妊婦加算批判の「じゃない感」


妊婦が病院を受診した際、

「より丁寧な診察を行うため、特別の配慮が必要」

という目的のために導入された「妊婦加算制度」ですが、昨日、厚労省が正式に凍結を決定しました。実質的には廃止ということでしょう。

元々はツイッターなどで「妊婦税だ!!」などの批判が広がり、これに敏感に反応した自民党厚生労働部会の提言から今回の結末となりました。

厚生労働部会の会長に就任して早々、これらの問題提起をしたのが小泉進次郎氏です。

「流石!!」

と思う反面、性格の悪い私などは

「随分と細かいところを突いてきたな(笑)」

という気もしなくもありません。



ここで、いきなり話が脱線しますが「乳幼児加算」ってご存知ですか?

小さな子供が病院で診療を受けた際に加算されるもので、その趣旨は

「小さな子供の診療には、特別な配慮が必要」

というもので、まるで妊婦加算と同じ発想。

しかし、これが問題になることはありません。

何故なら多くの自治体で子供の医療費は無料であるため、患者側の負担はゼロ。

そのため、親御さんによってはその存在すら知らない方もいらっしゃいます。

要は「お金を払わないから気にならない」ということです。

今回、妊婦加算が火を噴いたのは、わずか数百円であっても「自分が負担するから」であり、例えばこれも自治体が助成する(患者負担ゼロ)のであれば全く問題にならなかったのではないでしょうか?

むしろ、乳幼児加算と同じように、

「妊婦は社会全体で大事にしないといけないからね。加算も仕方ないでしょう。」

という感想を持つ方の方が多かったのではと思います。



また、病院側の視点に立つと、また違った景色が見えてきます。

例えば自分が医者だとして、風邪の患者を診察する。

自分の症状を明確に伝え、注射にも動じない大人と、ぐずりまくって、注射に泣き叫ぶ子供、しかも横には心配そうに我が子を見守るお母さん。中にはヒステリー気味の人もいる。

どちらを診たいですか?

当然、前者でしょう。

「医者である以上、どんな患者でもちゃんと見るべき」

それはその通りなのですが、少々綺麗ごとが過ぎます。彼らもビジネスです。

病院側の本音としては「子供は手間がかかる分、少しは割り増して欲しい」と思うのは自然なことで、そのための乳幼児加算です。

注:実際に「乳幼児は加算が美味しいから頑張るぜ!!」というような卑しい医師はいないでしょうし、そこまでの加算でもありませんが、あくまで考え方として。

それと同じように、妊婦にも気を使います。

レントゲンやCTなども控えないといけませんし、薬の種類にも気を使う。

だからこその妊婦加算なのです。

「ちゃんと診てくれるなら数百円くらいは良いのでは?」

私などはそう思います。

マスコミがあたかも妊婦加算の問題点のように指摘する眼科のコンタクト処方。

確かに妊婦とは関係ないと思いますが、それは今後、加算の対象をしっかりと限定していけば良いだけの話。また、制度が続いていけば、助成する自治体も増えてきたのではないでしょうか。

「妊婦の診療をより丁寧に」

という主旨は間違っていないのに、今回の騒動で「また厚労省がおかしなことを言っている」、「医療現場が妊婦を食い物にしている」というイメージがついてしまいました。

何事も勧善懲悪の構図にして、世論を味方につける。

お父様が得意なやり方でしたが、進次郎さんも似てきたな。と思ってしまうのです。



ところで、この妊婦加算。

弊社のお客様で現在妊娠中の方もおりますが、実際のところ、そこまで怒っている方にはお会いしたことがありません。

「ひどい話だよねぇ」

という程度で、知らない方も多い。

それよりは、

・産休中に給与が2/3になること

・出生前診断など自費の検査が多いこと

などなど、数万円、数十万円のお金の問題の方が大きく、今回の件に関しても、

「妊婦加算の数百円もダメなんだけどさぁ・・・そうじゃないんだよ」

という「じゃない感」が強いのです。

そんな枝葉の話じゃなくてもっと本丸を。というのが、多くの妊婦の本音では?とも思います。

FPとして色々な方のお話を伺うに、世の中で言われているほど

「お金がかかるから出産しない」

という人は多くないように思いますが、とは言え、出産というイベントが家計にとって確実に「マイナス」であることは事実。

少子高齢化を本気で解決するなら、少なくとも「マイナス」から「プラスマイナスゼロ」に近づけないとダメでしょう。

数百円の負担を解消することも政治家の大切な仕事なのかもしれませんが、同時に制度も潰してしまいました。

本来なら、制度スタート時から、妊婦加算の対象となる診療を限定し、自治体に助成を促す。もしくは「制度のお試し期間」として、全額国費で負担する。(そんなことが出来るのか分かりませんが)

このような対策をとって制度を導入するべきで、それを監督するのが政治家の仕事だと思うのですが、まあ、そういう地味な仕事は目立たないですからね。

対して、制度の不備をついて責めるのは簡単。

その点からも「じゃないんだよなぁ」と呟いてしまうのです。

本日のコラムでした。


 

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12月 15th, 2018 by