「ああ、何を書けば良いか分からないんだよぉ・・・」
ソファに座ってテレビを見てくつろいでいると、横の食卓に座っている小学校4年生の娘がぶつくさ言っている。
目の前には原稿用紙。
「読書感想文」
聞けば夏休みの宿題の中でも最も手こずる「大物」を、夏休みの前半にやっつけてしまおうと決意したものの、既に2週間が経過。
毎日、原稿に向かって「うーん、うーん」と唸ってはいるものの、その声量ほどには用紙に記された文字数は増えてはいない。
妻の話では、
「これじゃ例年通り、最終日に適当な内容を書くことになる・・・」
とのこと。
フッフッフ
こんな時こそ父の出番であろう。
何を隠そう、この私。中学3年から高校2年まで
読書感想文 3年連続 金賞
という輝かしい偉業を達成している。
きっかけは中学3年の時に喰らった停学。
別にグレていた訳ではなかったが「ギャンブル&酒」という悪事が発覚し1週間の停学処分を受けたのである。まず友達がバレて、そこから芋づる式で検挙された。
1週間、毎日「原稿用紙3枚(1,200字)」という反省文の提出を義務付けられたのだが、通り一遍の「反省」は初日で書ききってしまい、その後は困って、自分の生い立ちや、それがいかにルールを守れない性格を形成したのか?反省とは何か?それを今後の人生にどう活かすか?など、思いつくままに記した。
そんなこんなで停学も明け数日。
担任でもあった現国(現代国語)の内田先生から職員室に呼び出された。
てっきりまたお小言を頂戴するのかと思い、恐る恐る先生の前に立つと、こうおっしゃる。
「お前、文章上手いな。反省文、面白かったぞ」
反省文を「面白い」と表現されるのも何だがむず痒いものだが、苦心して書いた「作品」を褒められれば悪い気はしない。
そして、続いて
「来週から夏休みだろ?課題の読書感想文、ちょっと本気で書いてみろ」
と発破をかけられた。
子供なんて単純なもので、おだてられれば木に登る。
停学という不名誉を挽回するために、その夏は真剣に原稿に向き合ったのである。
結果、金賞。
そしてそれは高校1年、2年と続いた。
本日はその時に編み出した私の必勝法を伝授したい。
一部、常識的な大人からすれば「眉を顰める」ような内容もあるが、うちの娘のように読書感想文に苦しんでいる子供たちにはきっと役に立つはずだ。
では始めたい。
まず、読書感想文で一番重要なこと。
それは読み方だ
私自身は「カギカッコ法」と呼んでいた。
本の中では、登場人物が話すセリフには、一般的に「」(カギカッコ)がふられる。
ここに注目する。
読みながら「おっ、このセリフ良いな」と思うところには付箋を貼ったり、ページの端を折っておくのである。
なお、これらのセリフの中でも「〇〇なのか?」というような登場人物が何かを問うような疑問符がついたセリフに利用価値がある。その理由については後述する。
また、最後10ページ以内で、主人公が発する言葉に最も注意を払って欲しい。
その物語を通じて作者が読者に一番伝えたかったこと、それを最後の最後に主人公(もしくは準主役)の口を借りて語らせることが多いからである。
このあたりで出てくるセリフは、それ一言だけでその作品全体を表していることが多い。
もし、夏休みの最終週まで読書感想文を棚上げしていて、今更本を読む時間もないということであれば、冒頭から最後まで、この「カギカッコ」だけを読んでも良い。
褒められたことではないが、おおよその話の筋は分かるし、とりあえず感想文のネタは拾える。
ここまで準備が出来たら、執筆に取り掛かる。
まず、最後10ページ以内で主人公が発したその物語を象徴する言葉を冒頭に配置する。
「〇〇は〇〇で〇〇だ」
と本文のセリフをコピペし、次にこう断言する。
これこそ、この本のテーマであり、作者は主人公〇〇の口を借り、そのことを我々に伝えたいのだと思う。
まず結論から書いてしまうのである。
ズバッと本質を突くことで、本を理解していることを示せる。
これでグッと文章を引き締める。
また最終盤の言葉を用いることで「ちゃんと最後まで読みましたけど何か?」とアピールすることも出来るので、一石二鳥だ。
なお、原則的には課題図書になるような本で述べられる結論は、
人類皆に共通する普遍的なもの
であることが多い。
戦争ものであれば、戦争の悲惨さを、青春ものであれば努力や汗の尊さ、そして二度と戻らない若き日々の輝きをうったえる。
次に先にピックアップした疑問符「?」が使われるセリフを、2、3コ引用する。
その質問を自分への質問に置き換えて、それに対して答えるのだ。
これであれば感想と言うより「質問」なので書きやすい。
作品の中では、登場人物の生き方や、死生観、恋愛観、社会や組織の矛盾などを問う質問(セリフ)が多く出てくるので、それらを活用して自分の考えを述べれば良い。
なお、ここでちょっとしたテクニックだが、出来れば「反省」と「感謝」の2つを盛り込んだ方が文章にメリハリが出る。というより高評価を狙いやすい。
何かの質問に対して、
もし同じ質問をされたなら、真正面からそれに答える強さは自分にはない。何故ならば・・・
とか、
主人公の〇〇に比べ、いかに自分は甘いか痛感した
などなど「反省色」を出すのである。
大人、特に先生と呼ばれるような大人は子供の「反省」が大好物なので、極端な言い方をすれば、文体から反省の匂いさえしてれば「本を読ませた価値がある」と満足してくれる。
そして次に感謝を述べる。
この作品の時代に比べ、いかに今が良い時代か
登場人物の〇〇に対して、いかに自分が恵まれているか
などなど、これらのことを多少誇張して書く。
反省と同じくらい、いやそれ以上に大人は「感謝」が好きなので、反省、感謝のワンツーパンチでKOを狙う。
先に停学処分を受けたことを述べたが、その際に経験した1週間の反省文地獄と、その後の感想文。
短期間のうちにその2つを書いたことで「先生受け」のポイントが反省と感謝であることを私は見抜いた。
さて、話をまとめる。
冒頭、物語を本質を定義するような「一言」を報告する。(最後まで読んだぜ!!アピール)
疑問符セリフへの自分なりの回答、2つ、3つ。
だいたいこれで紙面は埋まる。
「一言が発見できない」と言うのであれば、疑問符への回答だけでも形にはなる。
なお、それぞれの「パーツ」ごとの連携については、出来れば繋がっていた方が良いし、それを上手く繋げられたものに「金賞」が与えられるのだが、まあ、これは構成力がいるので、なかなか教えることは出来ない。
連携性がない場合、原稿用紙1枚前後の「短編感想文」が2,3個つながっているような形式になってしまうが、それでも多くの感想文が作品の「解説」だけをしているだけなので、それに比べれば自分の考えを展開している分、評価は高いはず。
以上、読書感想文3年連続金賞の私がコツを伝授した。
なお、最後にひんしゅくものの話をすると、中学3年の時こそちゃんと本を読んだが、実は高1、高2の時には本すら読んでいない。
既にコツは掴んでいたので、図書館で課題図書をパラパラめくり「カギカッコ」のセリフをメモ。巻末の「解説」などを流し読みし作品の全体像を掴んだら、あとは一気に「フォーマット」に則って感想文を仕上げていた。
ちなみに「また金賞を狙うために本を3,4冊買いたい!!」と嘘をついて親からもらった3,000円は、当時好きだったビリー・ジョエルのCDに化け、BGMとして私の執筆を盛り上げてくれたことを書き添えておきたい。
そのためなのか。ジョエルの名曲「オネスティ」や「ピアノ・マン」を聞くと、何故か暑い夏に原稿用紙に向かっていた記憶が蘇る。
今となっては何の本の感想を書いたのかすら忘れてしまったが、何を聞いていたか、ということだけは鮮明に覚えている。
昔の記憶は誠に不思議と言うしかない。
本日のコラムでした。
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