「お互い様」の失火法 「迷惑をかけない」の類焼・失火賠償


11月27日午後7時。猪口邦子衆議院議員のご自宅で火災が発生。

ご主人と長女の2人が犠牲に。

火災の恐ろしさをまざまざと思い知らされた事故だった。

しかし、これからも大変だろう・・・・

ご家族を亡くされた立場でありながら、周辺住民に多大な被害を与えた「当事者」としての対応があるからだ。

本日はこのような場面で役に立つ火災保険の特約(オプション)

類焼損害、失火見舞費用補償

について解説したい。

まずは、火災保険の現実について。

家を購入したり、引越したり、そのようなタイミングで入る保険だが「火災保険」という名称のわりに「火災」で保険金が支払われることは少ない。

以下は過去の火災保険の保険金支払い実績。

2018年 支払総額 8107億円
火災          428億円(5.28%)
自然災害      7079億円(87.32%)

2019年 支払総額 6206億円
火災          438億円(7.06%)
自然災害      5070億円(81.70%)

2020年 支払総額 2992億円
火災                            483億円(16.14%)
自然災害                   1653億円(55.25%)

支払い総額はその年の自然災害の規模、頻度に左右されるが、火災の保険金は毎年400億円前半で推移しており、全体の中で占める割合は大きくはない。

火災減少の背景としては、調理器具の電気化、ガス設備の防火対策、耐火性の高い建築材料の導入などがあり、一昔前に比べると火災は劇的に「起こりにくく」なっている。

また、火災による死亡者数もここ数年は年間1500人前後となっており、これは交通事故の死亡者数の毎年2600人前後を下回っている。

しかし、悲しいかなゼロにはならない。

火事は常にどこかで起こっている。

そして火災が発生すれば、自身の話だけでは済まない。

今回の火災も火元は6階建マンションの最上階のペントハウスだったが、写真では一つ下の5階の部屋のカーテンなども無傷であったことから、幸いそこまでは火の手は広がらなかったのだろう。

但し、恐らく内部は消防活動により水浸しで、家財などは被害を受けているずだ。

更には人が亡くなっていることから、当該マンションは事故物件扱いとなってしまい、マンション全体の市場価値も下がるだろう。

また、延焼はしていないものの周辺の建物の壁などは熱によって被害を受けている可能性も高く、被害は甚大と言える。

しかし、これらは「失火責任法(通称:失火法)」という法律のもと、火元となった個人には賠償を求められない。

昔から狭い国土の中で家がひしめき合い、度々大きな火災が発生していた日本では

「火事はお互い様」

という考え方があり、例え貰い火であっても、その損害を火元に請求することは出来ないのである。

なお、この法律は日本独自のもので、欧米などでは賠償責任は火元にあるという考え方が一般的とのこと。

このような法律があるため、下層階や周辺の建物は自身の火災保険で修繕を行わなくていけない。

今回の当該マンションを見たが、おそらく築30年以上は経っている建物であろうから、火災保険に「入っていない」という住人もいるかもしれない。
注:購入時には火災保険に入るが、その後、更新していないような方もいる。

そうなると怒りの矛先は家事を起こした当人に向かう。

だが、このようなケースでも周辺の被害を補償出来る保険がある。

それが類焼損害、失火見舞費用補償。

自身が火災を発生させてしまった際この特約(オプション)を付けていれば、近隣に被害が出た場合でも、その損害を保険会社が賠償してくれる。

それほど高いオプション(特約保険料)ではないが、私自身、お客様にはこう説明している。

・火災の被害はあくまで自己責任。補償の必要はない

・そこから逃げて新しいところに移っても良い、そう思うならこの特約はいらない

・しかし、そこに住み続けたいと思うなら付けておいた方が無難

更に社会的な責任のある方には「名誉に関わるので付けておいた方が良い」と説得するようにしている。

今回の猪口議員に関しても、ご自身の火災保険にこの特約が付加されているか?それが肝だ。

部外者は確認のしようがないが「付いている」ことを切に願っている。

国会議員という立場もあり、法律を盾にとって知らぬ存ぜぬを通せば、心ないマスコミに叩かれるだろうし(容易に想像できる)、かと言って、例え国会議員であろうと一個人が「責任を取れる」ような規模の火災ではない。

 

自らには何一つ落ち度がなく、家族を失いながらも周囲に謝罪行脚をする。

巻き添えになった近隣住民にとっても怖くて辛い体験だ。

しかし、井口議員に降りかかった悲劇は、自分の身にいつ起こるか分からないことでもある。

「お互い様」

その精神を体現する失火法は極めて日本的な法律だと思う。

と、同時に「他人様に迷惑をかけない」のも日本の美徳であり、類焼、失火の特約はこれを反映するものなのだろう。

今回のような火事を見るに、火災保険加入の重要性を痛感する。

本日のコラムでした。

 

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12月 1st, 2024 by