いつかあなたも使うかもしれない。患者申出療養制度とは?


一般の方にはほとんど馴染みがないが、

患者申出療養制度

というものがある。

その名の通り、患者から申し出たある治療法(療養)について、その治療方が国に認められれば、混合診療を行える、というもの。

もうこの段階でチンプンカンプンな方も多いだろうから、まずは1つずつ説明していきたい。

実際にイメージしやすい例を挙げた方が分かりやすいだろうから、ここではがん患者Aさんにご登場頂く。

通常であれば、Aさんのがんは、手術や抗がん剤、放射線治療などを行う。

これらは全て「保険適用」されている治療法なので、Aさんの負担は3割(年齢によっては1割や2割)となる。

しかし、Aさんのがんは、なかなか厄介なもので、保険適用されている抗がん剤では効かない。

そこで欧米では既に認可されているものの、日本ではまだ未承認のXという抗がん剤の存在を知る。

当然「それを使いたい」という話になる。

しかし、日本では保険適用外なので、これらの治療費は全て自費となる。

保険適用外=自費

これはある意味、仕方がない。



だが、これらの治療を一旦受けると、保険適用のものまで、全て自費となってしまうのである。

そのため、抗がん剤Xを打つために病院に入院した際の「入院費」、「医師の診察」、「抗がん剤を打つ看護師の技術料」、更には具合が悪くなった時に処方された別の薬なども全て自己負担となる。

これを「混合診療」と言う。

保険適用のものと、保険適用外のもの、その2つが「混合」した場合、何故か保険適用のものも「適用外」となる。

国側(厚生労働省)の論理としては、

「国が認めた治療法だから3割負担。認めてない治療法は自己負担なのが当たり前!!俺たちが認めてない治療を勝手に試すのに、何でそのケツを俺たち(保険制度)が拭かないといけないのよ!!」

また、うがった見方をすれば、病院や製薬メーカーが一番儲かる「抗がん剤」という部分だけを、自費で購入して持ち込み、その「投薬・管理」という、儲からないわりに手間とリスクだけある部分を保険適用で引き受けるのは、経営的にも旨味がないのだろう。

よく飲食業で「食べ物なんて利益はたかが知れている。酒で儲けるんだ」などと言われるが、先の話をこれに照らし合わせて考えると、混合診療は

・酒(抗がん剤)は持ち込み

・食べ物(投薬・管理)は7割引きクーポン使う

という感じなのかもしれない。

だが、あくまで一般的な感覚からすれば、

「そんな意地悪いこと言わずに、保険適用のところは保険でやってあげれば良いじゃない・・・生きるか死ぬかなんだから・・・」

と思うだろう。

この、国の論理と一般の感覚の「差」のなかで、混合診療は長らく議論だけはされているものの、いつまでも進展がない状況が続いていた。

しかし、2016年。いよいよ1つの結論が出る。

それが冒頭で述べた「患者申出療養制度」

これを使えば、患者が希望する治療法を「保険適用外」と「保険適用」でミックス出来るようになる。

先のAさんの場合、抗がん剤Xの費用は自己負担だが、入院費や医師の診察などの「保険適用」の部分に関しては、3割負担で良いのである。

混合診療に1つの結論が出た!!

2016年ごろには随分持ち上げられたのだが、さてどうだったのか?

ではその結果だが、2016年4月から始まった制度で、2020年12月時点での患者申出療養制度の件数、なんと、

10件

相談件数は145件ほどあったものの、その中で10件しか実施されていない。

4年8ヶ月で10件・・・・

ほぼ年2件程度であり、言い方は悪いが制度としてはほとんど機能していない。



理由はいくつかある。

まず制度が周知徹底されていないこと。

現場の医師でも「は?患者申出療養制度?」という人が多い。

実際、4年8ヶ月で145件しか「相談」が来ていないのだから、患者、医師が、本制度を「いかに知らないか」が推測できる。

また、本制度を利用するためには「患者申出療養評価会議」という国の機関の認定を受ける必要があり、そこの審査が厳しすぎるという指摘もある。

145件中10件しか認められていない、という結果だけを見てもその厳しさが分かる。

審査にあたっては、

・本当にその薬が効くのか?

・安全性は大丈夫か?

・これらを裏付ける科学的エビデンス

などなど「超うるさい」ことを言われるので、それもまた現場の医師の「制度嫌い」を増長してしまう。

というわけで、実際には今でも混合診療の問題は解決していない。

なお、保険業界でも、最近は患者申出療養制度に紐ついた商品が販売されはじめている。

「患者申出療養制度の対象になった治療を受けた場合、実費2000万円まで補償」

というような医療保険やがん保険のオプションで、先進医療特約に似ている。

とは言え、まだ10件・・・

全国に数多くいるであろう「Aさん」のためにも、制度の成熟を祈ってやまない。

本日のコラムでした。

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします


11月 6th, 2021 by