鮨と私


いわゆる「鮨会」なるものがある。

有志のメンバーで様々なお寿司屋さんを訪れ、良い店を探すというのがその趣旨だ。

若い頃からいくつか参加させてもらっていたが「鮨探求」は30代前半から中盤の頃がピークだろう。

きっかけは接待で訪れたある有名店。

隣に座っていた女性3人組と意気投合。

そのまま、彼女たちを中心とした「鮨会」に参加させてもらうようになり、なかなか予約が取れないようなお店に連れていってもらった。

ああいうグルメの人たちには何やら特殊なネットワークがあり、どういう伝手なのか「予約困難店」をしょっちゅう貸し切ったりしている。

私自身は何のコネもないのだが、その会の「控えメンバー」的な扱いで「急に一人空いた」というような時に声をかけてもらい、参加させてもらっていた。

何せ自由が利く身。

予約に穴を空けるわけにもいかないあちらからしても便利だったのだろう。

この会のお陰で都内の有名店には随分お邪魔させて頂いた。

ちなみにお勘定は原則割り勘。

ただ、酒の飲む飲まない、また飲む量の差などもあるため、その都度、幹事さんが多少の差をつけていたように思う。

どのお店も高級店ばかりなので、一人2,3万円は当たり前。

一人7万円を超えたこともあり、その時は流石に青ざめたが周囲は「まあ、これくらいするでしょう」と平然としている。

だが30代に入り、完全成果主義の外資系で「小金持ち」になっていた私が、好奇心に任せるまま色々なお店にお邪魔するという体験は本当に楽しかった。

しかも、当時行ったお店は今では1.5倍から2倍くらいに値上がりしているので、そう思えば随分安い時期に行けていたようにも思う。

しかし、ある時期からピタッと行かなくなる。

1つは娘が生まれたこと。もう一つは独立して自分で会社をはじめたこと。

引き続き接待などでこれらのお店に行くことはあったが、単に好奇心・探求心だけで「お店開拓」をするような余裕もなくなっていたし、多少飽きてきたのかもしれない。

高級店と言われるお店は当たり前だがどこでも旨い。

あとは「合う、合わない」だけの世界であり、既に「肌が合う」お店は数軒あったので、これ以上探したところで意味がないようにも思われたのだ。

むしろ、ミーハーに有名店ばかりを「流す」より、馴染みのお店を深堀りしていく方が格好良い気もした。

要は落ち着いたということだろう。

但し、この時期の「お店巡り」は後々、大変な財産になる。

お金持ちは基本的にグルメだ。

特にお寿司が好きな人が多い。

そういう方々とお話をする際に「〇〇に行ったことがある」という体験は非常に有効で、それだけで話題が広がるし、「こいつはそういうところに出入りできる奴なんだな」という一定の評価も得られる。

人生何事も無駄にはならないものだ。

で、現在。

今も2つの「鮨会」のメンバーではある。

しかし、昔のように毎月というような感じでもなく、年に2.3回、下手をすれば年1になってしまうこともある。

メンバーも歳を重ね、私と同様に新しいお店を探す意欲がなくなっているのだろう。

また、悲しいことに、どんな素晴らしいお店に行っても「過去のこの店の味」を超えられないのだ。

私で言えば溜池山王の「S」という店だ。

古い雑居ビルの1階に店を構え、6,7席しかない、しかも席と席の間に全く余裕がないような極狭な寿司屋だったが、その後ミシュラン3つ星をとった名店だ。

何の前情報もなく、当時の職場の先輩と入ったのだが、あまりの旨さに度肝を抜かれた。

当時、「鮨巡り」をしていた中でも「別格」だった。

もちろん現在はどのお店もレベルが上がっているので、味だけを比べれば今は同レベルのお店もあるのだと思う。

しかし、好奇心と感受性にあふれ、ようやく金を稼げるようになった30代の私が自分の金で食う高級鮨の「感動」は格別で、結局はこれを超えられない。

今、Sに行ったとしてもおそらく同じ感動はないだろう。

「思い出の味に勝るものなし」

私の鮨の師匠に当たる人がそう言っていたが、まさにその通りだ。

何だか切ない話になってきた・・・

が、そうでもない。

今でも仕事で高い店にも行くが、むしろ子供たちと行くスシローなんかに感動したりもする。

「よくこの値段で出せるな」

「この組み合わせ、意外と合うな」

などなど。

またyoutbeを見ながら自分で握ったりもしているが、これも手前味噌ながら結構いける。

なんせ高級店の見聞が豊富だから「それ風」には出来るわけで、もちろん味は天と地ほどの差があるが、値段は1/10程度であり満足度は高い。

やはり鮨の世界は深い。

ああ、今日の夜は鮨だなぁ・・・・

本日のコラムでした。

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします


3月 25th, 2026 by