保険業界がもたらす医療崩壊 コロナ保険の功罪


先日、旧知のドクターとゴルフをご一緒したのだが、突然

「お前らいい加減にしろよ!何なんだよ!!あの書類の束!!」

とキレられた。

新型コロナに関しての保険請求のための書類である。

新型コロナに罹患した場合、入院していれば当然ながら入院給付金を支払うのだが、現状では自宅療養・自宅待機でも給付金の対象。

そのため、保険を請求するための陽性証明書や医師の診断書などが必要になり、開業医師などはその作業に追われている。

書類仕事ばかりが増え、休憩時間も取れないほどらしく、まあ八つ当たりされるのも仕方がない。

なお、昨今では「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理システム(HER-SYS)」の画面を印刷したものを証明書や診断書の代用としてくれる保険会社がほとんどなので、この手間は随分省かれたそうだが、今度はHER-SYSの入力が重荷となっている。

新型コロナ騒動の初期、保健所と病院とのやり取りが電話、FAXであることから、

「非効率的、業務負担を減らすためにITを活用するべき!!」

と散々非難されたが、その結果導入されたHER-SYSは、入力項目が多すぎて、今度はそれが業務を圧迫。

「まだ紙の方がマシ・・・」

という声も多い。

これらを受け、今頃になって入力項目を減らすことを検討しているようだが、率直に言って「厚労省ってバカなの?」としか思えない。

一方、我々保険業界だが、こちらも正直頭が良いとは思えない。

まず、非難されることを承知で言えば、本来、自宅療養や自宅待機で給付金を支払う理由がない。

当然ながら、契約者からすれば「貰えるものは貰いたい」と思うだろうし、普段から保険料をご負担頂いているので、その主張は至極もっともなのだが、ではインフルエンザで自宅で寝ている時に払うのか?と言われれば、払わないし、もっと重篤な病気でも自宅療養では払っていない(一部自宅療養を支払い対象としている商品もあるが、一般的な医療保険は対象外)

これは完全な自己矛盾で、過去の背景を紐解けば、これらの原因は2020年のコロナ初期に発生した

「入院したくても入院出来ない問題」

に由来している。

この時、保険業界は「自宅療養でも払う」という決断をした。

これ自体は素晴らしい英断だと思うが、正確には約款に基づいたものでもなく、新型コロナに限定した特別対応で、要は超法規的な処置であった。

横並び意識の高い保険業界では、一社が「うちは払う」と言えば、残りは「うちもうちも」と後に続く。

裏側を話せば、契約者や政府からの圧力で「入院出来ない人」に対して、

払わないとは言えない・・・

というのが各保険会社の本音なのだが、そんな「世間の雰囲気」で払うのであれば、そもそも約款とは何なのか?当時、そんな気もしていた。(払うこと自体にはもちろん賛成)

更にそこに追い打ちをかけたのが「コロナ保険」だ。

コロナになったら5万円

こんな感じの保険で、どことは言わないが、結構多くの保険会社が販売を開始した。

私も含め、保険業界ではこれに否定的な人が多い。

まず、保険として意味がない。

コロナになって5万円貰って、それに何の効果があるのか?それで生活できるのか?傷病手当も貰えるし、コロナの治療はタダだし、5万円が必要な理由などない。

コロナ保険は、言い換えてみれば「コロナくじ」のようなもので、

はい!!コロナになりました!!おめでとうございますぅ!!5万円です!!

そんなところだろう。

保険会社も「意味がない」と分かっているはずだが、おそらく新契約数は伸びるし、保険離れが激しい若い層との接点も出来るし(実際、若い人にかなり売れた)、そんな理由で始めたのだろう。

が、ほとんどの商品がすぐに販売停止に追い込まれる。

あまりに患者が増えすぎて、収支が合わなくなったのである。

これもバカ過ぎる。

販売停止の理由は、どこの会社も

「想定していたより新型コロナの患者数が増大したため、うんぬん・・」

と言い訳しているが、コロナの患者数が「読めない」ことくらい小学生だって知っている。

「統計のプロ」であるはずの保険会社がやるにはあまりにお粗末だろう。

また、この「コロナくじ」で必要になった診断書、証明書は全国で何十万通にものぼるだろうから、それが冒頭のドクターのような人たちを苦しめたことは想像に難くない。

保険業界がコロナで混乱する医療業界に迷惑をかけたようなもので、この点は申し訳ないとしか言いようがない。

そして今、各社はこのコロナ給付の出口を模索している。

「政府が5類に落としてくれれば、止められるんだけど・・・」

そんな声をチラホラ聞く。

とは言え、実際5型になって給付を止めれば、契約者からは苦情の山だろう。

昨日までは払ったのに、今日からコロナになった人には払わない。

5類になったからと言って、個々人の苦しみが変わるわけでもなし、契約者からすれば、こんな理不尽なことはない。

今回のコロナ給付。保険業界はどのようにオチをつけるのか?

私自身、業界の人間ではあるが、何とも冷めた目で見守っている。

本日のコラムでした。

 

 

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8月 20th, 2022 by