全てタブレットが悪い・・・


とある平日。都心から小一時間ほど離れた郊外。

ある保険の申し込みのためにお客様のオフィスを訪れていた。

その商品を提供する保険会社では、申し込み手続きはタブレットを用いる。

いつものようにタブレットを開き、専用サイトに入る。

しかし、いつもとは様子が違う。

エラーナンバー〇〇〇

システムサポートにご連絡下さい

ん?何だこれ?

そう思い、すぐに連絡。

しかし、例によって「電話が大変込み合っております」というアナウンスが流れるばかりで、全く繋がらない。

待つこと7、8分。

ようやくオペレーターが電話に出ると、完全にテンパった様子で早口に事情を説明された。

要はシステムトラブルにより、一部の申し込み手続きが出来なくなっているとのことだった。

だが、そうは言われてもこちらも客先まで来てしまっているわけで、しかも先ほどからお客様を待たせている。

内心はらわたが煮えくり返ったが、怒ったところで仕方がないし、ましてや電話口のオペレーターが悪いわけでもない。

結局、お客様にお詫びし、日を改めることになった。

非常に懇意にしている方なので、むしろ同情をしていただいたような恰好だったが、貴重な時間を無駄にさせてしまったことが申し訳なかった。

まあ、こんな日もある。

そう諦めて最寄り駅まで戻ると午後の1時を過ぎていた。

このお客様のオフィスには年に2回ほど訪問するのだが、その度に密かに楽しみにしていることがあった。

駅前にこの地方にしか展開していない中華レストランチェーン店があり、いつも商談後にそこに寄るのだ。

白米と玄米をミックスした米で炒めるチャーハンと大振りな餃子が美味しく、いつもそれを頼む。

肝心の申込手続きは空振ったが、せめて旨いものでも食って帰ろう。

そう思い、店内に入る。

各テーブルには注文用のタブレットが用意されている。

ここ数年でこのスタイルのお店が急激に増えたが、個人的にはこちらの方が好ましい。

口頭での注文の場合、店員さんを呼んでもなかなか来なかったり、注文を間違えたり。

そんな「人」が介在することで起こるミスやトラブルはタブレットには無縁で、かつコスト削減にも繋がるのだから良いこと尽くめだ。

が、それも利用者側が「使えれば」の話。

ネットなどにも高齢者がタブレット注文に対応できずに、逆に店員の手を煩わしているというような記事を目にしていたが、この時、それを痛感することになる。

ランチのピークを越えていたため、店内に人はまばら。

店内には私以外には老人が数人。

まず、老人A(男性)が叫ぶ。

「おい!!ライスが来ないよ!!ライスが!!」

店員が対応すると、どうやらタブレットでの注文が完了していなかったようだった。

自らのミスであることを指摘され、こっ恥ずしかったのか、

「餃子だけ頼むわけないだろ!!確認しろよ!!」

店員にそう八つ当たりしていた。

いやいや、餃子だけ頼む奴もいるだろうし、そもそも何故にお前の「餃子とライスはセット」という価値観をこちらが先読みしなくてはいけないのか?

そこに間髪入れずに老人B(女性)が店員を呼びつけ、こう言う。

「これ、全然使い方が分からないわぁ、これとこれ頂戴」

紙の伝票も廃止されているため、仕方なく店員が代わりにタブレットを操作。

だが、その婆さんが頼んだものはセットにすると数十円ほど安くなるらしく、店員がそのことを説明する。

客にとっては良い情報のはずだが、ものすごい怪訝な顔をし

「そんなことを言われても良く分からないわよ!!」

と謎の逆ギレ。

店員も流石に腹に据えかねたのか、取り合わずに「セットにしますね」と勝手に注文していた。

「望み通り『割高』な単品で頼んでやれば良いものを」

そうも思ったが、この婆さんが万が一、セット割引を知ったあかつきには大変なことになるので、これが正解なのだろう。

更に老人C(男性)が来店。

こちらは席につくなり、タブレットすら触らずボケっとしている。

すかさず老人B(女性)が、店員を呼ぶ。

「ほらほら、あちらの方もこの変なコンピュータ(タブレットのこと)が分からずに困ってるんだからフォローしてあげて!!」

近年稀に見る余計なお世話だ・・・・

仕方なしに店員が、

「ご注文ですか?」

と声をかけると、その爺さんはハッと我に返り、

「あっ、ごめん。今日は暑くてボッーとしちゃった。醤油ラーメン頂戴。」

早く家に帰れ、つーか、暑いのに熱いラーメン食って大丈夫なのか?

再び店員がタブレットを代理操作し、注文完了。

そんなわけで店内は完全なカオス状態と化していた。

ふと思う。

はて?これは進化なのか?それとも退化なのか?

そもそもタブレットがなければ、今日ここまでのトラブルは全てなかったはず。

保険に関しても、従来通り紙でやれば今頃手続きは完了している。

中華レストランでも、店員が口頭で注文を取っていれば、3人の老人たちが大暴れすることもない。

根本的な話として、タブレットの導入は全て企業側の都合によるものだ。

紙をなくす、人を減らす、業務効率アップ、コスト削減。

そのためにタブレットが導入され、システム障害で現場に迷惑をかけ、利用方法が分からない情弱老人たちをキレさせる。

タブレットなんかいらない!!皆で紙に戻ろう!!

そう声を大にして叫びたい。

まあ、結局は保険会社のミスのお陰で無駄になった半日の愚痴を言いたいだけの本日のコラムでした。

 

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4月 20th, 2025 by