土地に歴史あり!!摩訶不思議な旧借地権の話 


なんだか最近「借地権」の相談が多い。

案件というのは不思議なもので、何故か同じような話が続くことがあるのだが、ここ半年やたらと借地権絡みの相談が多く、お陰で随分と詳しくなった。

借地権には、1992年(平成4年)8月に制定された「新借地借家法(新法)」以前に締結された旧借地権と、新法以後に締結された普通借地権(新借地権)がある。(それ以外にも定期借地権というがあるが、一般的ではない)

法律的には

旧借地権には昔のルールが適用

新借地権には新しいルールが適用

ということになっているので、同じ借地権でもその扱いは全く異なる。

売買の現場に出てくるものとしては圧倒的に旧借地権のものが多いのだが、この権利は「異常に強い」ことで知られている。

そのため、旧借地権の土地は

「一度貸したら返ってこない」

とまで言われていて、それは借地権の価値にも反映されている。

場所によっても異なるが、都内であれば借地権は土地の価値の6割程度と算定されることが多い。

例えば時価1億円の土地があった場合、それが借地であれば「評価」は

借地権 6,000万円

底地権 4,000万円

という内訳になる。(借地権割合が60%の場合)

底地権というのは、その名の通り土地そのものの権利を有することを指し、つまり登記上の「持ち主(大家)」のはずだが、そちらの方が価値は低く、借りている方の権利(借地権)の方が高いのである。

もちろん土地は「利用してナンボ」

そのため、権利だけの底地権より、土地を利用出来る権利である借地権の方が経済的なメリットは大きい。

ただ借地権にも弱点がある。

建物の建替えが難しい

のである。

旧借地権時代に建てられた建物のほとどんは木造であるため、30年、40年と経過するとかなりガタがきてしまう。

必然的に「建替えよう」ということになるのだが、まず、これには底地権者の承諾がいる。

また慣例として「建替承諾料」を支払う必要もある。

この許可が容易ではない。

底地権者としては、出来れば借地を返して欲しいので、なかなか「ウン」とは言わない。

もしくは、仮に許可するとしても、これを機に出来るだけ大きな承諾料が欲しいので、金額をふっかける傾向がある。

このような場合、借地権者は裁判所に申し出ることで、裁判所から許可を貰うことができる。(承諾料も裁判所が決める:借地権の価格の3~5%が相場)

過去の判例からすると、基本的には借地権者に有利な判定がされることが多いのだが、なかなか面倒でもある。

そして、別の角度からもハードルがある。

資金である。

現在、借地権そのものを担保として金を貸してくれる銀行はほとんどない。

そのため、建替えをしようとすれば、実質的には自己資金でやるしかないのだが、何千万円という建築費を右から左に動かせる人はそう多くはないだろう。

底地権者の許可、資金計画。どちらの面から見ても、建替えは簡単ではない。

そのため、既存の木造建築を「ごまかしながら」維持しているものが多く、下町などに行くと、異様にボロボロの木造の家が集まっている一角などがあるが、これなどはだいたい借地だ。

都心の良い場所に「古い木造住宅」が陣取ってしまうのは、経済合理性から見ても、防災の面から見ても良いことではないのだが、これも「旧借地権」の弊害と言える。

では、何故に旧借地権はこんなにも強いのか?

実は以前は底地権者(大家)の方が権利が強かった。

契約更新を拒否し、立ち退きを要求することも出来たのだが、それが変わったのが太平洋戦争末期。

戦地で戦う兵士の多くは貧しく、そのため兵士の家族の多くは借地の上に建てられた家に住んでいた。

大事な一家の大黒柱を戦地に送ったご家族が、大家の都合で住む場所を奪われては前線の兵士に申し訳ない!!

そんな声が湧き上がり、昭和16年(1941年)に借地法が改正。

実質的に更新拒絶を不可能とした。

要は兵士のご機嫌取り政策だったわけだ。

こんな改正。現代であれば底地権者の権利侵害であり、到底認められないが、当時は戦争真っ只中。

「兵隊さんのため」

と言われれば、それに異論を挟める雰囲気でもなかったのだろう。

このあたり何とも日本的である。

そこから約50年。

平成4年(1992年)に新借地借家法が制定されるまで、この「強すぎる借地権」は日本全国で締結され、今現在でも権利として生き残っている。

戦中、戦後のどさくさで、土地を借りた人にとってはラッキーな、貸してしまった人にはアンラッキーな旧借地権。

だが、その由来を借地権者、底地権者にお聞きすると、

「農家の祖父が焼け出されて困った友人に土地を貸して、そしたらたまたまそこに駅が出来て・・・」

とか

「大蔵官僚だった曽祖父が、友人の陸軍中佐に頼まれて」

というような話が出てきて、なかなか面白くもある。

まさに土地に歴史あり。ということだろう。

本日のコラムでした。

 

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10月 7th, 2022 by