塾代を助成?!東京、大阪の助成制度とその問題点


東京都の「受験生チャレンジ支援貸付事業」と、大阪市(大阪府ではない。大阪市)の「塾代助成事業」をご存知だろうか?

巷では「塾代を出してくれる制度」として少しずつ周知され始めている。

制度のあらましは以下の通り。

・受験生チャレンジ支援貸付事業(東京都) サイトリンク

中学3年生と、高校3年生を対象にしたもので、あくまで「貸付」

しかし、合格を条件に返済が免除されるというもので、上限は20万円、また別枠で受験料として

中学3年生 2万7,400円まで

高校3年生 8万円まで

を借りることが出来る。

つまり、中学3年時には22万7,400円、高校3年時には28万円、合計50万7,400円まで貸付を受けることが出来て、合格すればチャラということ。

なお、本制度があくまで「受験」だけにフォーカスしたもので、使用用途として学習塾、各種受験対策講座、通信講座、補習教室の受講料に限られている。

これに対して、大阪市の「塾代助成事業」の方はより間口が広い。

・塾代助成事業(大阪市) サイトリンク

対象は大阪市内で中学生を養育する世帯で、月額1万円までを塾だけでなく、文化・スポーツ教室などに充てることが出来る。

こちらは「助成」なので、返済義務はない。

中学校1年から利用出来るので、3年間で36万円を受け取れることになる。

だが、どちらの制度も所得制限が設けられており、東京都の受験生チャレンジ支援貸付事業の場合、以下のようになっている。

東京都 受験生チャレンジ支援貸付事業 所得制限

お父さん、お母さんの収入の合計

一般世帯

世帯人数3人 世帯総収入 441万円以下
世帯人数4人 世帯総収入 504.9万円以下
世帯人数5人 世帯総収入 573.7万円以下
世帯人数6人 世帯総収入 652.2万円以下

ひとり親世帯の場合

世帯人数2人 世帯総収入 405.7万円以下
世帯人数3人 世帯総収入 496.6万円以下
世帯人数4人 世帯総収入 577.2万円以下
世帯人数5人 世帯総収入 639.6万円以下

注1:賃貸物件に居住の場合、年84万円(月額7万円まで)を限度に、実際に支払った家賃を本人の収入から減額して判定

注2:副業などで営業所得(事業所得)がある場合、上記家賃分の減額は使えない。

大阪市 塾代助成事業 所得制限

お父さん、お母さんの収入の合計が・・・(ひとり親世帯でも同様)

扶養親族1人 322万円以下
扶養親族2人 360万円以下
扶養親族3人 436万円以下
扶養親族4人 474万円以下
扶養親族5人 512万円以下

但し、大阪市の本制度における所得金額は、以下の計算式にて求める。(大阪市のサイトより抜粋)

控除については、以下に限定。(それ以外の控除は計算上は使えない)

・雑損控除
・医療費控除
・小規模企業共済等掛金控除
・障がい者控除 27万円(特別40万円)
・寡婦控除 27万円
・ひとり親控除 35万円
・勤労学生控除 27万円
・給与所得控除 一律10万円(通常の給与所得控除の額とは異なる)

所得から、これらの控除を引いて、最後に8万円(本制度利用者用の控除)を差し引いたものを「所得金額」と定義している。

この計算式に則って、お父さん、お母さんの収入を合算したものを「合計所得金額」とするそうだ。

東京都の方は、シンプルに「年収」で区切っているが、大阪市の方はかなり独自色が強いと言えるだろう。(大阪市という地域性から給与所得者より個人事業主を優先させている印象)

まず大前提として「良い制度」だと思う。

但し、FPという立場から言えば、2つ問題点があるように感じる。

1つ目は所得制限による勤労意欲の減少

2つ目は金額が少ないということ

この2つは相互に関係しているので、同時に論じたいが、本制度だけに限らず「所得制限」というのは、どうしても不公平感がある。その根本は所得制限にある。

行政上、無制限で(高収入の人にも)助けるわけにはいかないので、どこかでハードルを設けないといけない。そのことは理解出来るのだが、このハードルが「より年収を上げたい」という勤労意欲を削ぐようなことになってはいないか?

例えば東京都の制度の場合、中学3年と高校3年で約50万円の貸付(実質的には助成)を受けられるが、親子3人の場合の所得制限は年収441万円以下となっている。

仮にお父さんの年収が350万円、お母さんの年収(パートなど)が90万円だとする(合計440万円)

このような場合、お母さんの年収が92万円(442万円)になれば本制度の対象外となってしまう。

2万円収入を増やしたことにより、中学3年時22万7,400円、高校3年時28万円の貸付が受けられないとなれば、ほとんどの人は「では働くのを抑えよう」ということになるだろう。

働かないで20万円を超える貸付(助成金)を受けた方が得だからだ。

やはりこれは税制などと同様に「グラデーション化(年収と助成の階層化)」する方が望ましい。
注:税制では収入が増えればそれだけ税負担も増すが、トータルの取り分は減らないようになっている。

また、各家庭の状況を顧みずに、一律給付というのも随分乱暴な話で、今どき塾に年間20万円や月1万円では通えない。

そうなると足りない分(プラスアルファ)は家計から補う必要があるのだが、先の所得制限をクリアしている世帯の経済状態はかなり厳しいことが想定され、その「プラスアルファ」が出せない可能性がある。

結果、「中学を出て働く」、「大学は諦める」ということになる場合も多いのではないか?

本制度の趣旨としては

経済環境に関係なく学習機会を与える

ということなのだから、20万円や月1万円というような中途半端な金額でなく、家の持ち出しがなくても塾に通えるくらいの金額を用意しても良い。

であるならば、助成はこんな形ではどうだろうか?(東京都の場合)

所得制限と助成(貸付)をグラデーション化し、収入が上がってもある一定レベルまでは制度の対象とする。そして収入+助成金額の合計は常に右肩上がりとなる。

これなら、勤労意欲も削がないし、低収入世帯により手厚く給付が可能となる。

無論、制度として複雑になれば、それだけオペレーションコストもかかるし、そもそも予算も増えてしまうので、実現性という意味では難しいことは百も承知だ。

しかし前者はIT化の推進でクリア出来るし、後者は「日本の未来を作る子供のため」には他の予算を削ってでもやるべきであろう。

なお、批判ばかりしているように感じるかもしれないが、これを始めた東京都と大阪市は称賛されるべきだ。

特に最近まで財政破綻寸前だった大阪市がこれを始めたことは、素直に素晴らしいと思う。

是非、他の自治体も続いて欲しい。

本日のコラムでした。

 

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9月 6th, 2022 by