たった5年で大改善?5年に1回の年金財政検証レポートを読む


年金制度の財政状況は5年に一回チェックされることになっている。

前回は2019年。

そこから5年経過し、今年2024年の7月にその結果が公表された。

このレポートは毎回様々なメディアに取り上げられ、どちらかと言えばネガティブな

「年金制度の危機!!」

的なニュアンスで報道されることが多い。

だが今回はそんな様子もなく、そもそもこの件に関する報道をあまり目にしない。

何故か?

内容が良かったのだ。

そのため、悲観的なニュースを好むマスコミとしては「面白み」がなかったのかもしれない。

 

財政検証では、以下の4つの項目を組み合わせた「モデル」を作り、将来の年金のシミレーションをするのだが、ほぼ全てのモデルにおいて財政の状況が良くなっている。

1 人口(合計特殊出生率)

2020年実績 出生率1.33を基準とし、以下3パターンを使用。

 高位 1.64
 中位 1.36
 低位 1.13

2 平均寿命 男性81.58歳 女性87.72歳を基準とし、以下3パターンを使用

 高位 男性84.56歳 女性90.59歳
 中位 男性85.89歳 女性91.94歳
 低位 男性87.22歳 女性93.27歳

3 入国超過数(外国人居住者) 2016~2019年の年平均 16.4万人を基準とし、以下3パターンを使用

 高位 25万人
 中位 16.4万人
 低位 6.9万人

4 経済成長 以下の4パターンを使用

 高成長実現ケース
 成長型経済移行・継続ケース
 過去30年投影ケース
 1人あたりゼロ成長ケース

これらの項目を組み合わせ、それぞれの仮定において検証をしているのだが、この中で最も重要なファクターは「経済成長」だ。

参考:国民年金及び厚生年金に係わる財政の現状及び見通し詳細結果

財政は常にその時に経済状況を反映するので、「景気」が最も影響力が大きい。

例えば、近未来の日本を想像した時、多くの人にとって「人口低位」、「平均寿命高位」、「外国人?分からん笑」というのが一番しっくりくるシチュエーションだろう。

しかしそんなモデルでも高成長実現ケースであれば、人口が減ろうが(保険料収入の減少)、寿命が延びようが(年金給付額の増大)、外国人が来てくれなかろうがお構いなしで、100年後も年金制度は「健全」なままで継続できる。

それどころか100年後の2120年には1京6,854兆円(厚生年金)という巨額の積立金を保有しているという結果だ。

誠に頼もしい。

ちなみに高成長実現コースの次に「成長するモデル」である成長型経済移行・継続コースでも2120年の積立金は1京1,041億円(同厚生年金)

暗黒の過去30年間の成長率を「投影」している過去30年投影ケースでも2120年に49兆円(同厚生年金)が残り、辛うじて年金制度を維持していると言う。

しかし、ほとんど成長しない「一人当たりゼロ成長ケース」流石に2058年に積立金がゼロになるという見立て。

これを見て、ほとんどの方はこう思うのではないだろうか?

「流石に成長ゼロはないだろう・・・過去30年を投影しても『年金制度がもつ』のであれば、何となく安心かな・・・」

と。

ではこの激変の理由は何だろうか?

2019年と2024年、この5年で何が起こったのか?

正解はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用益だ。
(その他にも厚生年金の加入者拡大などもあるが、影響はそこまで大きくない)

以下の図を見て欲しい。

年金資金の運用を行うGPIFの資産状況を表すグラフで、さらにこれを2016年近辺から最近までに区切り拡大してみると・・・

2010年代後半、60兆円近辺だった資産総額は、コロナ禍の株高により160兆円まで爆増していることが分かる。

ここからの「運用益」が全てのモデルの好影響を与えた。

実際、2019年の厚生年金の運用益は3.4兆円だったが、2024年には13.5兆円まで4倍近くに増えている。

つまり、高成長実現ケースではこの運用が「続き、更に伸びる」ことを前提とし、そこから毎年多額の「運用益」を計上しているため(例:2040年の運用益 37.7兆円)100年後には1京を超える積立金があるという結論になる。

過去30年間投影においても、ここ5年の株高が影響し、今後も10兆円程度の運用益があることを前提に「100年後も年金が存続する」という結論になっている。(2120年に49兆円残存)

こう聞くと、

「何だよ!!またインチキかよ!!」

となるのだが、私自身は逆に安心した。

暗黒の20年とか、失われた30年などと言われていたが、一発バブル(今の株高がバブルなのかはさて置き)が来ればそれなりに帳尻が合うということ。

「そうか、30年に一回バブルを起こせば年金は持つのか・・・」

このことを知れたことは、それなりの安心材料でもある。

だが、それにしても今の制度には問題が多い。

少子高齢化が進む現在の日本で、現役世代が老人を支える賦課方式を続けることが困難なことは子供だって分かる。

更に保険料を支払っていないのに年金が受け取れる3号被保険者問題(専業主婦)、5歳以上のの歳の差カップルに年金が上乗せされる加給年金など、おかしいことは数多い。

本来であれば、これらの問題を細かく修正していかなくてはいけないのだが、選挙に負けることを恐れる政府は手をつけようとはしない。

先送りに先送りを重ね、最後はバブルという「神風」任せ。

このあたり、自然と共に生きてきた日本的な思想とも通ずるところもあるようで、何とも面白い。

本日のコラムでした。

 

 

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9月 13th, 2024 by