娘の小冒険に父の詩情を添えて・・・


「どんな行き方でも良いのか?」

娘がそう問う。

「無論」

そうだ。と答えたが、夕飯が始まる18時までは到着すること。

それのみを条件とした。

 

先日、妻の両親が「金婚式(50周年)」を迎え、そのお祝いとして両親、我々家族、妻の弟家族、総勢10名で箱根の宿に泊まった。

本来であれば、妻と弟、そして私の子供世代がご招待するべきなのだが、義理の父は税理士として現役バリバリで働いており、更には一族の誰よりも稼ぐ。

そのため、何故かこちらが「ご招待された」格好になり、一人一泊7,8万円もする高級旅館にご相伴させて頂くことに。

箱根の山奥、深い渓谷の川沿いにひっそりと佇むその宿は、対岸のせり立った山肌を借景としている。

秋も終わろうかと言うのに、山は燃えるように色づいていた。

風呂の先 紅葉(もみじ)眺める ただ楽し

宿自慢の露天風呂に浸かりながら一句。

心地よい湯と目の前の絶景を見て「ただただ楽しい」という気持ちと、しかもそれが「タダ(無料)じゃん!!最高!!」という二つの気持ちをかけてみた。

世俗にまみれた私らしい句と言える。

ふーむ、やはり持つべきは富裕の実家(妻の)である。

まあ、それは良い。

さて、この旅はとある週末の土日に企画されたもので、しかも、前述の通りなかなか泊まる機会もない「超高級宿」

貧乏性の私としては

「チェックインぎりぎりからチェックアウトぎりぎりまで堪能したい!!」

と意気込み、15時ちょうどに宿に着くように予定していた。

が、今年中学生になった娘は土曜日も学校で、更にその日は終業後に何とか会議(なんだか忘れたが学校内のイベントの打ち合わせ)があるとほざく。

帰ってくるのは16時過ぎだとも。

普通の家なら娘のスケジュールに合わせて家族一緒に動くのだろうが、我が家はそんなに甘くはない。

「では我々(私と妻と息子)は先に行くから、貴様は勝手に来い」

となる。

なお、娘は家から学校まで30分ほど電車に乗って通っているので、電車移動には慣れている。

箱根までのルートとしては、学校から一旦新宿に出て、そこからロマンスカー(特急)に乗って箱根湯本まで。それが一番早い。

交通費は約3,000円。

妻がそれを渡したところ冒頭の会話となった。

娘調べによると、特急に乗らずに急行で行けば40分ほど余計に時間はかかるものの、1,500円ほど「節約」出来るのだと言う。

そしてその余剰金は自動的に彼女の財布におさまる。

中高一貫校に入って一気に世界が広がり、出費も増えているのか、ここ最近「金がない」とぼやくことが多い。

そんな身からすれば「たった40分で1500円」は美味しい仕事なのだろう。

「夕飯に遅れなければ好きにしろ」

と放っておいたが、娘自身は最小コストで箱根を目指す「小さな冒険」が楽しみの様子で、乗り換えアプリで色々と調べていた。

で、当日。

チェックイン早々から、風呂、サウナ、ビールを繰り返す父の詩情は止まらない。

泡片手 山越し月明(げつめい) 娘来ぬ

日が暮れて山越しに煌々と輝く月。ビールを飲みながらそれを眺め、まだ来ぬ娘の身を案ずる。

そんな親の心情がありありと現れているではないか。

が、実際にはまったくそんなことはなく、妻が逐一、スマホの位置情報をチェックしており、順調に目的地に近づいているようだった。

結局、「節約」は成功し小銭をせしめていた。

だがやはり普通列車に2時間揺られるのはケツが痛いこと、途中でスマホの電源が切れて暇で死にそうだったこと、長時間移動にはモバイルバッテリーが必須であることなどを力説していたが、さほどに目新しい話でもなかったので適当に聞き流しておいた。

とは言え、中学一年生にとって、一人で箱根まで来ることはそれなりの「旅」ではある。

自分で何かを決めて行動し、何かを得たのだから良い経験だったのだろう。

ふと物悲しくなった。

これから彼女の行動範囲はどんどん広がり、わずか数年後にはどこにでも一人で行けるように。

そして、その距離は「親離れ」と比例する。

もちろんそれで良い。

うん、それで良い。

嬉しきも 寂しき巣立ちの 予備飛行

家族が寝静まり、部屋備え付けの露天風呂に浸かりながら一人つぶやく。

独り立ちしつつある娘の姿に喜びを感じつつも、そこはかとない寂しさも覚える。

我ながら名句が出来た。

もちろん、どの句もいちいち解説を必要とするあたり、さほどでもない。

そんなことは自分でも分かっているが、抑えきらぬ詩情。

全ては箱根のせい。

まあ、そういうことにしておこう。

本日のコラムでした。

 

 

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12月 13th, 2025 by