読めば絶対役に立つ不動産「小口化商品」のイロハ


「なんか100万円くらいで不動産に投資できるやつあるじゃない?あれってどうなの?」

FPとして、前々からこの手の質問をよく受けていたが、ここ1,2年でその回数が随分増えた。

このような商品を「不動産小口化商品(以下、小口化商品)」と言う。

事業者として一番有名なのは「みんなで大家さん」だろう。

広告などを目にした方もいるだろう。

配当 年6%、7%という謳い文句で、この低金利のご時世、魅力を感じる人が多いようだ。

一方「節税になるって聞いたんだけど」という質問も頂く。

これらの小口商品だが、いまいち投資を検討している方自身がしっかりと情報整理出来ていないようなので、本日はその解説をしたい。

長文だが、我ながら分かりやすく書けていると思うので、もしこの分野に投資を検討しているなら、せめてこのくらいは読んで頂きたいと思う。

まず、小口商品の定義だが、

「特定の不動産を大勢の人数が出資したお金で買う」

ということになる。

法的には不動産特定共同事業法、通称「不特法」というものが根拠になっているのだが、実はこの法律の歴史は古く、スタートしたのは1995年。

ただし、これより前のバブル景気の頃、あまりに不動産価格が高騰したため、それを「複数人数でシェア」するという意味合いの「小口化」は自然発生的に行われていて、実際には物件がないのに出資を募るような詐欺まがいの会社も多かったようだ。

本法律はそれらの実態を是正するために後付けで作られたような法律で「小口化」を行う事業者に一定の条件を元に許可を与えるという形になっている。

ただ、この頃は不動産に精通した企業や、一部の超富裕層だけが対象で、あまり一般的なものではなかった。

しかし、2010年代後半に入り、この法律が頻繁に改正を繰り返したことで、参入障壁が低下。

企業も参入しやすく、かつ個人投資家も出資しやすくなったため、現状の活況となっている。

その理由は「手軽さ」

実際に不動産を購入しようとすれば、多額の現金が必要となり、また管理もしなくてはいけないが、小口商品は手元にある現金を出すだけで済み、面倒な管理や賃貸募集はお金を集めた事業者が行ってくれる。

その簡易性もさることながら「配当6,7%」、「節税にもなる」という分かりやすいメリットから、出資を検討する方も多い。

だが、実は配当と節税はちょっと違う話でもある。

このことを理解するためには「匿名組合型(匿名型)」と「任意組合型(任意型)」の違いを知る必要がある。

一口に「小口商品」と言っても、実際には色々なパターンがあり、その代表的なものがこの2つ。

匿名型の方がメジャーで数も多く、また出資金も3万円から100万円程度と手軽。

先に挙げたみんなで大家さんも「匿名型」だ。

対して任意型は匿名型に比べれば数も少なく、出資金も最低500万円、1,000万円とハードルも高い。

大きな違いは「不動産の持ち主は誰か?」ということ。

匿名型では、物件そのものは事業者のもので、登記にもその事業者の名が記され、出資者の名前は載らない。だから「匿名」なのである。

事業者と出資者の間で「この物件の一部はあなたのものです」という約束はあるものの、それはあくまで当事者同士の契約でしかない。

一方、任意型の方は明確に不動産の一部が出資者のものであり、登記簿にも名前が記載される。

前者の匿名型は、出資者からすれば

「このお金預けるから、不動産で運用して儲かったら配当頂戴ね」

ということで、事業者側からしても資金調達の一環という面が強い。

少々話が脱線するが、小口化の検討をすると、皆さんまずこんな疑問を持つようだ。

「儲かるのであれば、何故その事業者が自己資金(銀行借入)でやらないのか?なんでそんな旨い話を皆に言うのか?」

と。

正直、私もそう思う。

わざわざ広告費をかけて個人からお金を集め、年6%、7%の配当を払わなくても、銀行から金を借りて自社で全てを手がければその方が儲かる。

確かにその通りだし、だからこそ

「怪しい・・・銀行から金も借りられないような業者なんじゃないの?」

というような気もしてくる。

だが、これは不動産業界特有の事情がある。

大きなお金を動かす不動産業は、それを融資する金融機関との関係の上に成り立っている。

しかし、この金融機関が、まあツンデレで・・・

銀行の上には金融庁、更に時の政権がいて、常にその「言いなり」なので急に大盤振る舞いしたり、逆に急激に融資を絞ったり。

不動産会社はそれに大きく振り回されてしまうのである。

そのため、手間とコストがかかっても、個人投資家から直接資金を集められる「仕組み」を構築し、銀行と手を切りたいたいという不動産会社は少なくない。

それが現在の小口化商品の隆盛の一因でもある。

話を戻したい。

この匿名型。先に述べたように個人投資家は「お金を預けるので増やしてね」、事業者は「資金の安定供給お願いね」ということが双方の思惑なので、それを結びつけるのは「利回り」しかない。

そのため、6%、7%というわりと高めのリターンが提示されている。

なお、大前提としてこれは約束されたものでもなく、あくまで家賃収入から諸々の管理手数料を引かれたものが分配されるので、6%以下になることも全然あり得る。

また出資金自体にも何の保障もない。

実際、私の知人でもあるホテル事業の小口商品に出資したところコロナが直撃し、配当0になった方もいる。

ちなみに配当は雑所得扱いなので、給与所得などと合算した総合課税。(給与所得の税率が適用される)

先に述べた通り、不動産を「所有」はしていないので、当然不動産所得でもなく、また株式でもないので「それ以外枠」の雑所得で処理するのだろう。

一方、任意型だが、こちらは主に節税を目的に購入する方が多い。

任意型では物件は確実に出資者のものである。

自分が投資した割合の分だけ、物件の所有権を主張出来る。

そのため、こちらは「普通の不動産を所有している」のと同じで、500万円出資すれば、500万円のワンルームを持っていることと変わりがない。

そのため配当も不動産所得扱いとなり、得られた所得から経費などを引くことも出来るし、マイナスがあれば給与所得などと合算することも出来る。

これなどはやりようによっては所得税の軽減につながる。

また、効果が大きいのは相続税だろう。

例えば現金で1億円あれば、丸々相続税の対象となってしまうが、この1億円を任意型に出資すれば不動産扱いになる。

不動産は路線価で評価されるが、実際の価値の7,8割程度になることが多く、また小規模宅地の特例なども適用できれば、評価額が5割減などになる可能性もある。
注:小規模宅地の特例の詳細は簡単に言えば「ある面積まで」なら不動産の価値を低く見積もってくれる制度。自宅だけでなく、賃貸物件にも適用される。

そのため、最近ではこの相続対策のメリットに目をつけた富裕層に任意型がバカ売れしているというような話も聞く。

なお、任意型は匿名型に比べ、利回りも低いし、契約期間も長い。

まず登記をするので、あまり頻繁に出資者が変わると面倒だし、コスト(登記費用)もかかる。

そのため契約期間を長く取っているのだが、そうなると「長い年月経過しても物件の価値が下がらないもの」が投資対象となる。

必然的に「都心」に集中。

土地も建物も高くつく。結果、利回り(家賃)も落ちる。という理屈だ。

だが、任意型に出資する方々は目先の配当より、資産の評価減が目的であるため、これで良いのだ。

一方、匿名型の契約期間は3年から5年程度と短期なものが多く、プロジェクト終了後は、原則的には物件を売却してしまう。

そのためそれが手軽に出来る地方・郊外の小規模物件が多い。

イメージで言えば、1億円で家賃7万円12部屋の物件を建てて、当初は「新築プレミアム」もあり、年間賃料1,000万円。

利回り10%で、6,7%を出資者に返し、自分たちは3,4%を得る。

3年、5年後にはその物件を売却し、それを元に出資者に元本を返済する。

こんな感じだろう。

だが、これには大きな落とし穴がある。

「物件が安い値段でしか売れなかったらどうするのか?」

ということ。

現状、匿名型の事業者はかなりの数が乱立しているが、どこも「過去に元本割れを起こしたことはない」ということを強調している。

しかし、それは当たり前の話。

だって、この10年間ずっと不動産価格が上がっているから

3年、5年賃貸で家賃を稼ぎ、その間に不動産価格が上昇。

1億円で建てた物件が1億円で、もしくは「現状満室!!」などの売り文句があれば、1.2億円程度でも売れるかもしれない。

不動産市況が良ければ、この仕組みは上手く回る。

だが、不動産が下落すれば?

そうなれば元本が減ってしまった、というような話も続出するのではないかとも思う。

一応、匿名型では2割は事業者が自己資金を入れることが多く、かつそれらは個人投資家の「優先出資」より回収順位が劣るというルールになっている。(劣後出資と言う)

そのため、2割減までは「事業者が損をかぶり、出資者には損はさせない」ということになってはいるのだが、匿名型の物件は地方、郊外が多いので下がる時は下がる。

不動産市場などは常に流動的なので、正直3年、5年先のことなど誰にも分からない。

そのため、個人的には

「匿名型はちょっと怖いかな。やるなら任意型の方が良い」

とは思っているし、相談されればそのように伝えている。

以上、不動産小口化商品への考察。

本日のコラムでした。

ここからは最後まで読んで頂いた方へのオマケで、ちょこっと本音を。

匿名型の配当が雑所得であることは、先に述べた通りだが、雑所得は給与などと合わせた総合課税であり、給与所得などで所得税の税率が高いと、それがそのまま適用される。

一番多いのは20%か23%くらいの方だろうが、これが配当にも適用されると、7%であっても税引き後は5,4%~5.6%程度になってしまう。

対して、任意型であれば不動産所得なので、そこでマイナスがあれば、給与所得との合算も可能。

3万円程度から出資可能で敷居も低く、利回りは高いけど、税金も高くて、最後は損するかもしれない匿名型。

500万円からと敷居も高く、利回りも低いけど、節税できて「良い物件」なので最後は大きく得する可能性もある任意型。

目先の金か、将来の資産か。

このあたり何やら試されているようで面白い。

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします


11月 12th, 2022 by