保険会社に負けない賠償金交渉術(3/3)


保険会社に負けない賠償金交渉術も3回目。

第1回「保険会社が間に入るから」はコチラ

第2回「被害者感情と判例との乖離」はコチラ

これで最終回となるが、最後は「弁護士の使い方」について述べたい。

その詳細を述べる前に、まず大事なことをお伝えしたい。

弁護士と聞いてどんなことを浮かべるだろうか?

正義の味方

依頼人の利益のために最大限働いてくれる

見事な弁論で相手をこてんぱにやっつけてくれる

一般の方のイメージはそんなところだろう。

しかし、はっきり言う。

「ドラマの見過ぎだ」

と。

そういう弁護士もこの世のどこかにはいるのだろうが、私自身はほとんど会ったことはない。

基本的にはどの弁護士も弁護士業務は「仕事」であり、自分の生活のためにやっている。

むろん仕事だから、依頼人のために頑張る。

しかし、その「頑張る」も人によって濃淡があり、まだまだ全然交渉の余地があるのに「このあたりが落としどころです」と言って早期に案件をクロージングしてしまう人もいるし、そもそもその仕事をする上での能力や知識が足りないような人も結構いる。

また相手が素人だと見れば、報酬をふっかける弁護士も残念ながら存在する。

例えばこんな例があった。

ある交通事故で被害にあった方がいた。

相手方(車)の方が100%悪く、保険会社もそこに異論はないが、怪我自体はそこまで深刻なものではなく、3ヶ月程度で完治した。

保険会社からの賠償金の提示は50万円ほど。

しかし、本人としては納得できない。

道を歩いていただけで事故にあい、痛い思いをして仕事も休んだ。

その結果が50万円でしかないのか?と憤る。

そこで弁護士を入れた。

結果、50万円の賠償金は63万円に増額されたが、弁護士報酬として14万円ほど請求され、手元に残ったのは49万円。

要は弁護士に依頼したことで受け取った賠償金が1万円減ったということ。

嘘みたいな話だが本当だ。

流石にこのような時、実務上では報酬を10万円などに減額し、多少なりとも依頼人の手取りを増やすような処置をする弁護士が多いのだが、それも全員ではない。

「契約で決まっています。」

と言ってしっかりと報酬をとる弁護士もいる。

だが、これは弁護士が悪いのだろうか?

私はそうは思わない。

依頼した側の知識不足であり、当初から

「どの程度増額出来る可能性があるか?」

「弁護士報酬を引いて、自分の手取りはどれくらい増えるのか?」

「赤字になることもあり得るか?」

ということを確認しておかなった方が悪い。

もちろん誠実な弁護士であればこのあたりは事前に「自分への報酬を考えると手取りはほとんど増えない。やるだけ無駄ですよ。」とアドバイスしてくれる。

しかし相手も商売だ。

数回の保険会社との交渉で10数万円もらえるなら、と引き受ける弁護士もいる。

私の感覚でも、このようなモラルに欠ける弁護士は10年前に比べて増えている印象だ。

ではどうすれば良いか?

まず、賠償金の「規模」に応じて考え方を変える必要がある。

前項にて「原則、弁護士を入れた方が良い」と述べたが、あくまで「原則」であり、場合によっては入れない方が良いこともある。

先ほどの例を見てもわかる通り、賠償金が少額(100万円以下)の場合は弁護士を入れても金額自体は増えるが、その分コスト(弁護士報酬)もかかるので、あまりメリットはない。

このようなケースでは法テラスが有効。

法テラスは国が運営している法律相談窓口で全国にある。

1回30分までは無料なので、あらかじめ論点を整理して相談に行くといいだろう。

論点

・事故の内容。どのような事故か?

・保険会社の賠償金の提示は妥当か?

・仮に弁護士に依頼した場合(弁護士基準適用)、どの程度増える可能性があるか?

・弁護士に依頼した場合、報酬はどの程度か?

なお、30分しか時間がないので、事故の内容についてダラダラと説明することは避けた方が良い。また「許せない!!」などの感情面の話も、弁護士からしたらどうでも良いので、必要以上にそこで時間をかけるべきではない(もちろん気持ちは分かるが、それを聞いても「そうですよね」くらいしかコメント出来ない)

出来れば事故の内容は簡潔な箇条書きで、誰が、いつ、何を、という感じで書面にまとめておいた方が良いだろう。

弁護士はドキュメント(書面)を読むことに長けており、下手に口で説明するより、よほど伝わる。

また疑問点も同様の書面にしておけば、なお良い。

これらのことで得られた知識をもとに保険会社と交渉する。

「法テラスで弁護士の意見を聞いた。弁護士基準であれば〇〇万円になるとのことなので、再考して頂きたい」

そう毅然と言えば、賠償金が少額(100万円以下)であれば意外と通ることもある。

保険会社としても仮に弁護士が出てくれば、その金額を払わざるを得ず、であるならば早期に示談にしてしまった方が手間が省けるからだ。

しかし、保険会社も被害者が弁護士に依頼すれば「弁護士報酬」がかかり、増えた分が丸々被害者の手に渡ることがない、ということも重々理解している。

そのため「間をとって」という感じで賠償金を提示してくることもある。

例えば初期の賠償金の提示が50万円。弁護士に依頼すれば70万円くらいになる見込みの場合、その中間の60万円を出してくるようなイメージだ。

私としては、これは「飲んだ方が良い」と思う。

ここで粘っても保険会社が引くとも思えず、「だったら弁護士に依頼して下さい」と開き直られてしまうケースも多い。

そうなると結局弁護士に頼んで、報酬を支払うことになるので、結果として手取りは同じ。

心情としては腹立たしいが、現実的な落としどころとしては「仕方がないかな」というところだろう。

100万円以下の少額の賠償金の場合であれば、「弁護士をちらつかせる」、「弁護士基準を適用させる」、「最後はある程度のところで示談する(弁護士報酬まで考慮して)」という点が重要だろう。

逆に100万円を超えるような場合は、増えた分の中で弁護士報酬を賄えるので、早い段階で頼んでおいた方が良い。

保険会社とのやり取りはなかなか面倒だし、信じられないことだが、本当に失礼な担当者も稀にいるので、気持ちの上でも弁護士を防波堤として使った方が無難だ。

なお、高額賠償の場合でも一つアドバイスをすると、弁護士の中でも

・成功報酬パターン

・時給パターン

の2つの報酬体系を用意していることがある。(成功報酬パターンしか用意していない弁護士もいる)

例えば賠償金が500万円だとして、成功報酬パターンは「賠償金の10%(50万円)」などを報酬として得る。

しかし、時給パターンであれば実際に動いてもらった稼働に応じて報酬を支払うので、成功報酬パターンより安く済む可能性もある。

時給は2万円くらいが相場なので、実働10~20時間程度(20~40万円)で済むのであれば、成功報酬パターンより時給パターンの方が良い。

過失割合が10:0のような「完全に相手が悪い」ケースであれば、少なくとも「どっちが悪いか?」という点については決着がついており、「あとは金だけ」なので争点が少なく、このような場合であれば時給パターンの方が良いだろう。

逆に争点が多く、結構時間も手間もかかりそうであれば、弁護士の稼働が多くなり下手をすると成功報酬パターンより高くなってしまうこともある。

このあたりはケースバイケースなので一概には言えないが、弁護士に「成功報酬と時給、どっちが安く済みそうか?」と聞いてみるのも手だ。

以上、3回に渡って保険会社との交渉について解説させていただいた。

何かの参考になれば幸いだ。

 

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4月 12th, 2025 by