「一反(いったん)」という単位を知っていても、それが何平方メートルなのかを知っている人は少ないだろう。
正解は991平方メートル。
そして、十反=一町(いっちょう:9,910m2)となる。
これは、古来の尺貫法だが農業の現場では今でも使われていて、
「うちは〇町で、あそこは〇町だからうちより広い(小さい)」
というような会話が普通に飛び交っている。
なお、偉そうに講釈を垂れているが、私も始めは「〇町」のことを住所だと思って聞いていた。
まあ、そんな程度だ。
さて、今年、ご縁があって、ある兼業農家のお客様の「米つくり」に参加させて頂いた。
参加と言っても、5月の田植えの時に「ちょこっと」苗を植えさせてもらい、9月の稲刈りの時に「ちょこっと」昔ながらの鎌を使った収穫をさせてもらっただけで、見学という名の邪魔をしに行っただけだが、私も子供も、とても良い経験になった。
このような時、悪い癖が出る。
お金の話だ
職業柄、何にいくらかかって、それがいくらで売れるか?そんなことばかりが気になる。
美しい田園風景を前に、お客様を捕まえ「水は?」、「苗は?」、「あの機械は?」、「販売単価は?」と金のことばかり聞く。
その結果、おぼろげながらキャッシュ・フローについては理解出来た。
まず「支出(コスト)」
米つくりのコストは、通常のビジネス同様「毎年かかるもの(定期コスト)」と「数年に一回かかるもの(ショットコスト)」がある。
定期コストとしては、
・種(多くの農家は種をまいて、自分で苗を作る)
・水のコスト(場所によって様々)
・農薬/害虫剤など
・各種機械を動かすための電気代、ガソリン代
など。
ショットコストとしては
・数年に一回の、田植機、コンバイン(収穫)、トラクタ、乾燥機、籾擦機、農薬散布機などの機械の入れ替え
がある。
一方、売上、つまり販売価格だが、一部の直販を除けば、ほとんどが農協との取引となり、その価格は刈り入れ前に、その年の需要予測などを元に提示される。
冒頭の話に戻るが、一反(991m2) から、米は8~9俵ほど取れるそうだ。
力士が担いでいるあの「俵」だ。
1俵は60kgなので、一反からはおおよそ480kg(8俵)から540kg(9俵)のお米が取れることになるのだが、農協の買取金額はこの「1俵」を基礎単位としており、
「今年は1俵いくら」
という形で販売価格が決まる。
しかし、かなり幅があり、良い年には15,000円程度の値が付くこともあるが、昨年などはコロナ禍による外食産業のニーズ減少の影響で9,000円台まで落ち込んだそうだ。
一反(1,000m2)の田んぼがあった場合、最低ラインは
8俵(480kg:不作)×9,000円=72,000円
逆に最高ラインは
9俵(540kg:豊作)×15,000円=135,000円
となり、結果、一反あたりの売上は72,000円~135,000円と、ほぼ倍近い変動が発生する。
今回、私がお世話になった方は、2.5町(25反:25,000m2)でお米を作っているので、
一反単価:72,000円×25反=180万円
一反単価:135,000円×25反=337.5万円
の範囲で売上が動くことになるが、そもそもの生産量が天候や災害などによる不作・豊作に左右される上、その出口も「需要」という天候以上に不安定なものが影響するので、これは全く「読めない」
様々なビジネスの収益構造を聞くが、これほど「読めない」商売もなく、農家という地道なイメージとは異なり、かなりギャンブル性が高いことが分かる。
一方のコストだが、この方の場合「ざっくり年200万円前後(機械のローンなども含む)」とのことだが、これは不作・豊作、買取金額の上げ下げに関係なくかかってくる。
となると、買取金額が低ければ(昨年のように60kg 9,000円台だと)赤字になる年もある。
なお、
「平均すれば年100万円くらいの利益は出る」
とのことだった。
また、先に述べた「経費200万円」には機械のローンなども含んではいるものの、作業の現場には、先代から継いだ「見えない資産(償却済み資産)」も多く、それらが壊れれば、何十~何百万円の追加投資が必要(実際、コンバインなどは300万円以上する)
結果、過去の利益の蓄積を食ってしまう。
仕事内容としても、5月から9月まで毎週末の休みごとに、何かしらの作業があり、平日でも天候が荒れれば様子を見にいく。
収穫してもそれで終わりではなく、翌年に向けて「土を作る」作業があり、なかなか気が休まる時もない。
その結果として先の「収入」をどう考えるか?
その方はこうおっしゃっていた。
「確かに手間のわりには効率は悪い。でも、先祖代々の田畑が荒れていくのは忍びない。それなら多少の収入にもなるし、工夫してうまい米作って人に喜んでもらえればそれはそれで達成感はある。」
だが、やはり大変な作業であることは事実で、実際、兼業農家は年々減っている。
これに対し、昨今では農業法人などによる農地の集約化・大規模化が推進されているものの、農地が飛び飛びになっていることや、機械などが入れない小規模の土地も多いため、スケールメリットも限界に達しているという指摘は多い。
結局のところ効率の良い場所で展開する大規模農業法人と、その隙間を埋める兼業農家という構図があり、「米づくり」はそのバランスの上で成り立っているとのことだった。
雑誌や新聞などで、日本の稲作が危機的状況にあることは知っていたが、現場を実際に見てきた感想としても「継続性は極めて危うい」と感じた。
なお、こんな話をすると「農家の方に感謝して」とか、「お米を残さない」とか、精神的な方向に行ってしまうが、そんなものは何の解決にもならないだろう。
とは言え、私に出来ることと言えば、中間マージンを除いて農家の方から直接お米を買うくらいしかないのだが、
「それが一番ありがたい」
今回の農家さんもそうおっしゃっていた。
パンやパスタも良いが、やはり日本人は米だ。
仕事を邪魔しに行っただけだが「米の価値」を再認識できた貴重な体験だった。
大事なものには、もっとお金を払うべきなのだ。と。
そして手元に届いた新米の旨いこと。(0.01%くらいは私が植えた米のはず)
もし興味のある方がいたらご紹介するので連絡を頂きたい。
注:価格はスーパーで買うのと同じか、ちょっと安いくらいです。
本日のコラムでした。
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