タイトルからすれば、新規で米国の証券会社に口座を開き、その経験をレポートするような印象を持つかもしれないが、残念ながら少し違う。
背景を話すと、今から17,8年前、当時在職していた外資系生保が上場(NY市場)
その記念に全社員が株を貰ったものの、同時に開設してもらったアメリカの証券会社の口座に何となくそのまま「放っておいた」という事情がある。
株の価値は確か、当時の日本円で15万円くらいだったと思う。
なお、その口座には今まで一度もアクセスしたことがない。
その後、退職しこの株のこともすっかり忘れていたのだが、先日、昔の同僚と話をしていた際に「株、貰ったよね」という話題になり、ふと思い出す。
そういえばあの株はどうなっているのだろうか?
何をどうすれば良いか分からず、とりあえず前職の人事部に連絡したのだが、米国内でも証券会社の統廃合があったようで、今ではAというネット証券に移管しているとのこと。
休眠しているであろう口座の「有効化」の手続きはA社のサイトでやってくれということだった。
人事部から在職時の「従業員コード」と、マニュアルらしきものは貰ったのだが、A社のトップページから何をやっても一歩も進まない。
肝心のマニュアルにも
「困ったらL・A(ロスアンジェルス)にあるA社のサポートに電話し『Japanese Please』と言え!!」
としか書いていない。
相変わらず雑な会社だなと少々呆れたが、仕方がないので国際電話をかける。
「電話が混みあっています。このままお待ち頂くか、後ほどお掛け直し下さい。」
恐らくはそう言っているのであろう英語のアナウンスを聞くこと30分。
「Hello!!」
ようやくオペレーターが出る。少し甲高い声の男性だった。
「Japanese Please!!」
開口一番、元気よく宣言。
「OK!! Just a moment please!!」
そう言われて、更に待つこと5分。
先のオペレーターと通訳、そして私の3者電話になり、通訳を介した会話が開始。
社名と従業員コード、名前を伝えると「IDとパスワードがあれば入れまっせ!!」と言うのだが、それが分からないから電話しているのだ。
そう伝えると「じゃあ、口頭で伝えるからメモってや!!」と言い、唐突に「QWS429・・・」とIDとパスワードを唱え始める。
結果、あっさりログイン。
画面には
「保有資産5,200ドル(約80万円)」
という文字が。
10数年の間、毎年配当が出ていて、それが「塵も積もれば」で貯まっていたこと、更に上場時より株価が上がっていたこと、そこに昨今の円安が加わり、15万円の持株は80万円にもなっていた。
完全に忘れていただけに、何とも嬉しい誤算である。
だが、どうしても気になる点がある。
先ほどのIDとパスワードだ。
私は紛れもない「本人」なので何の問題もないが、これがもし「なりすまし」だったら?そう考えると怖い。
高額の国際電話なので、出来れば早く切りたかったが、好奇心の方がそれを上回り、恐る恐る聞いてみた。
「どうやって本人だと分かったのか?」
通訳は「は?」みたいな反応だったが、オペレーターからは
「ログイン出来ても8-BENの登録をせんと株は売れへんで!!本人確認は8-BENでやるから問題ないんや。つーか、自分、入れなくて困ってたんとちゃうん?」
というあっけらかんとした返事が返ってきた。
ちなみに先ほどから関西弁風に訳しているのは、何となくそんな感じの奴だったからだ。
きっとLAの明るい光を浴びてスケボー通勤しているような能天気な若者だと思われる。
なお、8-BENとは米国における外国人向けの税務プログラムで、これを申請することで、本来30%の源泉徴収が10%にディスカウントされる。(その代わり、日本側で課税される)
確かにサイト内では何をしようにも「8-BEN」のフォームに誘導され、そこではパスポート番号かマイナンバーカードの番号を求めらるし、その承認を得ないと売買は出来ない。
また、冷静になって考えてみれば、電話で本人確認のために生年月日などを聞いたところで、悪意をもって「なりすまそう」と思えば、その程度の「確認」はいくらでもすり抜けられるだろう。
電話での本人確認など無意味、8-BENでしっかりと確認すれば良い。
資産状況は見られてしまうが、何も出来ないなら問題ない。まずはログインさせよう。
およそ日本人の感覚では信じられないが、合理的と言えば合理的だ。
なお、件の8-BENはマイナンバーを入れたことで、2時間ほどで承認が下り、これをもってA社の口座登録は完了した。
これも凄いことだ。
私が申請したのはアメリカの証券会社。
日米でどのような協定があるのか知らないが、日本人である私のマイナンバーを見て、わずか2時間程度で「本人だ」と確認出来たということ。
逆にアメリカ人が日本の証券会社で米国の社会保障番号を伝えたとして、わずか2時間で「本人確認」など出来るのだろうか?
下らない陰謀論を言うつもりはないが「金融の中心」であるアメリカには、世界中から情報が集まっている。
また、多少のリスクがあっても外国人(米国人から見ての私)の口座をオンラインで処理しきってしまう強引さも良い意味で関心した。
日本だったら書類と郵便の山だろう。
今更の話だが、日本が「遅れている」ことを痛感した体験だった。
なお、30分ほど電話でやりとりをしていたが、8-BENの申請や、住所やメールアドレスの登録、パスワードの変更などは「後でやっておけ」というスタンスで細々と教えてくれることはない。
最後、
「まあ、こんなとこやな。後は自分でやることばかりやから頑張り!!ほんで、明日の11時、また電話するわ!!そこで確認しよや!!」
と一方的に宣言され電話を切られた。
そして翌日、電話がかかってくることはなかった。
ネット上の情報をチェックする限り、言われたタスクは無事完了していたので、それを見て「完璧や。もう何も教えることあらへん」と判断したのか、それとも単に忘れているだけなのか。
アメリカはやっぱりグレートだ。色々な意味で・・・
本日のコラムでした。
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