何とも不思議な医局の世界


保険のセールスという仕事は様々な職業の方にお会いする。

その打ち合わせで職場にお伺いするのだが、先方の職業によっては、普段は入れないところに立ち入れることは、この仕事の醍醐味の一つと言える。

ラーメン屋さんの仕込み時間、鶏がらや豚骨の山に囲まれての商談や、家具職人さんの工場で、木材をカットする轟音と木くずが舞う中で大声張り上げる商談などは良い思い出。

一流企業のまるでカフェのような打ち合わせスペースや食堂などを見ると、そのしゃれおつ感に圧倒されてしまう。




しかし、その中でもダントツで面白いのは大学病院の「医局」

弊社はドクターのお客様が多いため、昔は頻繁に医局に出入りしていた。

医師には口の悪い方が多く、私の顔を見ると、

「おお、保険屋、また『ぼったくり』にきたのか?」

などと言われるが、言葉とは裏腹にその顔は笑っていて、保険だけでなく税金や家の購入、更には若いドクターの結婚相手の相談までされる。

とにかく忙しい仕事なので、プライベートのことは疎かになっていることが多く、とりあえず何でも答えてくれる「便利屋」ような存在は重宝されるのだろう。

大学の医局と言うと、山崎豊子先生の名作「白い巨塔」を思い出す方もいるかもしれない。

しかし、話を伺うと、そんな時代も今は昔。

自分たちの「科」とその系列病院を支配していた教授も、今ではそれほどの権力があるわけではない。

また、「医師の役得」とも言える、製薬メーカーからの「接待」も数年前に製薬各社が足並みを揃えて、

「原則禁止」

となったため、今では勉強会の高級弁当が関の山らしい。

「冬の時代だ」

古き良き時代を知る、あるドクターがそんなことを言っていたが、流石の医療業界もコンプライアンスとは無縁ではない。



さて、そんな医局。

中に入ると各ドクターの机がズラッと並んでいて、率直な感想で言えばかなり雑然としている。

なお、各机はびっくりするくらい小さい。

これはどこの大学でも似たようなもので、その理由は「知らん。昔からそうだ。」とのこと。

ちょっとしたIT企業の方がよっぽど快適で、イメージで言えば図書館の自習机がズラッと並んでいるような感じ。

とは言っても、ほとんどが臨床現場に出ているので、机に向かっているドクターはチラホラしかない上、その数人が結構な割合で「寝ている」

これが普通の会社では考えられない。

基本的には勤務時間などあってないようなものなので、

「寝れるうちに寝とけ。食えるうちに食っておけ」

という文化なのだろう。

但し「科」にもよるようで、原則昼間の勤務しかない耳鼻科や眼科などではマナーには意外とうるさいとのこと。




その奥に中堅以上の「偉い先生」の大きめのブースがある。このあたりは企業と同じだが、それでも随分と小ぶりなブースであることが多い。

流石に教授にだけは個室が与えられいるが、昔は相当豪華だったそれも、今はどこの病院でも経費節減でどんどん簡素になっているそう。

命を救う最前線だけあって、質実剛健そのものだが、その雰囲気はやはり普通の会社とはかなり違うのである。

そして医局で最も目を引くのが、医局の入口や廊下にずらっと並ぶ

製薬会社のMRさん

通りかかる先生を掴まえ、自社の薬を売り込むのだが、その機会が来るまでひたすら立ち尽くす。一応はベンチもあるのだが、そこに座っているMRさんを見たことがない。

会社に戻れば地位が高いであろう中年の方が、若い研修医に恭しく頭を下げるているところを見ると、未だに「白い巨塔の世界」が続いているような錯覚を起こす。

初めてこれを見た時はかなり面喰った。




このように一般社会とは隔絶された感のある医局だが、

やっぱり医師って大変な仕事だな

と思うことも少なくない。

過去にたった一度だけだが、商談中にそのドクターの担当患者の容態が急変したことがあった。

もちろん商談は中止。

「悪いが、また今度」

と言われ、携帯で口早に治療の指示を下しながら医局を去っていった。

その後を若い数人のドクターが追う。

まるでドラマのワンシーンのようで、思わず見とれてしまった。

時間は夜9時すぎ。

その後、緊急手術となり、帰宅したのは日付を大きく超えた頃だったそうで、やはり生半可な仕事ではない。



大学病院の医師の年収は1,000万円~1,500万円ほど。

世の中的には高収入だが、勤務時間もべらぼうに長く、他人様の命の責任まで負わされる。

拘束時間、責任、お金。

そのバランスで考えれば「医局の医師」は率直に言って効率の良い仕事とは思えない。

「お金だけなら民間の病院か、自分で開業する方が良い」

そう皆が口を揃える。

当直も少ないし、切羽詰った状況もない。

それでいて、医局より高収入が約束されているので、ワークバランスは格段に良い。

それでも「大学の医局」に残るドクターは多い。

医師という職業を選んだ以上、医療の最前線で研鑽を積みたい。

そんな向上心や、使命感なのだろう。

そのような背景があるため、

「卒業後、医局に何年いたかで、そのドクターの実力がある程度わかる」

とおっしゃる方が多い。

もちろん、実力を測る物差しはこれだけではないだろうし、民間病院や海外などで経験を積む方もいるので一概には言えないが、国内において難しい症例や、珍しい症例が集まるのはやっぱり「大学病院の医局だ」ということなのだろう。

命を救う現場でありながら、学校、研究機関でもあり、「権威」が渦巻いている。

大学の医局は何とも不思議な世界である。

本日のコラムでした。



 

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4月 19th, 2019 by