ロシアSWIFT除外がどれほどのものか調べてみた


世界が大変なことになっている。

多くの識者が指摘している通り、

「まるで第二次世界の頃のような侵略」

がなされ、既に2,000名を超える民間人が犠牲になったと言う。

だが、このことについては、ここでは触れない。

この悲劇を形容する言葉が見当たらないし、何を言っても虚しさしかない。

とにかく一刻も早く、事態が終結することを願っている。

現状、ウクライナは米国とも何の条約もなく、NATOにも加盟していないため孤立無援の戦いを強いられているが(それも酷い話だが)、せめてもの後方支援としてロシアのSWIFT除外が決定した。

個人的には「まとまらないんじゃない」と思っていたが、一転、各国が合意した。



SWIFTは国をまたいだ資金の移動に使われる国際金融ネットワークで、金融の現場では、SWIFTよりは「スイフトコード」の方が馴染みがある。

稀に「保険料を海外の口座から入金したい」、「返戻金を海外の口座に送金して欲しい」というような依頼を受けることがあり、その際にこのコードを扱うことがあるからだ。

これはSWIFTが各金融機関に割り当てた識別コードで、三井住友銀行なら「SMBCJPJT」、三菱UFJ銀行なら「BOTKJPJT」というように記載する。

今回の除外ではロシアの銀行に割り当てられているこれらコードを無効にするということで、そうなれば、そのコードを使った送金、入金は一切出来なくなる。

ただし、色々なニュースを見ると、かなり限定的と言うか、余韻を残した「除外」のようだ。

ロシアには300を超える銀行があるが、今回、除外されたのは7行のみ。

その中にはロシア最大手ズベルバンクや、天然ガス大手ガスプロムに関係するガスプロムバンクは含まれていない。

その理由は、

1 あまり急激に追い詰めると、プーチンが何をするか分からない(怖い)

2 ヨーロッパ(特にドイツ)がロシアの天然ガスに依存しており、それを買えなくなると困る

というところらしいが、ガスプロムバンクが除外されているところを見ると、一番大きい理由は後者だろう。

ニュースでは「SWIFT除外は金融の核爆弾」などと言われているものの、実際にはかなり抜け穴がある。

また、ロシア側も随分前からSWIFT除外を警戒していて、仮想通貨での決済や、外貨準備の「ドル→人民元化」、更にはSWIFTの代替手段として「CIPS」への移行を進めている。

CIPS

私も「そういうものがある」という程度の知識しかなかったが、今回の件でクローズアップされている。

2015年から稼働する中国主導の国際金融ネットワークで、SWIFTと同様の機能を持つ。

但し、SWIFTが全世界で1万を超える金融機関が参加し、その決済額が1日500~600兆円なのに対し、CIPSへ参加している金融機関は1,000程度、決済額も1日20~30兆円と、その規模は大人と子供ほどに違う。

なお、CIPSについて調べていて「意外だな」と思ったのは、参加している金融機関。

数だけでいえば日本が一番多い。

日本は中国への輸出入が多く、また、中国政府自身が「中国への投資、貿易決済にはCIPSを使うように」と促しているため、「お付き合い」で参加している場合も多いようだが、ランキングだけを見れば、1位日本、2位ロシア、3位台湾となっている。

ロシアがSWIFTから締め出されても、CIPS経由で決済することも可能で(それにしてもルーブル安は痛いが)、先に述べた抜け穴と併せれば、SWIFT除外が戦争終結にどれほどの影響力を及ぼすのかは分からない。



また、このようなSWIFTを使った攻撃は各国の「SWIFT離れ」を加速させ、中長期では欧米側にダメージを与える。

そもそも、SWIFTが「時代遅れ」になっている点も問題だ。

昔話になるが、私が保険業界の世界に入った20年前、SWIFT経由での送金はとにかく時間がかかった。

アメリカならまだそうでもないが、ヨーロッパだと着金までに4,5日かかることもあり、気を揉んだものだ。

今は随分早くなったが、それでもSWIFT全体が不効率で、使いにくいという意見が大勢を占めている。

SWIFTは各国に代表銀行(コルレス銀行と言う)があり、そこを経由して取引をする。

昔の電話網のようなイメージで、設計思想が古い。
注:CIPSの方が、インターネット的に設計されている。

実際、中国は何かあればすぐに「SWIFT止めるぞ!!」と脅す欧米の恣意的なSWIFT運用に恐怖を感じてCIPSを作っているので、今回の戦争でCIPSの利用が増え、更にはそれが便利であれば一気に拡大する可能性もある。(人民元建てなので限界はあるだろうが)

いずれにせよ、ガス欲しさに一部の金融機関を制裁から「除外」しているあたり、喧嘩をしていると見せかけて、テーブルの下で握手をする「プロレス」を見ているような気もする。

大国の腹芸というのはこういうものなのか。

その間も罪なき人々の命が失われていることを忘れてはいけない。

本日のコラムでした。

 

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3月 4th, 2022 by