カトマンズ不動産見聞記


ひょんなことから、あるネパール人経営者と出会った。

Aさんとしよう。現在30歳。

10年前、20歳の時に知り合いに借金をし、日本に留学。

苦学の末、ある企業の幹部となり、その会社資本で母国に子会社を設立。

その現地法人の代表に就任し、故郷に錦を飾った。

そのAさんがこう言う。

「カトマンズ(ネパール)の地価上昇が凄い」

と。

話を聞けば、4,5年で倍々に上がっているのだという。

何やら金の匂いがする。

更にAさん自身も不動産投資に興味があると言うので、Aさんの里帰りについていくことにした。

仕事の都合、私だけ遅れてバンコク経由でカトマンズ入り。

トランジット込みで、東京から16時間の長旅だ。

カトマンズに着陸する直前、窓からはヒマラヤ8000m級の峰々が見える。

16時間は長いが、それでも「たった16時間」で凄いところに来たものだと驚く。

昼の12時にカトマンズ着。

カトマンズ空港にはボーディングブリッジ(ターミナル直結の橋)はなく、全てタラップ+バスでターミナルに向かう。

入国審査を終え、空港の外に出るとタクシーの客引きが群がってくる。

事前に聞いてはいたが、カトマンズの大気汚染は深刻で,排気ガスで空気が淀んでいる。

マスクなしでは咳き込んでしまうくらい。

人ごみを掻き分けた先にAさんが車で迎えに来てくれていた。

さて、ここでネパールの基礎情報について触れておきたい。

国土面積は14.7万平方キロメートル、北海道の約1.8倍。

そこに2970万人が住む。

国連の「後発開発途上国(注1)」に分類され、平均月収は2万円程度。
注1:開発途上国の中でも特に開発が遅れているというカテゴリー。アジアではバングラデシュ、ラオス、ミャンマーなど

国民の平均年齢が24歳と、日本の48歳の半分。

2006年に11年に及ぶ内戦が終結し、王政から民主制に移行したので、民主主義国家としても国民の年齢としても「若い国」だ。

その首都カトマンズは、政治・経済の中心でありながら、7つの世界遺産が存在する観光都市でもある。

Aさんに案内され半日ほど見て回ったが、仏陀の遺骨が埋まっているとされ、チベット仏教の聖地であるボダナートや、ご遺体を川の水で清め、火葬後のご遺灰を川に流す様子が間近で見れるパシュパティナートなど、現在進行形で信仰されている遺跡の数々は荘厳な空気をまとっている。

と、観光もそここに仕事。

市内の不動産屋に飛び込みで入り、めぼしい物件を見る。

だが、ここで驚いたのは日本でイメージするような不動産屋が「ない」ということ。

どこも個人商店のような構えで、手持ちの物件などはなく

「どんな物が欲しいの?」

という感じ。

メニューのないレストラン的なやり方で正直度肝を抜かれた。

聞けば、出身地、氏族、カーストなどが入れ乱れているネパールでは、不動産売買も身内や知り合いを通じて行われることが多く、売りも買いも大々的に広告を打つようなことはしないとのこと。

かなり前時代的なやり方が残っている。

最近ではネットなどに物件情報が載ることもあるのだが、まだ外国人向けの高級マンションなどに限られているようだ。

仕方がないので、直近半年で売買が成立した事例を紹介してもらったが、相場感としては

「日本の1/5くらい」

という感じ。

平均月収が2万円と日本の15分の1程度であることを考えると、不動産価格は随分と高いようにも思えた。

但し、これは仕方がない。

土地の価格はその国の物価にある程度は比例するが、建物を建てるコストはさほどの差がないからだ。

人件費こそ安価に抑えることが出来るが、鉄や建材などの値段は基本的に世界中どこでも一緒だし、建物を建てるための重機も開発途上国だから安いということはない。

そのため、建設コストは先進国より「多少安い」程度でしかないので、土地+建物の価格はその国の物価と乖離してしまう傾向がある。

また、不動産価格の上昇は現地の方こそ実感しているところであり、それを売る場合には将来の値上がり分が「上乗せ」されているという部分もある。

但し、現地のAさん同行とは言え、あくまで外国人の私が目に出来る物件は限られており、おそらくもっと安価の物件(地元の一軒家やアパートなど)は、例の「身内ネットワーク」でしか流通しないのだろう。

そんな中、これは素晴らしい、と思える物件もあった。

前述の街を囲む環状線沿いに建設中の高級マンション。

14階建、戸数130ほどだが、そのうち50戸はマリオットのタイムシェアに使用されると言う。

その最上階、130m2の2LDKが5,000万円で売りに出ていた。

日本なら3、4億円はするだろう。

環状線沿い、更にマリオットブランドであれば、必ず値上がりする。

かなり食指が動いたが、他のメンバーの意向で今回は見送ることにした。

そう、今回は私以外にも他の出資者がいるのだ。

ネパールは国策上、外資に相当厳しい。

国内経済が脆弱な上、インド、中国という大生産地に囲まれているため、どうしても保護的な政策にならざるをえないのだろうう。

不動産に関して言えば、外国人がネパール国内の不動産を買うことは原則出来ない。

今回はAさんと私も含めた4名で、ネパール国内で会社を設立し、その法人名義で不動産を買うことを計画している。

なお、この法人登記にあたっても外資は「最低資本金2,000万円」という高いハードルが設けられており、つまり一人頭500万円の出資をすることになるのだが、メンバー内では「2,000万円でまずは一つ不動産を買おう」という目標が共有されていて、先の5,000万円はこの予算を大幅にオーバーしている。

5,000万円の1/4は1,250万円。

確実に勝算がある私としては「出しても良い」と思ったのだが、他のメンバーが首を縦に振らなかった。

危惧したのが資金の回収だ。

出資にも厳しいネパールだが、お金の持ち出しにはもっと厳しい。

色々と細々としたルールがある上、そのルールすらしょっちゅう変わるので、銀行員ですら正確に把握しておらず(そんなバカな、という話だが)、実質的には「無理」だと言う。

つまり、1,250万円を投資し、数年後それが売れて倍(2,500万円)になっても、それを日本にもってくることが出来ないのだ。

だが、私自身は「そのうちどうにかなるだろう」と高をくくっている。

外資に厳しいのは発展途上中だけで、それなりに発展を遂げれば、それなりに外資に緩くなる。

もし、いつまで経っても厳しいようなら、現金を〇〇して、〇〇で、〇〇すれば良い(このあたりはグレーな話なので自主規制)

しかし、他のメンバーは「500なら面白半分で出来るけど、1250はなぁ」という感じだった。

かと言って私1人で5000万は大冒険も良いところなので無理。

と言うことでとん挫したのだが、あと10年もすれば激変したカトマンズに立つマリオットブランドのマンションを見て、メンバー全員大後悔するだろう。

この件は引き続き、現地の代理人に「私たち向き」の不動産を探してもらうことになった。

進捗があれば、またご報告したい。

本日のコラムでした。

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします


12月 22nd, 2024 by