そば屋を仕切る若い中国人女性に見る日本の将来


会社の近くに立ち食いそば屋がある。

少なめのそばと納豆、ご飯、そして卵がセットになった朝定食というものを良く食べるのだが、ほんの2,3年前までは360円くらいだったものが1年前に390円になり、そして来月から430円に値上げされるそうだ。

昨今の資源高。

値上げは仕方がないし、それでも安いと思うのだが、その価格改定を巡って先日、妙な「いざこさ」を目にした。

いつものように食券を買い、それをカウンターに出すと、先客らしいおじいちゃんが20代と思われる女性スタッフに何やら言っている。

「こう頻繁に値上げされちゃあ、たまったもんじゃないよぉ~ 400円超えたらもう来れなくなっちゃうよ!!」

こうして文章にすれば激しい文句のようにも聞こえるが、実際には怒っているというより哀しんでいるような感じで、まあ愚痴だ。

かなりの常連らしく、若い女性スタッフも慣れたもの。

「あいー、あいー、すいませんねーシャチョー」

と一応口だけで謝る。

言葉の感じ、胸に付けた名札の名前からして中国の方のようだった。

だが、この謝り方がなんともチャーミングで、終始笑顔を絶やさず、かと言って作業の手を止めずに面倒なじいさんを上手にあしらっている。

それを横で聞き、

「シャチョー?このじいさんが?」

「なんで店員さんはシャチョーってことを知っているの?」

「まさか自分で『俺シャチョーなんだ!!』って名乗ったの?」

などなど、頭の中で疑問が湧きまくり、もういっそのこと

「シャチョーは何のご商売なんですか?」

と聞いてやろうかと思ったが、こんなところで顔を覚えられて、今後話しかけられるのも面倒だなぁ、などと思っているうちに件のシャチョーは「ごちそうさん!!」と店を出ていってしまった。

別の日。

同じ女性スタッフが、同僚の初老の男性スタッフを叱る場面を見た。

60代と思われるその男性スタッフがどのようなミスをしたのかは分からないが、娘ほど齢が違う女性スタッフに結構な口調で注意をされていた。

だがそれも口調ほどには険悪でもなく「お父さん!!ちょっとしっかりしてよ!!」的な感じで、当の男性スタッフも「ごめん、ごめん」と苦笑いしつつ、そのお説教を受けている。

小さな立ち食いそば屋は、その若い中国人女性が絶対的なボスであり、客も従業員も「ジジイ」は全員、彼女の下僕のようでもある。

この人間模様を見ることも、店を訪れる1つの楽しみとなっている。

この話。

人によっては「若い中国人に怒られる日本のおじさん」という場面を想像し、落日の日本を象徴するようなエピソードだと感じるかもしれない。

もしくは中国に反感を持つ人にとっては反中感情を刺激してしまうかもしれない。

だが別にそんな大げさな話ではない。

優秀さがごく自然に評価されているという事実を目の当たりにして「素晴らしいな」と感じているだけだ。

仕事の能力に、性別、年齢、国籍は関係ない。

それが昨今の常識である。

しかし、現実はそうではない。

先日もある牛丼チェーン店で、名前から勝手に外国籍だと判断された学生(実際には日本国籍)が採用説明会への参加を拒否された件が炎上していたが、この件が象徴するように、日本社会は外国人に冷たい。

だが、飲食業や建設業など、深刻な人手不足が続く業界では、外国の方が多く働いていて、そして仕事の出来・不出来が明確な世界であるがゆえ、その評価も分かりやすい。

出来る人間が上に立つ

まさに「性別も年齢も国籍も関係ない」ということが、いち早く実践されているのである。

ホワイトワーカーの世界では、外国籍の方が重要なポストに就いていることは稀で、現状では日本人優位が守られているが、少子高齢化が進むこの国では、それも長くは維持出来ないだろう。

優秀な外国籍の人間を雇わざるをえない。

女性、若い、外国人

一昔前なら「不利」のオンパレードだった方が、日本伝統の「そば屋」を仕切っているという場面は非常に痛快である。

そしてそれは同時に、日本社会への痛烈な皮肉のようにも感じる。

本日のコラムでした。

 

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6月 7th, 2022 by