ワールドベースボールクラシック(以下、WBC)の開催が目前に控えている。
前回のWBC。
大谷選手が投打に大暴れし、日本に優勝をもたらした興奮は未だに記憶にある。
今回も日本中が注目している。
そんな我らが侍ジャパンは3月5日から東京ドームにて予選に挑む。
しかし、ここに来てあることが水を差しているようだ。
それが「保険問題」
これによって、多くの選手の出場が危ぶまれ、一説には大谷選手が「打者専属」になった要因でもあると言う。
詳細を見てみよう。
大事なキーワードとして「ロースター枠への保険義務」、「保険の審査」、「リスクと保険金」という3つが挙げられる。
・ロースター枠への保険義務
現在、MLBには30の球団があるが、それぞれの球団に「ロースター枠」というものがある。
ロースターには26人枠と40人枠があり、26人枠はその日の試合に実際に出れる人数、40人枠は休養中の選手(投手など)を含めた枠だ。日本で言えば一軍ということになる。
つまり、この40人が「メジャーリーガー」であり、30球団×40人=1,200人が存在することになる。
MLBは世界最高峰のリーグであるため、世界中からトップ選手が集まっているので、WBCのように「国単位」でチームを作ろうとすると、各国の主力の中心はメジャーリーガーになる。
日本でも9名がメジャーから参加している。
つまり、各球団は所属選手を母国のチームに戻さなくてはいけない。
しかし、MLBや球団側から見れば、このイベント(WBC)を手放しで歓迎出来ない側面もある。
有望な選手が怪我をしてしまい、メインのMLBのペナントレースに影響してしまっては元も子もないからだ。
特にWBCは2週間の「短期決戦」であり、更に「国を背負う」という重圧もかかるため、各選手が無理をしやすい。
当然、怪我、故障に繋がるリスクは高くなる。
そのため、MLBは各球団に対し、ロースター枠選手をWBCに派遣する場合には「保険に入ること」を義務付けている。
保険料を支払うのは球団、そして仮にその対象選手が故障した場合、保険会社から保険金が支払われ、当該選手の年棒も保証される。
非常に良いシステムのように思えるが、実際には弊害もある。
それは、保険会社の意向によって「出れない選手が出てくる」ということだ。
・保険の審査
各球団は、MLBと選手会が選定した保険会社とWBCについての交渉を行う。
今回はナショナル・ファイナンシャル・パートナーズ(以下、NFP)という保険会社が保険を引き受けているが、ここの審査基準が物議を醸している。
まず、NFPは選手の故障リスクを「低リスク」、「中程度」、「慢性」の3種に分類しているとのこと。当然、慢性に分類される選手の審査は厳しくなる。
なお、以下が「慢性」に該当する条件だ。
・前シーズンに少なくとも60日間の負傷者リストに登録されていた
・前シーズンの最後の3試合のうち2試合で負傷
・キャリアを通じて少なくとも2回の手術を受けた
・前シーズン終了後に手術を受けた
例えば、18年と23年に右ヒジ手術を受けている大谷選手も「2回の手術」ということで「慢性」扱いになる。
今回のWBCでは「投げない」と公言されているが、「投手をする」場合には、保険が引き受けられないことがその理由だと推測されている。
「打者に専念するならOK」
という保険業界で言うところの「条件付き引受け」だろう。
だが、これらの項目が「絶対か?」と問われると、実はそうでもない。
実際、ツインズのバイロン・バクストン(32歳、米国代表)という選手は、非常に怪我が多く、先の基準で言えば「慢性」に該当するにも関わらず、今回無条件での出場を許可されている。
その背景にあるのが年棒だ。
・リスクと保険金
まず、当たり前の大前提だが、保険会社は営利を目的に保険を販売している。
決して慈善事業ではないので、あくまで、いくら受け取れて(保険料)、いくら払うか?(保険金)そのリスクはどの程度か?という損得勘定だけで動いている。
その上で、先の例を見てみよう。
バイロン・バクストン(32歳、米国代表)の年棒は残り3年で4540万ドル(約72億円)
もの凄い金額だが、超高給揃いのメジャー選手の中では、そこまでではない。
保険会社からすれば「最悪72億円を支払う」可能性があるが、今回のWBC関連の保険はNFPが一社独占で全契約を受けているため、バイロン・バクストン一人だけに絞ってみれば「72億円」のリスクがあるものの、全選手が怪我をすることは確率論として「あり得ない」
そのため、全体から得られる保険料の範囲内に「72億円」が収まるのであれば「受けても良いかな」となる。
ここでもう一人、選手を紹介したい。
プエルトリコチームの主将になるはずだったメッツ所属のフランシスコ・リンドア。
バイロン・バクストンと同じ32歳で、25年のシーズン後にヒジの手術を受けていることから、これもバイロンと同じく「慢性」に該当する。
しかし、リンドアの保険は「引き受け不可」となり、今回、出場を見送った。
もう想像がついているだろうが、彼の年棒は残り6年で2億460万ドル(320億円)
年齢、怪我の状況は同じようでも、支払う可能性がある「保険金(年棒総額)」は4倍強。
流石にここまで高額だと、保険会社が受けられるリスクを超えてしまっているのだろう。
つまり、「怪我+年棒が高い」という条件がそろってしまう選手ほど保険の対象外となり、これが
「一流選手不在で世界一を決めるなんて、WBCは茶番だ!!」
という批判を招いてる。
但し、これらは「リスク許容の限度」という保険の構造的な問題であるため、根本的な解決方法はないようにも思う。
また、各球団に「リスク度外視で出せ!!」と要求するのも無茶な話。
やはり、一人一人が数十、数百億円の価値を持つスーパースターなので、このあたりの事情は極めて複雑だ。
が、今回、こんな小難しい話から離れ、超然とした立場でWBCに参加する選手がいる。
大谷選手の同僚でもあった元ドジャースのクレイトン・カーショー。
MLBで通算223勝を挙げ、サイ・ヤング賞を3度受賞した「レジェンド」が、アメリカチームに参加する。(前回WBCは保険問題で不参加)
既に現役を引退しているため、チームの保障も怪我も考える必要がない「最強の助っ人」だ。
何のしがらみもなく、「一野球人」として参加するWBC。
個人的には侍ジャパン以上に注目している。
本日のコラムでした。
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