ふと思い出したあるニューハーフの教え


先日、あるお客様の経営者とお話をしていると、こんな相談をされた。

「スタッフがお客様によって態度を変えて困る」

良いお客様には良い対応をするが、ちょっと癖のあるお客様には塩対応をしたり、要は「好き嫌いで接客をしている」というような話だった。

そこでふと、昔、あるニューハーフの子に聞いた話を思い出した。

一時期、新宿二丁目が面白くて、友人と頻繁に遊びに行っていた。

世界でも有名なLGBTタウンであり、深夜12時を過ぎたあたりから多種多様な人たちが集まってくる。

「まるで外国」という形容詞があるが、まさにそんな感じで、歩いているだけでもなかなか楽しい場所だ。

当時、知り合いなどから紹介してもらった行きつけのお店が数軒あって、その中のあるお店で、ニューハーフの「Aさん」と友達になった。

きっかけは何だか忘れてしまったが、友人と飲んでいると隣に綺麗な子が一人でいて、酔った勢いで話しかけた。まあ、そんなところだったと思う。

まだ20代前半くらいの子だ。

てっきり女性だと思っていたので「ニューハーフ」と聞いて度肝を抜かれた記憶がある。

その後もその店で何度か会ったりして、色々と話を聞いていると、ニューハーフ専用の風俗で働いていると言う。

その話自体はちょっと刺激が強すぎると言うか、こんな会社のブログで話すような内容ではないので割愛するが、実際なかなか大変な仕事のようだった。

「なんかヤバい客も多そうだね」

会話の流れで、そんなことを口にした時、ピシャっとこう言われた。

「ヤバいとか、良いとかなんて無いから」

ちょっと「イラッとした」感じがしたので、思わず「すいません・・・何かアホなこと言っちゃって・・・」と謝ったのだが「実は・・」ということで話が続いた。

ちょうどその前日。お店の待機所にいると、後輩数人が「さっきの客はイケメンでラッキーだった」、「えー、私はキモ客だった」などと盛り上がっていたそうだ。

Aさんは昔からその手の「客評価」に嫌悪感を持っていて、その場で後輩たちを叱ったそうだ。

「あんな達さ、若いだけのオカマが1時間そこらで数万円貰える意味分かってんの?」

周囲はシーン。

「イケメンだ、キモかったって言うけど、どんなお客さんだって、2万円、3万円稼ぐのに辛い思いしてんだよ。その貴重なお金を持ってお店に来てくれる人たちを、社会的に差別されてる私たちがまた差別するわけ?」

三原じゅん子の「恥を知りなさい」級のメガトンパンチで、後輩数人はあまりの迫力に泣いてしまったそうだ。

無茶苦茶良い話だ。

当時もそう思ったが、こうして文章にして見ると改めて深い。

だが、より深いのはその後。

「ってね。若い子に啖呵を切ったけど、正直、私だって当たり、外れを思ってしまう時もある。こんな客、受付で断れよってね。だけど、当たりだ!!って喜んだり、外れた・・・って落ち込んだり、その『波』が心に悪いのよ。仕事とか他人に期待しちゃダメ。平常心を保てないとプロじゃないから。」

耳を傾けていた私はこう思っていた。

あのー、瀬戸内寂聴先生じゃないですよね?

その店はカウンターバーだが、20歳も下の子の話に、思わず高い椅子の上に正座しそうになってしまった。

しかし20歳そこそこでこの心境になれる。更にはそれを言語化出来るっていうのは、一体どんな経験をしてきたのか?

ふと見ると、その子の左腕の手首周辺には多くのリストカットの跡があった。

かなりの苦労を超えてきたのだろう。

 

冒頭の社長も、この話に大変関心していて「その子に会いたい」と切望されたが、それは無理だ。

既に性転換をされて女性となり、新たな世界に旅立っていったから。

多分、自分が男性だった頃のことを知っている人とは縁を切りたかったのだろう。

私もバッサリ切られて今は音信不通だ。

だが、この時の話は未だに心に残っていて、仕事で嫌な思いをして「イラッと」した時などにはこの話を思い出す。

ああ、俺もまだプロじゃねーな。と。

本日のコラムでした。

 

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11月 15th, 2022 by