若き挑戦者 思い出のパリ


「良いご縁をありがとうございました。」

メッセージには古い教会の前で撮った写真が添えてあった。

写真の中では、若い女性と、日本人とフランス人のご夫婦が笑顔で写っていた。

 

話は3ヵ月に遡る。

あるお客様から、

「フランスに知り合いはいないか?」

という連絡が入った。

話を聞けば、その方の知り合いのAさんのお嬢様がフランスに留学するのだと言う。

Aさんとは私も面識があり、お嬢様がいらっしゃることは存じ上げなかったが、大学である分野の研究をしており、その延長でフランスの地方大学に行くとのことだった。

大したものだ。

昨今、若者の海外離れが顕著になっており、実際、「20代の出国率(法務省 出入国管理統計)」というデータを見ても、2019年の30.1%から2024年には21.9%と、海外を旅する若者の数は3割近く減少している。

背景には急激な円安や、コロナ禍以降の内向き志向があるようだ。

先日、ある大手企業の経営者とご一緒したが、その方も

「最近の若い奴は海外の支店に行けと言っても断ってくる。」

とぼやいていた。

会社のお金で外の世界が見れるなんて最高では?とも思うのだが、断る理由としては

・海外赴任手当が安いので赤字になる

・一度海外に出てしまうと戻ってくる際にポストがない

というようなものが多いそうだ。

理屈としては分からなくもないが「若い奴が何だかなぁ」という気もしなくはない。

まあ、これは老害の戯言。

 

こんな状況の中、若い女性が自身の学問を究めるべく遠い異国に行くと言う。

その度胸も大したものだが、ご両親からすれば心配だ。

「フランスに知り合いを」

というのも、具体的に何かして欲しいわけでもなく、緩く繋がっておけば、現地で本当に困ったことがあった時にアドバイスなりをして貰える。

そんな親の思いなのだろう。

事情は分かった。

これは一肌も二肌も脱がなくてはいけない。

で、色々と聞いてまわったら、意外とあっさり見つかる。

「妹は音楽の勉強でパリに留学して、そのまま現地の人と結婚して今もパリにいる。」

ある方からそんな話を聞いていたので、事情を話し、妹さん(Bさんとする)に連絡してもらったところ

「自分も初めてフランスに来た時、現地の日本人に本当に助けてもらった。今度は自分の番。当然サポートする。」

そうご快諾頂いた。

逆の立場なら何とも怪しい申し出だが、留学経験をした人でしか分からない絆というか、義務感のようなものがあるのだろう。

後は双方をLINEで繋ぎ、勝手にやり取りしてもらった。

漏れ聞いたところでは、大学の手続きや、フランスの習慣などについて色々意見交換が出来たようだった。

で、数日前。

お嬢さんご本人がフランスに到着し、地方都市に行く前にパリで途中下車。

今までLINEでしかやり取りしていなかったBさんご夫妻と初体面を果たし、食事を共にしたそうだ。

その後、近くの観光名所の前で撮った写真が冒頭の一枚。

しかし、その写真の背景にある建物を見た瞬間、一気に16年前に引き戻される。

パリ18区 モンマルトルの丘にあるサクレ・クール寺院

パリの街並みを一望できる名所で、私も16年前、妻とその場に立っていた。

2010年7月。私と妻はイタリア、フランスを巡る旅をしていた。

ローマ、フィレンツェから水の都ベネチアへ。

その年、「10年に一度」と言われる熱波がヨーロッパを襲い、海の上に立つベネチアは湿気と高熱で地獄のような暑さだった。

へとへとになりながら観光を終え、ベネチアのサンタ・ルチーア駅から寝台特急に乗り、パリを目指した。

朝、目を覚ます。

パリまではあと1時間の距離。

しかし、昨夜とは「何か」が違う。

財布やカメラ、時計などを入れたバックが見当たらないのだ。

個室だったので油断していたが、後から確認するとドアの鍵は外から簡単に開けられ、しかも運の悪いことにドアのすぐそばのフックにそのバックを吊るしておいたのだ。

つまり寝ている間、それを盗まれてしまったわけだ。
(パスポートは別のバックだったので無事)

無一文 in パリ・・・

パリ北駅に着いた私と妻は途方に暮れた。

まずはパリ市警に行き、被害届を出したが、英語もフランス語もしゃべれない我々への対応は後回しされ、最後は私が日本語で「ブチ切れ」て何とか書類を作成してもらった。

もちろん盗まれたものが戻ってくることはないが、これで帰国後、保険で被害が補償される。

そしてここで奇跡が起きる。

ふとズボンの後ろポケットを触ると、そこに固いものが・・・

クレジットカード。

てっきり財布ごと盗まれたと思っていたが、前日のベネチア、駅の売店で何かを買った際、カードをケツのポケットにしまっていたようだった。

普段だったら絶対やらない。

わりと用心深い私は必ず財布に入れるのだが、熱波で朦朧としていたからだろうか、いつもとは違う場所にカードを入れていたようだった。

不幸中の幸いとはこのことだ。

ヨーロッパはカード社会なので、カード一枚あれば何とでもなる。

生まれて初めてキャッシングをして、ある程度の現金を用意。

旅は予定通り続けられた。

その日の夕方。

モンマルトルの丘に登り、パリを一望した。

とんでもないトラブルに巻き込まれ、気分は最低だったが、その景色は最高だった。

夕日に染まるパリの街並みはとても美しかった。

まだスマホもない時代。

カメラも盗られてしまったので、何も記録には残せていないが、あの景色は今でも心に残っている。

そこから16年の時を経て、知り合い同士がその場にいることに不思議な「縁」を感じた。

海外に出ると、日本の常識は通じず、苦労することも多いが、それでも得難い経験・体験を得ることが出来る。

Aさんのお嬢さんも今頃、留学先の大学がある地方都市に着いている頃だろうか。

実りある研究生活をおくって頂きたい。

本日のコラムでした。

 

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8月 22nd, 2026 by