老人と犬と保証人


保証人にだけはなるな。

自身も借金の保証人となって痛い目を見たからか、死んだ父はよくそう言っていた。

以来、遺言としてそれを守っている。

場面は変わる。

「保証人になってくれるか?」

妻の実家で義父と酒を酌み交わしていた時、そう言われた。

無論、借金の話ではない。

犬の話。

義父と義母の人生にはずっとパートナーとして犬がいた。

しかし、3年前に亡くなった愛犬を最後に、それ以後は飼っていない。

二人とも70代中盤。

「最後まで面倒が見れない」という心配から新たに犬を飼うことを躊躇しているようだった。

また、高齢者が購入する場合「保証人」が必要になると言う。

飼い主に万が一のことがあった場合の責任の所在を明らかにするためだろう。

もちろん犬は法律上は「物」であるため、こんな保証をしたとしても何かしらの法的な責務を負うわけでもない。つまりはただの口約束でしかないのだが、ペット業界のルール上そういうことになっているのだろう。

義父、義母とも犬のいない生活には寂しさを覚えているらしく、ことあるごとに「飼いたい」と言う。しかし二言目には「この年なので責任が取れない」とも。

そして、この保証人制度も高齢者には高いハードルになっている。

「保証人くらい私がなりますよ。」

そう言うと、2人ともとても喜んでいた。

 

調べてみると意外と同じことで悩んでいる方は多いらしく、様々な解決策が提示されている。

詳細は省くが、ざっと挙げると以下の4通り。

1 信頼できる人に託す

2 負担付遺贈を行う

3 ペット後見団体を利用

4 ペット信託

1はもっとも簡単。

万が一の時には子供世代や、同じくペットを飼う友人などが引き取る。

2の負担付遺贈もその延長線にあるもので、基本的には家族や友人などに「ペットの面倒をちゃんと見てね」という「負担」を課すかわりに、金銭的な「遺贈」を行うというもの。

ただの責任感・善意だけの1に金銭的な見返り(実際にかかる飼育コスト)を与えることで、よりペットの行く末を安定したものに出来る。

だが、「本当に約束を守るか?」という点については保証はない。

実際には金銭のみを受け取り、ペットは劣悪な環境におかれているようなケースも少なくないらしい。

3は家族が巻き込まずに済む方法。

飼い主が死亡したペットの面倒を見てくれるNPO団体などがあるので、生前に契約をしておいて、死後はそこに任せる。

なお、これらの団体はほぼ無償のところもあれば、一定の金銭が必要なところまで様々だが、2の負担付贈与と同じ問題がある。

つまり「本当にちゃんと面倒見てくれるか?団体は継続するのか?」という点だ。

そのため、実際の飼育現場や、評判などを調査する必要がある。

4のペット信託は「新しい飼い主」を見つけ、「金銭的な見返り(コスト負担)」を与える。という点までは今までと同じだが、そこに「監督者」という概念が加わる。

生前、信託銀行に遺言書を遺すことで、以下のような体制を取れる。

・ペット用のお金を分けて管理する(例:500万円)

・世話をする人を指定する(例:毎月5万円ずつ支払う)

・監督者を決める(費用の使途や飼育状況を定期的に確認)

1~3までの方法に常につきまとっていた「本当に大丈夫か?」という心配を「監督者」によって保証しているという点で、より手厚い。

だが、これも問題がある。

本稿執筆時点(2026年5月)で、このサービスを提供しているのは三井住友信託銀行のみで、かつ、ペットに関する信託は特約(オプション)扱いとなっている。

それなりの財産を遺言信託してくれるなら、オプションでペットの面倒も見ましょう。ということ。

三井住友しか選択肢がないし、信託手数料も安くはないので、それなりの資産家でないと利用できない。

以上、4つを調べてこう思った。

「何とかなりそうだな。」

私自身が飼育を引き継げるかはその時の状況(住んでる場所がペット可かどうか、など)にもよるので何とも言えないが、新たな飼い手やNPO団体を見つけることくらいは出来るだろう。

思えばうちの実家も犬好きで、長いこと大きなゴールデンレトリバーがいた。

若い頃は大型犬ならではのパワーで私をぐいぐい引っ張るようなやんちゃな奴だったが、老犬となってからは同じく年老いた父を気遣い、一緒に歩いていても「早すぎない?」と振り返り、足元が怪しくなった父と歩調を合わせていた。

そんな一人と一匹が歩いていた後ろ姿を今でも覚えている。

義父、義母は新しい、そして最後の家族を迎え入れるべきだ。

覚悟はいるが、それを上回る喜びが待っているはず。

そのための保証人。

今は亡き父との約束はあるが、まあこれくらいなら大目に見てくれるだろう。

本日のコラムでした。

 

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5月 16th, 2026 by