為替介入 伝家の宝刀は名刀か?それともなまくらか?


ちょっと無理なんじゃないのぉ~

というのが率直な感想。

そう、為替介入の話。

145円を超えた円ドルに業を煮やした財務省が抜いた「伝家の宝刀」

145円台から一気に140円まで円は高騰し、一定の効果はあったようだが、本原稿を書いている翌日9/23の朝の段階では早くも142円台まで戻っている。

今回の背景には「投機筋を抑える」という目的がある。

現状の円安が、日米の「金利差」によるものであることは間違いないが、その自然現象にヘッジファンドなどの投機筋が乗っかり、円を売り浴びせていて、それが円安に一段の拍車をかけている。

ここでは詳しくは触れないが、ヘッジファンドなどは、実際には持っていない円を「売る(空売り)」ことで、利益を出す「円ショート」という手法を使う。

注:ネットで「円ショートとは?」などと検索すると、その仕組みが出てくる。

つまり、今世界中の市場で

「円売るよ!!」

の大合唱が起こっていて、その店頭で投機筋が旗を振っているような状態。

「円を売る」ということは「ドルを買う」ということなので、ドルの人気は上がる。

為替市場は競りと同じなので、ちょっと前には120円だせば1ドルを買えていたものが、「ドル人気」で130円、140円となり、いよいよ145円を超えてしまったのである。

円が狙われている。

過去にも「通貨が狙われる」ということは発生していて、もっとも有名な事件が1992年の「ジョージ・ソロス vs イングランド銀行」だろう。

当時、割高とされていた英ポンドにソロスが100億ドル(1.4兆円)という巨額の「売り」を仕掛けたことでポンドが急落。

英国中央銀行は為替介入などの処置を取ったが、ポンドは下げ止まらなかった。

イギリスに大打撃を与えたことから、以後、ソロスは「イングランド銀行を負かせた男」と呼ばれる。

これらの事例からも分かる通り、投機筋の動きは時に国家にとって驚異となる。

もちろん当時のイギリスと、今の日本の状況は違うのだが、金利差や日本の成長性の低さから

円って割高だよね?

と思われている点では同じだろう。

なお、以前、ジョージ・ソロスの自伝的なものを読んだ際、このイギリスの一件も解説されていて、内容はほとんど忘れてしまったが、主旨としては

「通貨は守りに弱い」

ということだった。

実際の数字で見てみよう。

為替介入には2種類ある。

今回のように円安を是正する場合、安くなり過ぎた円を「買い」、ドルを「売る」介入と、逆に円高を是正する場合、円を「売り」、ドルを「買う」介入。

前者が守り、後者が攻めという感じ。

この2つ。同じようなことをやっているように見えて、裏側は全く違う。

通貨を売るにしても、買うにしても、政府が行う場合「現物」が必要になる。

円を「売る」場合、当たり前だが日本円の発行権は日本にあるので、極端な話「作ろうと思えばいくらでも作れる」

つまり売り物はほぼ無限にある。

そのため円高を是正するための為替介入(円売り)は手元資金を気にせずにバンバン出来るのである。

反面、ドルを「売る」場合、手持ちのドルが上限となってしまう。

ここで活躍するのが、外貨準備高と呼ばれるもので、そのほとんどは財務省が管理する「外国為替資金特別会計」である。

通称「外為特会(がいためとっかい)」と呼ばれるこの金庫の中に貯蔵しているドルを売るわけだが、現在の残高は日本円換算で約180兆円前後。

しかも、180兆円全てがドルというわけでもなく、米国債などになっている部分もあり、私が読んだレポートでは

「使えるのは全体の2,3割程度、40~60兆円くらいでは?」

とのことだった。つまり、これが上限。

要は「円売り」ならいくらでも出来るが「ドル売り」には限界があり「守りに弱い」のである。

一方、現在の円ドルの為替市場は1日50兆円前後で、月換算で1,500兆円が動く規模。

この1,500兆円の「うねり」を40~60兆円程度でコントロール出来るか?と問われれば、冒頭の通り「無理なんじゃない?」と思わざるをえない。

今回、どの程度の規模で「介入」したのか今の時点では分からないが、24年前、1998年の時の介入は1日最大3兆円だったことから、同程度だとしても宝刀はあと10数回しか振れないということになる。

145円を超えることは許さん!!

そういう強い決意のもとに放った一閃は、ひとまず敵を怯ませはした。

しかし、これで終わりではない。

刀が届かない142円台で、敵はこちらを見ている。

ニヤニヤしながら。

本日のコラムでした。

 

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9月 23rd, 2022 by