LA山火事 保険会社「契約拒否」を考える。。。。


カルフォルニア州 ロサンゼルスで発生している火災。

建物の損壊は1万棟を超え、被害総額も現時点で既に20兆円と試算されているが、まだまだ火がおさまっていないことから、今後、更に被害が拡大するかもしれない。

ロサンゼルスには私の従弟が住んでおり、彼自身の家は無事だったが、友人の何人かは家を失ってしまったそうだ。

こんな時こそ役に立つのが保険。

しかし、今回その保険が思わぬ形でクローズアップされている。

報道によると、火災が発生する数か月前に、火災保険を解約させられた例が大量に発生しているのだと言う。

まるで保険会社が今回の火災が起こることを知っていて、それで保険を強制的に終了させた「陰謀論」のような印象を受けるが、当然ながらそんなことはない。

実はこの話には伏線がある。

過去、カルフォルニア州では山火事が頻発しており、それに伴う保険金の支払いは増加の一途をたどっていた。

当然、それらは保険料に跳ね返る。

実際、保険料が一気に13倍になった例もあるようで、あるマンションなどはそれまで年間470万円(全戸分:住人全員で頭割り)が一気に年間6000万円になったとのこと。

各個人の負担も13倍になったわけで、べらぼうな「値上げ」と言える。

それに「待った」をかけたのがカルフォルニア州政府。

保険の値上げ幅を制限する法律を作ったのだが、それが保険会社の「カルフォルニア州離れ」を加速してしまった。

収益の悪化を嫌った多くの保険会社がカルフォルニアから撤退。

そのため前述のような「強制解約」のような話が多発してしまった。

そこに来た大規模火災。

被害にあった家屋の多くが「無保険」であることが指摘されており、そうなると余程の金持ちでない限り、家を再建することなど出来ないのではないか?

 

お客様の『万が一』を助ける

それこそ保険の本義であるはずだが、儲からないと見るやサービスすら提供しないとは。。。

自由ではあるが、ドライでもあるアメリカの一面を表している。

だが、これ。何もアメリカだけに限った話ではない。

実は最近、日本でも保険の引受拒否が増えているのだ。

もっとも顕著なのが太陽光設備の火災保険。

東日本大震災の原発事故を契機に、もの凄い勢いで日本全国に太陽光発電パネルが並べられたが、それらの設備には当然保険がかけられている。

火災、風害、水害、盗難などの補償をパッケージ化した事業用の火災保険が各社から販売されているが、最近、これらの保険の加入や更新が拒否されるケースが増えている。

実質的には新規の契約は不可能で、過去から継続しているお客さまの分だけ「渋々」更新しているという感じ。

原因は「盗難」だ。

銅価格の高騰により、送電のための良質な銅ケーブルがある太陽光発電設備に目を付けた窃盗団が各地で、ケーブル盗難を繰り返している。

保険会社はその被害に対して保険金を支払っているのだが、それがかなり高額になっており、そのため新規の引き受けを停止しているのだ。

また、過去から継続している契約者も「監視カメラがないなら更新不可」、「更新しても盗難は補償対象外」などの厳しい条件を付けている。

儲からないから撤退したい。

そう言うことだろう。

もちろん保険会社もボランティアをやっているわけではないので、収益を考えるのは仕方がない。

しかし、それでも釈然としないものがある。

保険会社のビジネスは短期的な収益だけで判断されるようなものではないからだ。

例えば、ある人が太陽光発電設備を持っていた。

稼働開始から保険に入り、毎年10万円の保険料を10年間支払っていた。

つまり過去100万円の保険料を納めているわけだが、そこで「保険会社側の収益」を理由に契約の更新を拒否される。

約款上は「今から1年間、この保険を引き受けます」という単年契約ということになっているが、契約者からすれば過去の蓄積として100万円をプールしていたわけで「何かあったらお願いね」という関係だったはず。

それなのに自分たちに都合が悪くなった途端、単年契約であることを良いことに「後は知らない」という態度だ。

保険会社は企業であるのと同時に、社会インフラを支える「公器」でもあるはずで、その点から言えば日米ともにあまりに無責任だ。

理由の一つが株式公開だろう。

現在、多くの保険会社が株式市場に上場している。

業績が1年単位で投資家から評価されるので、どうしたって近視眼的になってしまう。

結果、儲かる契約のみを残し、採算の悪い契約を切る。ということが起こる。

太陽光設備などは「切る」方の顕著な例だろう。

大災害に備え、数年単位で保険金を貯めるという「長期的視点」の保険事業が「短期的収益」を求める株式市場に上場することは、そもそも大いなる矛盾を抱えている。

 

もう一つの理由が「超災害」の発生だ。

台風、ハリケーン、そして今回の山火事。

あまりに規模が大きく、民間の保険会社単独ではリスクを負いきれない。

この点に関しては保険会社にも同情の余地がある。

ひとたび大災害が起これば数兆円の保険金支払いが発生し、下手をすれば会社そのものが吹き飛んでしまう。

あまりに自然災害が「強く」なり過ぎたため、保険という制度では太刀打ちできなくなってしまったのだ。

結果、保険会社が災害から逃げ回るような状態になってしまった。

これに関しては、もう国がコミットするしかないと思う。

その好例が日本の地震保険だ。

あまりにリスクが大きく民間では引き受けられないため、日本政府が引受ている。(契約の窓口は民間の保険会社に委託)

本来はカルフォルニアの火災保険も州政府がコミットするべきだったと思う。

しかし後の祭りだ。

「保険に入っておけば・・・」

何か事故があると、そう後悔する人がいるが、そもそも入れる保険すらないという状況が現実になりつつある。

LAの火災は、日本にとっても対岸の火事ではない。

本日のコラムでした。

 

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1月 11th, 2025 by