20代の担当者が倒れ、後任は70代。団塊世代の強さ


不動産関係で仕事をお願いしているある取引先。

その担当者が倒れてしまった。

ここではAさんとしよう。

年のころは20代後半。

聞けばうつ病とのことだった。

日頃の挙動がおかしくなり、産業医に相談したところ「躁鬱状態にあり、長期の休業が必要」と診断。即日、業務から離れたそうだ。

その数日前から、Aさんに電話をしてもつながらず、普段はすぐに折り返しがあるのだが、それもない。

「何か事情でもあるのか?」と心配していたのだが、後日Aさんの上司から連絡があり、事の次第を知った。

その上司が言う。

「で、後任の担当なのですが、Sを・・・」

Sさん?!

Sさんは、Aさんの前任で、8年ほどうちを担当してくれていた。

しかし3年前に70歳を迎えたことから、委託社員となり、現場を引退。

Aさんのような現場の担当者を裏からサポートする役目を担っていた。

社内での事務処理がメインだったはずだが、それが73歳にして復帰すると言う。

数日後、会社に挨拶に来てくれた。

「大変ご無沙汰しております。Sです。お恥ずかしながらこの老骨が現場に戻って参りました。」

「恥ずかしながら帰って参りました」で有名な小野田少尉をオマージュしたと思われるコメントに笑いそうになったが、20代が倒れ、その代わりに前線に送られるのが70代とは・・・

日本の労働力不足も相当なものである。

Aさんの事情を聞くと、ここ最近激務が続き、かつ真面目な性格もあり、ある時などはお客さんのクレームを2時間以上聞き続けたことも。

結果、全てを一人で抱え込んで「パンク」してしまったそうだ。

「ほう。それは大変でしたね。まあゆくっり休んで、良くなって欲しいですね。Sさんも久しぶりの現場だからって張り切り過ぎて倒れないでくださいよ」

社交辞令でそう言うと、Sさんはこう返してきた。

「Aはね。真正面から受けすぎなんですよ。客の言ってることに全て応えてたら身が持ちませんから。私は大丈夫。適当に力を抜きますので」

Sさんはそう快活に笑うが、一応弊社はその「客」でもあり、その客を前に脱力宣言とは流石、人間を70年以上もやっているとたくましいと言うか、図太いと言うか。

そう、このSさん。確かに適当だ。

だが単に適当というだけでなく、締めるところは締めると言うか・・・

こちらからお願いしたことで「これは後回しにしても怒られないな」ということは催促するまできっちり後回しするし「あっ、これはすぐやらないとヤバイな」ということはすぐやる。

そのバランスが絶妙。

その適当さで迷惑をかけられることも少なくないのだが、その「人生の達人」的な生き方にはある種、畏敬の念を持っている。

話は飛ぶ。

私の妻の父、つまり義父だ。

義父は74歳の現役税理士。

若い頃から税務の仕事をしていたのだが、本気で資格を取る決意をしたのは何と40代後半で、そこから苦学を重ね50代で免許所得、自身の事務所を開設した。

お酒好きのこの義父も何とも人間的な魅力にあふれた人で、そのため色々な人が周りに集まってくる。

事務所開設以来、お客さんに事欠かず、現在74歳だと言うのに、いまだに「人生最高年収」を更新し続けているというのだから、驚くしかない。

他にもお客様の中に70代の経営者が数人いて、お会いする度に「もう引退」などとおっしゃるっているが、どこも業績が良く、なんだかんだ言って元気に続けておられる。

とくに何かを言いたいわけではないが、やっぱり団塊の世代は頑丈でしぶとい。

何故か?

ある70代の経営者が真面目な顔でこんなことを言っていた。

「ほら、あれだ。俺たちが子供の頃はまだ畑に肥し(人糞)を撒いてたから、野菜に寄生虫とか付いてて、それも一緒に食ってたからだ。元気の源は寄生虫だ。」

こちらも一応真面目な顔で聞いていたが、まさかそんな理由でもないだろう。

日本の一番良い時を生きてきた団塊の世代は、今は失われつつある日本の栄光を体現している人たちでもある。

政治、経済、文化、教育、医療。

あらゆる分野をいまだにこの世代が「ボス」として牛耳っているが、先に挙げた市井に住む身近な老人たちですらやっぱり元気で、強いのだから、その中でも最上級に強い個体である「ボス」なんて、もうハチャメチャに強いのだろう。

流石にあと10年も経てばこの世代も激減し、新陳代謝という面ではそれも悪くないのだが、今の50代、40代にあそこまでのパワーがあるかと問われると、何とも心もとない。

とは言え人口が減る日本。

元気な老人が元気で働いてくれるなら、それはそれでありがたいことだ。

本日のコラムでした。

 

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9月 20th, 2024 by