「生産性向上」の好例?!コロナ下の税務調査


「最近の税務調査、凄いのよ、しつこくて・・・・」

とある忘年会で、久しぶりに会った旧知の税理士がそうボヤく。

何が凄いのか?と問うと、今まであれば白黒付かず、なあなあになっていたような争点でも闘いを挑んでくるし、とにかく細かい点、全てに突っ込んでくる。

まるでスッポン

一度食らいついたら、死んでも離さないという姿勢で、その相手をするのに疲れきってしまうそうだ。

「調査件数が3割に減ってるのに、1件あたりの追徴3倍ですよ?」

そう聞いて我が耳を疑った。

税務調査という「過去と同じ仕事」をしているにも関わらず、1件あたりの追徴税額が3倍とは、すなわち生産性が3倍ということになる。

敵ながら、天晴である。
(別に敵じゃないけど、中小企業の経営者からすると気分的には敵・・・)

しかし・・・3倍?ホントに?

にわかには信じられず、国税から発表されているデータを拾ってみた。

その結果はこの通り。

出典元
国税庁 令和元事務年度 法人税等の調査実績の概要
国税庁 令和2事務年度 法人税等の調査実績の概要

税務署の「事務年度」は、毎年7月から始まり6月で締める。

そのため、「一般的な年度(4月スタート)」からすると、3ヶ月ほどずれているのだが、これらの年度とコロナの騒動を重ねると、以下のようになる。

・平成30年度 コロナ関係なし(通常運転)

・令和元年 コロナが令和2年(2020年)1月から。緊急事態宣言がその年の4月なので、4.5.6月の税務調査は激減。12ヶ月中、3ヶ月(1年の1/4)がほぼ無稼働なので、件数も、追徴税額も1/4減。(99,000件→76,000件)

・令和2年 コロナまる被り

コロナと全く無縁だった平成30年度と、コロナの影響をまるまる1年受けた令和2年度を比較すると、

 件数で75%減(99,000件→25,000件)

 追徴税額で30%減(2,743億円→1,936億円)

 1件あたりの追徴税額 281.8%増(277万円→780.6万円)

と、件数と、全体の追徴税額は減少しているが、1件あたりの「単価」だけは281.8%の爆上がり。確かに「3倍」である。



その背景としては、

・コロナにより、簡単には税務調査が出来ないため「これは悪質」と思われるところを重点的に調査している

・そのために、マイナンバー、法人番号、KSK(国税総合管理システム:全国の税務署をつなぐオンラインシステム)などを使い、徹底した「絞り込み」を実施

・件数激減により、1件あたりにかけるマンパワーが増加

ということらしいが、結果としては、デジタルの力+経験知により、1件あたりの精度を挙げることに成功している。

これらのことが、官公庁における「DX(デジタルトランスインフォメーション)」の好例として、取り上げられているようだ。

実際、281.8%にはそれくらいのインパクトがある。

しかし、この数字、実は裏があるのではないか?そうも思う。

経営の世界には「トップ2割が全体の8割を稼ぐ」、俗に言う「2:8の法則」というものがあるが、税務調査もまさにこれが当てはまり、コロナ前の税務調査でも、「実は」悪質な2割の法人からの追徴税額が全体の7.8割を占めていた、という話も聞く。

この「2:8」を平成30年の数字に照らし合わせれば、

・約20,000件の調査で(全体99,000件の2割)

・1,920億円~2,194億円の追徴(全体2,743億円の7~8割)

ということになる。

この推論に基づけば、トップ2割(悪い意味での)に税務調査に行けば、それなりの数字にはなるということは明確で、そう思えば令和2年の25,000件、1,936億円は「無難な結果」とも言える。

つまり、単価爆上げの正体は「DX」などという高尚なものではなく、余計な税務調査がなくなり、「分母が減った」ことによる「1件あたりの単価上昇」というだけなのかもしれない。

ただ、それでも従来の「数撃ちゃ当たる方式」から、「悪質ピンポイント方式」に大転換したことは事実だろう。



なお、各種の報道によると、国税庁は今後も「効率重視」を追求するそうだ。

本年10月からはNTTデータの金融機関ネットワークの利用を開始し、以前は紙でおこなっていた各金融機関への調査依頼をデジタル化、業務を効率化している。

また、AIを使った「悪質法人・個人のあぶり出し」などもテスト導入されているとかいないとか。
(以前お会いした調査官は、「調査対象はAIが選んでいる」と言っていたが、実際はどうなのかだろうか?・・・)

そして、2026年にはKSKの大刷新が控えている。

これにより、マイナンバー、法人番号、金融ネットワーク、AIなどと連携する最強システムが稼働する予定だ。

 

当然ながら税収は国の根幹を支える大事な収入。

昨今では「コロナ」を言い訳に政治家が気前よくお金をばら撒くものだから、集める方の国税も大変だろう。

だが、そんなコロナすら逆手にとって、税務署は「進化」している。

ポケモンよろしく、スッポンが「メガスッポン」に進化するのは怖すぎるが、まあ、お国のためにも頑張って欲しい。

本日のコラムでした。

 

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12月 18th, 2021 by