ヤクザと保険 入れるのは〇〇保険だけ?・・・


「自分の夫(もしくは兄弟、友人)がヤクザなのだが保険に入れるのか?」

この業界にいると、そんな相談を受けることがある。

結論としては「絶対ムリ」としか言いようがないが、なかなかはっきりも言えず「うーん」と渋い顔をしていると、

「ヤクザと言っても組織に所属しているだけで普段は真面目に働いている」

と補足されるのだが、いやいやその「組織」が問題なんですよ。と言いたいのと、文脈的に「普段以外」のことが気になる。

話を伺うと、その稼業でおられる以上はそれなりに非合法な活動もあるようで、その部分はここで書けるような話ではないので割愛させて頂く。



2010年近辺に各都道府県で制定された暴力団排除条例が始まってから、生保、損保ともに暴力団関係者の加入には一際厳しくなった。

以前からダメではあったが、あくまで現場の営業の判断に任されていた部分が多く、何となくごまかして加入していたケースもあったが、近年では保険会社の本部で厳重にチェックされている。

その仕組みはこうだ。

警察庁が提供している

「反社会的勢力のデータベース」

というものがあり、各保険会社のシステムがそれに連携している。

それに引っかかると申し込みをした時点でアラートがあがり、加入することが出来ない。

そのデータベースには現在、約4万人いるとされる暴力団関係者だけでなく、「元暴力団」や協力者、協力企業などの情報も載っているそうで、営業マンが本当に何も知らなくて申し込みを入れて、それに引っかかることが稀にある。

特に建設業界には若い頃その世界で「修行」された方もいて、聞けば20年も、30年も前の話だそうだが、それでもこのリストに名が残っていて「ダメ」となることがあり、それが経営者本人であれば、「まあ、仕方ないね」で済むことが多い。

ご本人としても自分の過去のことだし、このリストによって受ける弊害は何も保険だけではないだろうから、ある程度諦めているのだろう。

しかし、退職金積立などの「全社員が対象」の保険で、一社員がこのリストに適合してしまうとなかなか厄介である。

経営者もその人の過去を全て知っていて受け入れている場合もあるが、そうでないこともある。

「〇〇さんだけ入れません。」

と言えば、「何で?」となるが、その理由を正直に伝えれば知られたくない過去を暴露することになるし、最悪解雇になってしまうことも想定できる。

基本的には、該当した方と相談して対応するしかない。



しかし、生命保険の場合はまだ良い。

入れないで困るのは本人と家族くらいだし、そもそも自己責任なのだから仕方がない。

深刻なのは損害保険。

生保は昔から反社に厳しいが、損保はそこまでではなかった。

しかし、流れが変わったのが今から5年前の2013年。

ほぼ全ての損保が「反社契約はNG」という指針を出したのだが、それが大問題を引き起こした。

その理由は「自動車保険」

生保同様、損保も先に述べたデータベースを利用しているが、それらにひっかかると自動車保険にも入れず、必然的に無保険の状態で走ることになる。

日本全国に数万台はあるであろう、ヤクザが運転する無保険車。

仮にそんな車にぶつけられたり、はねられたりしたら・・・

怖い。怖すぎる。

無保険車だけでも厄介なのに、運転席から出てきたのはヤクザ。



車の物損や、最悪死亡したり、重度の障害を負った場合の数千万円の賠償金の支払いに素直に応じるのだろうか?

まず難しいだろう。

調べてみると、障害を負わされ「賠償金7,000万円」のところ、その支払いに一切応じないどころか、逆に「取れるもんなら取ってみろ」と脅されたという事例もあり、結局は泣き寝入り。

そんなことが増えてしまった。

そこで、わずか1年あまりで方針を急転換し「自動車保険だけOK」ということとなる。

これに対しては金融庁も文句を言わなかったそうだ。

とは言え、対応は会社ごとに異なり、やんわりと断る会社もあるが、何社かは受けているのが現状。

と言うことで、現状ではヤクザが入れるのは自動車保険だけ。ということになる。

金融機関として反社会的な勢力とは契約しない。という態度は立派だが、その結果は「無保険車」を増やしただけで、それが一般人に飛び火してしまう。

社会インフラの一つである保険会社。

コンプライアンスを守りながら、社会的責務を果たすことの難しさを感じる例だと感じる。

本日のコラムでした。


 

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7月 21st, 2018 by