてタダみたいなもんだから、こんな落ち込んでんだ!!」
と言う。
父も何も知らずに言っていたのだろう。(昔の父親はだいたい適当)
だが、いくら子供でも「金は高く、銀は安い」ということくらい知っていたし、画面に映る二人の金、銀メダリストのテンションが天と地ほど違っていたので、父の話には妙なリアリティがあり、以来、それをずっと信じていた。
しかし、前々回のロンドン。その頃の雑誌の記事で、金メダルの素材が実は銀だと言うことを知った・・・・
なお、余談ながら、戦前に開催されたセントルイス(1904年)、ロンドン(1908年)、ストックホルム(1912)などでは本物の「金メダル」が作られたこともあるようだが、戦後からは「中身は銀」ということで統一され、現在、メダルに関してはオリンピック憲章にて以下のように定められている。
・メダルは、少なくとも直径60ミリ、厚さ3ミリでなければならない
・1位および2位のメダルは銀製で、少なくとも純度1000分の925であるものでなければならない
・また、1位のメダルは少なくとも6グラムの純金で金張り(またはメッキ)がほどこされていなければならない。
ちなみにメダルの「大きさ」はテレビ映りなどが考慮され、大会ごとに巨大化しているそうで、東京オリンピックの金メダルの過去最大の556g(銀550g、銅450g)となっている。
注:パラリンピックは金526g、銀520g、銅430g
メダリストがよく、
「メダルの重みを感じる」
とコメントしているが、実際にかなり重いわけだ。
なお、金メダルは「少なくとも6グラムの純金で金張り、またはメッキ」となっているが、公表されている資料によると、今回のメダルは金556g、銀550gとなっているため、金と銀の差の6グラムが即ち「純金」ということになるのだろう。
昨今、金は高騰しているので「必要最低限しか」使っていないのかもしれない。
となると、金メダルは
6gの金と550gの銀
で構成されていることになる。
本日(2021年8月7日)の金、銀の相場は以下のようになっているので、
金 1グラム 7,066円
銀 1グラム 101.42円
金メダルの原価は、
金 7,066円 ✕ 6グラム = 42,396円
銀 101.42円 ✕ 550グラム = 55,781円
合計 98,177円
となる計算。

なお、銀メダルは銀550gなので、上記の通り1枚55,781円だ。
これが銅となると「1g 1円」程度なので、銅メダル450gの原価は450円程度。
各メダルの原価
金メダル 約98,000円
銀メダル 約56,000円
銅メダル 約450円
金と銀でおよそ倍、銀と銅では100倍以上の違いがあるが、銀銅は本物なのに、金だけ「偽物」というのが、何とも皮肉めいている。
今回の大会では金銀銅合わせて5000枚が制作されているが、金銀それぞれ1,500枚、銅2,000枚(種目によって銅は2名の場合もあるため)と仮定すると、その原価だけで2億3,000万円程度になる計算だ。
ふとここで気になった。
父が「純金だ」とホラを吹いていたソウルオリンピック(1988年)の頃の金メダル。
もしあれが本当に純金だったなら?その価値はどれほどなのだろうか?
過去の金の値段を調べると、1988年当時は1グラム1820円前後。今の1/3ほど。
また、ソウルの金メダルは今より随分小さく、見た感じ300gほどしかない。
これらは純金で作ると、
1,820円✕300g=約55万円/枚
となるが、家10軒が立つほどではないし「金メダリストならそれくらい良いのでは?」という気もする。
もちろん今の大きさ(500g超)の金メダルを純金で作れば、一個350万円。
それを1500枚となると、52億円を超えてしまうので、小さく必要があるかもしれないが、それでも「あの開会式」に165億円もかかっているのだ。
どこの誰だか分からないおっさん達に中抜きされるお金があるなら、金メダルを「本物」にしてあげる方が、アスリートファーストのような気もするのだが・・・
だが、当然ながらメダルの価値はそんなところにはない。
最高の努力をしてきた者が、4年に一度の最高の舞台で自らを証明する。それこそがオリンピックであり、その一瞬の煌きにこそ価値がある。
明日で閉会するが、全ての選手に大きな拍手を贈りたい。
それと・・・来週はお盆。
あの時、銀メダルで悔しそうな顔をしていた選手は、「決して純金が欲しかったわけではないよ。」そのことを父の墓前で報告したいと思う。
本日のコラムでした。
この記事が気に入ったら
いいね!しよう
最新情報をお届けします